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Chapter4 - Episode 28


「ここでいいかしら?」

「いいんじゃないですか?特性は……メウラ知ってる?」

「知らねぇな。グリムさんは?」

「知らないわね……少し調べてみましょうか」


暫くして。

【ジャレス】がある1つのダンジョンへの入り口を発見した。

一見すると村の入り口のように見えるものの、中に入らずに村を見ようとするとどこか蜃気楼がかかったかのように風景が揺らいでしまう。

それにまともな知識はないものの、私達が現在いるのは【土漠】。こんなところに村なんてまともに興せるとは思えない。


「あぁ、あったわね。『誘い惑わす村』……大体座標的にもこれでしょう。どうする?特性的には美味しいとは言えないけれど」


『誘い惑わす』というダンジョンの特性。

それは文字通り、プレイヤーに対して【魅了】や【幻覚】などといった状態異常を付与してくる敵性モブが多く出現することを示している。

また、それに関係する罠なども存在しているため、対策などを講じない限りは挑むのが面倒な特性として知られていた。


そして以前にもメウラと共に挑んだことのある『村』という特性。

これは単純に、出現するモブが人型に限られ家などといった建物がダンジョン内に多く設置されるという特性なのだが……これがまた面倒臭い。

『死病蔓延る村』では、出てくるモブがアンデッド系統になっていたため、そこまで面倒ではなかったがこのダンジョンではそうではない。

アンデッドとそれ以外のモブの違いが明確に存在しているのか、と言われれば……存在していると答えるしかないだろう。


アンデッド系のモブは基本的に視界や聴覚を封じる程度でしか動きを止めることは出来ない。

他のモブと違い、四肢を捥いだとしても止まることはなく完全に行動停止させなければ光となって消えていかないのが悪いところだ。

しかしながら、その分考えなしにこちらへと走ってきてくれるため、対処自体もしやすいというのが本音ではある。


しかしながら、普通のモブは違う。

一定のルーティンはあるものの、その場その場でAIが考え行動を行いこちらを襲ってくる。

モブによっては罠を使ったり、群れで動いたりなどもするだろう。

人型はそういったものが顕著に表れる。

罠を仕掛ける者はこちらから見えないようにしっかりとカモフラージュした上で設置するし、攻撃役も他のモブとは違い前衛後衛に分かれ隊列を組んでくることも少なくはない。


「まぁ面倒といえば面倒でしょうけど……攻略されてない、攻略中でないってダンジョンを探すならここくらいじゃないです?結構他にもあるでしょうけど、流石にここは避けるでしょうし」

「人型と【魅了】やらの組み合わせだもんな……俺も問題ない」

「じゃあここにしましょうか……と、忘れてたわ。入る前に私の魔術の説明しとかないと」

「説明、ですか?いいんです?」

「いいも何も、多分しておかないと事故が起こるから」


彼女が主に使う黒い気体を発生させ操る魔術。

私の霧のように装備などで発生させているわけではないため、維持などにMPがかかるものの。

イベント中に見た効果を考えると、維持以外にもコストが掛かっていそうな魔術だ。


「【黒死斑の靄モラテネラ】……まぁ簡単に言えば、MPを吸収する靄を発生させて操ることができる魔術ね。ちなみに敵味方、自己他人関係なく対象になるわ」

「自分も対象……成程、それは確かに周りに教えておかないと面倒なことになりますね」


靄といっても結局の所、気体。

私やメウラは習得していないものの、風を操り攻撃を行う魔術を習得しているプレイヤーは少なくはない。

バトロワイベント後に以前よりも増えたとも聞いている。なぜなのかは知らないが。

私は全く関係ないと信じているが。


それに自分に効く、ということはパーティメンバーにも関係なく効果が発揮されてしまうということだろう。

後衛のメウラは兎も角、私は前衛だ。

それを考えると確実にその効果、それによる影響は知っておいた方がいい。


「MPを吸収すると、その部位がなくなった感じにはなるのだけど……アリアドネは知ってるわよね?」

「えぇ。カウボーイさん突っ込ませたの私なんで」

「貴女だったの……えぇ……いやまぁ、MPを吸収しすぎると【気絶】っていうデバフが付与されちゃって動けなくなるのよ。プレイヤー相手だと腕1本で付与されるわね」

「なるほど……」


どうやら私があの時にやった行動は所謂正解だったようで。

上半身を吸収させる必要はなかったものの、結果としては同じ結果を引き出せたためによかったようだ。


「前衛なんで気を付けておきます」

「えぇ、こっちでもなんとかするけど、弾き飛ばされたりしたらどうにもならないから……」

「いざとなったら血か霧で何とかするんで」

「貴女一体私に何を吸わせる気?」


戦慄したかのような目でこちらを見てくるグリムに、にっこりと笑いかける。

ただちょっと狐の形をしているだけの血の塊や霧の塊を吸わせるだけで、他意は全くないというのに。困った人だ。


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