「よし、確認しておくかぁ……」
とりあえずで等級強化の終わった【挑発】の詳細を開き、確認していく。
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【
種別:補助
等級:中級
行使:発声、
制限:【対象にとれる数が10体までとなる】
効果:この魔術の『起動方法』の効果範囲内にいる敵対者のターゲットを自身へと強制的に向ける
自身を含めた範囲内の味方に対してダメージ増加効果を
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……予想以上に強化されてるなぁ。
今回【挑発】に施した制限は、その対象にとれる数の上限。
10体までに制限することで、私が対応できる……ようになるかもしれない数だけを集めることができるようになった。
勿論今までも格下ならば問題なく対処できていたため、これから挑むことが増えるであろう格上や同格相手用の制限だ。
正直これはこれで強化といってもいいかもしれない。
しかし、今回見るべきはそこではない。
中級へと強化されたからか増えた効果の部分だ。
「ダメージ増加効果……ってのがどれくらいのかはわからないけど……」
味方にバフをほぼ無条件に撒ける、というのは強みだろう。
その分私が生き残るように立ち回らなければならないものの、下手にすぐ死ぬ気もない。
未設定となっている起動方法を『大きく手を叩く』モーションに設定し、一度試すように近くでこちらへと視線を向けている『白霧の森狐』へと使ってみた。
バチン、という大きな音に一瞬怯んだように見えたものの。次の瞬間、淡い黄色の光が『白霧の森狐』の体を包みこむ。
『……む。これは強化か』
「うん、どう?」
『そこまで強くないが、まぁいいのではないか。元よりこれを付与するための魔術ではないのだろう?』
「まぁね。よし、じゃあ後で森の方でも使ってみるかぁ」
……ていうか、私の認識で味方かどうかを判別してるのかな。一応ボスなはずの狐にもかかったってことは。
信用できない相手に無意識のうちにバフをかけない、なんてこともあり得てしまいそうだ。
まぁ、そもそもとして信用できない相手とパーティを組んだり、一緒に戦ったりなんてことはしないため良いのだが。
その後一度『白霧の森狐』に対して礼を言った後に、私はボスエリアから『惑い霧の森』の普通のエリアへと移動し、少しの間狩りを続けた。
数日後。
私はメウラとグリムを伴って【土漠】へと訪れていた。
「今日はよろしくね」
「こちらこそ。とりあえずダンジョン探すところからです?」
「まぁそうなるわね」
最前線のダンジョン、その攻略をしようと以前から話していたのを今回実行に移したのだ。
といっても、だ。
こうして私達が共にパーティとして行動するのはこれが初。
イベントで戦闘をしたことはあるものの、グリムとの戦闘は正直戦闘と数えていいものかは首を傾げざるを得ない。
「一応言っておくと、私は索敵系の魔術とかはないです」
「俺もだな……グリムさんは?」
「ないわけじゃないわ。アリアドネなら分かるんじゃない?」
そう言われ、1つ思い出す。
彼女がバトルロイヤルで行使していた魔術は黒い気体の魔術だけではなかったことを。
「百聞は一見に如かず。実際に見せましょうか……来なさい【ジャレス】」
彼女がそう言った瞬間、足元の影からぬるりと盛り上がるようにグリムの腰ほどまである人影が出現する。
ある程度形が整うと、それに徐々に色が付き……所謂ゴブリンと呼ばれる小鬼の姿へと変貌した。
……最近、ゴブリンに縁があるなぁ。
以前にも見たそのゴブリン。
しかしながら以前よりも体がしっかりとしており、背丈も伸びている。
恐らくは等級強化を施されているのだろう。
「これは【ジャレス】……まぁ、ゴブリンを呼び出す魔術よ。簡単な索敵なんかもできる良い使い魔よ」
「へぇ、ジャレス……名前の割には見た目はゴブリンなんですね」
「あら知ってるのね。流石に人を作り出すなんてのは難しいから。……等級強化でなんとかなったりするのかしら」
ジャレスといえば、ある映画に登場するゴブリンのキャラクターだ。
その映画の中ではハンサムな金髪の男性の姿をしているために、名前を聞いて納得するとともに少しばかりの疑問を抱いてしまったのだ。
「んん……?元ネタがあるのか?」
「あぁ、メウラは知らないのね。まぁ映画で調べれば多分出るわよ?そこまで有名な映画じゃないかもだけど」
「むしろ元ネタのことをアリアドネが知っていたことに私は驚いているのだけど……まぁいいわ。ジャレス、攻略されてないダンジョンを探して頂戴」
グリムがそう言うと同時、ジャレスが首を縦に振り周囲を見渡し始めた。
言われた通りダンジョンを探しているのだろう。
誰にも攻略されていないダンジョン、というと少し難しそうな条件に聞こえるかもしれないが、幸いここは現在のArseareの最前線。
探せば幾らでも未攻略のダンジョンくらいは見つかることだろう。