【ダンジョンに侵入しました】
【『誘い惑わす村』 難度:5】
「……夜、か」
ダンジョンに侵入し、周囲を見渡す。外では昼間だったはずだが、どうやらダンジョンの内部のみが夜になっているようで。
【土漠】にあった、ということを考えなければ一見普通の村にしか見えない光景がそこには広がっていた。
足元はいつの間にか普通の地面や、ところどころに雑草だったり花だったりが生えていたり。
周囲には人が住んでいそうな家が建てられており、それらについている窓にはそれぞれ明かりが灯っている。
……面倒なタイプかな?
このArseareというゲームにおけるダンジョンは基本的に敵性モブを倒し、罠を搔い潜り。
そして宝を探しつつ、奥や徘徊しているボスを倒すものだ。
しかしながら、最近の掲示板では一風変わったダンジョンが登場し始めたという書き込みが数多く、それも最前線……私達が現在いる【土漠】に相当するエリアに存在するダンジョンに挑む者たちから寄せられていた。
1人は入ると同時に転移させられクイズを受けさせられたり。
また1人は徐々に強くなっていく相手と1対1を行わされたり。
他にもカジノのようなダンジョンや、今までのようなダンジョンが発見されているとのこと。
ここから考えられるのは、ダンジョンにも種類がある、ということだ。
私の管理する『惑い霧の森』や、今まで挑んできたダンジョンが仮称『ベーシックダンジョン』とするのであれば、【土漠】などで見つかり始めている様々なダンジョンは仮称『アドバンスダンジョン』……1段階難易度が上がったダンジョンだと考えるべきなのだろう。
「……近づいてくるのは?」
「いないわね。村系のダンジョンのボスは大抵村長……一番大きい家にいることが多いわ。今のうちに一気に進んだ方がいいかも」
「了解、メウラ一応ゴーレム何体かお願い」
「了解」
近づいてくる者がいない。それどころか、何か生き物がいるような音すらもしていない。
どこかの罠が大量にあったダンジョンならば兎も角として、この一見すると罠が全くないように見える村の中で敵がいない、というのは逆に警戒を強めてしまう。
私はインベントリ内から煙管を取り出し、口に咥える。
息を吹くように吐くことで中に仕込まれた魔術言語によって煙の代わりに霧が発生し始めた。
「煙、じゃないわね。霧?」
「えぇ……あ、すいません。私の魔術の都合上霧は少なくとも私の周囲に発生させておかないとなんで」
「いいわよ。別にこれは私に害があるものじゃないし」
指摘され、以前グリムが霧を苦手としている事を思い出し謝罪する。
いつものように周囲へと展開しようかと思っていたが、今回は止め私の周りだけに留まるように霧を操作した。
最低限、魔術の発動条件である『霧の中にいる』を満たすことができればいいためそこまで量はいらない。
まぁ戦闘になったとき、敵の視線を妨害するために霧が必要になる時もあるだろうが、その時になったら魔術言語や狐面を使って増やせばいいだけだ。そこまで手間でもない。
暫く夜の村の中を歩いていくと。
大きな広場のような場所へと出ることができた。
そして、そこには多くの人間らしき生き物が集まっていた。
「……これは……」
「しっ!……何か始まるわ」
グリムに口を手で覆われ、無理やりに声を抑えられたその瞬間。
それは始まった。
『おぉ、おぉ……またも犠牲者が出てしまった!』
『一体何人目なんだ!いつになったら犯人は……
『占い師は死んだ!狩人も死んだ!残るは私達村人と、いつも寝てばかりの霊能者のみ!』
『あぁ、どこかにこの村のどこかに隠れ潜む人狼を退治してくれる勇気ある者はいないものか!』
『疑わしきは罰せ!隣人を密告せよ!』
『おい、最近村に訪れた者はどこへ行った?思えばあの者達が訪れてからではないか、人狼が現れだしたのは!』
声が広場に木霊する。
『この村に不幸が降りかかっているのも、その余所者達のせいではないのか!?』
『余所者を探せ!余所者を探せ!』
今まで静かだった村が、広場の声により熱を帯びたかのように活気づいていく。
『余所者を探し、殺すのだ!そうすればこの村は救われる!元の平和な村へと戻るのだ!』
『殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!』
『……おい!そこにいるのは誰だ!?』
やがて、私達の方へと集まっていた人間らしき生き物達が振り向いた。
体は人間の形をしているそれは、顔が狼で。
服を着てはいるものの、肌が見えるはずの部分からは黒い毛が見えていた。
彼らの頭の上には、彼らの名前が表示される。
『ディシブワーウルフ』……惑わしの人狼。
「戦闘開始ッ!」
「こういうのは聞いてないのだけどね……」
「だぁああ!大量の敵相手はつらいんだが!?」
三者三様の反応を返しつつ。
こちらへと飛び掛かって襲い掛かってくる人狼達へと対応するために武器を構えた。
ダンジョンに侵入して初の戦闘開始だ。