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Chapter4 - Episode 26


その後、劣化ボスエリアから出て適当にダンジョン内のモブを狩った後に私は『惑い霧の森』へと戻ることにした。

等級強化をするにしても、した後の【挑発】の性能を確認するにしてもダンジョン内は便利なのだ。

モブは出るわ、ボスエリアならば自分の許可がないプレイヤーは入ってこられないわで情報を秘密にしたい場合では他に選択肢がない程度には良い。


それに私の場合は『白霧の森狐』という、意志疎通が容易なボスまでいるのだ。

意見を聞け、そして外にその内容を漏らさない存在というのは中々に得られるものではない。


「というわけで。等級強化をするわけなんだけど」

『……狐の女子の中で、我の立ち位置が便利屋程度まで落ちてはないか?』

「えっ、違うの?お助けキャラ程度だと思ってたけど」

『……何も言うまい』


『白霧の森狐』が何かを言いたそうな顔をしていたが、どうやら自分の中で無理やり納得したらしい。

私はそれに首を傾げながら、魔術の一覧を呼び出し【挑発】の等級強化を選択する。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【挑発】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『咆哮狼の喉』、『煽兎の尻尾』が規定数必要となります……規定数を満たしていません:『咆哮狼の喉』】

【『咆哮狼の喉』が上位素材『反響鬼の喉』に置き換えられました】

【【挑発】の強化を開始します】


予想した通りに素材の入れ替えが発生し、等級強化が開始された。

いつものように『追記の羽ペン』が出現し私のHPも削れていく。

が、まぁここまでは正直どうでもいいのだ。問題はここからで。


「うわぁ、予想以上に変なことになってるなぁ」


共に出現した『白紙の魔導書』はどういうことか、変な紫色のオーラを纏っていた。

よくよく見てみると、そのオーラは【挑発】の魔術の詳細が書かれているページの文字にも纏わりつくように発生しており、一部はそのオーラによって文字自体が変化したような形跡が見られた。

恐らく、ではなく。確実にこれが『カルマ値』による悪性変異の影響だろう。


……このオーラって、羽ペンで触ってもなんもないのかな。

思い、羽ペンの先で突っつくように触れてみたものの、特にこちらに何かをしてくるようなものではないらしく、特に何かを触れたような感覚はなかった。


「ねぇ、これってあんたの浄化で祓えたりする?」

『無理だな。狐の女子の目にどう映っているのかはわからぬが、我からすると特にそれから悪い物を感じない。浄化の対象にはならないだろうよ』

「……これも『カルマ値』の影響って奴……?面倒ねぇ」


魔導書自体は見えているが、肝心のオーラ自体が見えないらしく。

『白霧の森狐』の浄化能力に頼ることは出来ないようだった。

……『言語の魔術書』にも改変の仕方は載ってたけど、オーラの除去なんてのは載ってなかった記憶があるのよねぇ。

実際、そんなものが載っているのであれば、『白霧の森狐』をわざわざ呼び出さずに適当に自分のみでやっていたことだろう。


ともあれ、『追記の羽ペン』を使えば文字自体は消せるようだし、書き込みもできるようだ。

ならばと変異してしまっている部分の文字を思い切って消しては変更していく。

元の文章に戻るように。それ以上は望まず、それ以下にならないようにだけ注意しながら。


「おぉっと、カウンター搭載とはやるじゃん」


しかしながら、オーラの方もただ纏わりついているだけではないようで。

私が文字を改変し始めると同時、『追記の羽ペン』を持つ腕に纏わりつきHPをじわじわと減らし始めた。元より血を流しながら行う等級強化。

HPの回復手段自体は用意しているものの、こうなってくると話は別だ。


インベントリ内から未だきちんと装備アイテム化していないシギルを取り出し起動する。

もちろん発動させるのは継続回復効果のあるシギルだ。

それ以外を使う意味は薄いし、これ以上に今私の手持ちの中で意識をせずともHPを回復してくれるアイテムも存在しない。


「よし……回復の方が多めかな。問題なさそう」


HPの増減をみて問題ないことを判断した後、作業を続行していく。

『行使者に状態異常を付与』という文章に変化している一部分を消し、新たに『行使者に強化効果を付与』という文章に変化させる。

『行使時にHPを割合消費』という文章を、『行使時、行使者のレベルに応じたHPを消費』に変化させる。

【挑発】の能力自体は元々そこまで使ってはいなかったものの優秀だ。

なんせ、私の声が届く範囲であるならば敵が勝手に集まってきてくれるのだから、狩りやレベリングをしたい場合には最適となりうる。


悪性変異によって効果内容に『【狂化】を付与』なんて文章も追加されてしまっているものの、これ自体は弄らない。

元より【挑発】に掛かった敵性モブはそれらしい状態になってはいたのだ。それが明文化されたというだけだろう。


「よし、こんなもんかな」


最後に今回の等級強化によって【挑発】に加える制限を書き足し、システムからの確認を承認した。

悪性変異による影響は……特になく。等級強化が無事に終わると共に腕と魔導書に纏わりついていた紫色のオーラは天に召されたかのように消えていった。

……呆気ない、けど。多分まだ症状が軽かったからだよねぇ。あれ。


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