……出来たッ!
何度か『反響の小鬼王』の衝撃波や、ゴブリン達の襲撃を防ぎつつ、約5分ほど。
いつも以上に慎重に、尚且つ移動しながらだったからか時間が掛かってしまったが、魔術言語の構築が完了した。
キザイア戦と同じように、しかしながら『言語の魔術書』を読んだことで効率的に組めるようになった円形の魔法陣のように構築された魔術言語は、『雑氷』と比べると少し大きくなってしまっている。
上手くいけばゴブリン達を一網打尽に、そして『反響の小鬼王』にも少なくはないダメージを与えることが出来るであろう攻撃。
ダメージ自体は【血液感染】によってちょくちょく与えていたものの、魔術言語の構築に集中していたおかげでその効果も切れてしまっている。
その構築したものの名前を口に出す時、少し考え……喉にMPを流しつつその名前を宣言した。
「『削孔発破』」
【言霊の使用により『霧土竜の爪』×3、『陽砂蜉蝣の抜け殻』、『凍氷女の腕』、『霧霊狐の尻尾』×5を消費しました】
【『重』の使用を確認しました。『カルマ値』を獲得します】
瞬間、私の身体から大量に何かが抜けていくような感覚と共に少しだけ内側の何かが締め付けられる。
だが、そんな事はどうでもいい。いや、まぁ流れていった通知に無視できない内容もあった気がするが今はどうでもいい。
私が魔術言語の名前を、構築のイメージそのままに発した言葉が広場に木霊する。
その中にビシュッという炭酸が抜けるような音が混ざったかと思えば、次の瞬間。
私達が立っているこの広場の天井が次々に崩落し、広場へと落ち始めた。
天井が崩落するだけならまだ手の取りようがあっただろう。何処か他の場所へと逃げることが出来る環境ならば。
しかしながらここは劣化ボスエリア。ここ以外にエリア移動は出来ず、簡易的な密室のようになっている。
それに加え、どこからともなく出現してくるゴブリン達のおかげで、ゴブリン達自身は思うように逃げる事が出来ない。
逃げようとすればその先には他のゴブリンが居て逃げられず落ちてきた岩に潰される。
逃げてもその先に落ちてきた岩によって潰される。
そして逃げずとも潰される。
勿論、運よく天井から降ってくる岩を避けるゴブリンも居るだろう。
しかしながらそれくらいは予想出来ている。
再度、炭酸が抜けるような音が聞こえたかと思えば、次は天井の岩ではなく。巨大な氷の塊がこの広場内に居る生物全てを潰すと言わんばかりに降ってきた。
『削孔発破』。
削孔も発破、どちらも現実に存在する岩石掘削作業において使われる言葉だ。
削孔は発破のための火薬を入れる孔をあける事。
発破はそれで出来た孔に火薬を入れ、爆破する事。
それらを魔術言語で再現しようと考え、そして少しだけアレンジした結果が、これだ。
『孔をあける』、『範囲指定』、『複数行使』によって広場の天井の至る所に孔をあけ。
『ガスの生成』、『性質変化』、『火を熾す』によって可燃性のガスに火をつけ爆破。
そしてそれと共に、『氷の生成』、『大量生成』、『範囲指定』を組み込むことで必要以上の天井が落下しないように固め。
再度ガスによって爆破することで、2度目の天井崩落を起こす。
無論、少しとは言い難いほどにMPを持っていかれたし思い付きで乗っけた言霊の所為でいつか使おうと思っていたウスバカゲロウと雪女の素材が持っていかれた。
ミストモールと『白霧の森狐』の素材はどうでもいい。あんなのは適当に『惑い霧の森』を彷徨っていれば集まる程度の消費でしかない。
そして勿論、私が思い付きで行動した時に必ずといっていいほどに付きまとう、想定外の出来事も起こった。
「あっぶねぇぇえええ!?」
そう、広場
1度目に落下してきた岩は、松明を投げ捨て咄嗟に発動することが出来た【魔力付与】を盾状に展開し、ダメージを0にした上で逸らし。
2度目に落下してきた氷は【血狐】を呼び出し、【血液強化】を併用して自分の身体で受け止める。
普段は全く意識していないが、私のアバターは獣人族……筋力などのステータスが高いとされている運動が得意な種族だ。
ダメージを抑え、バフによってステータスを底上げし、それでも押し潰されそうになりながらも氷の塊を横へと逸らすことで事なきを得た。
上から何も振ってこない事を確認してから、インベントリ内の新しい松明を取り出し火を灯す。
そうして周囲を確認すると、そこには大量の光の粒子が天へと上がっていくのが見えた。
灯りを向けないと光りの粒子が見えない、というのも変な話だが……恐らくこれはダンジョンの特性の所為だろう。
そして、1体。私のように生き残りながらも、その下半身が岩と氷の下敷きになりじわじわとHPが減りつつ身動きが取れない状態でこちらを睨んでいるゴブリンが居た。
『反響の小鬼王』だ。
流石に『削孔発破』だけではHPを削り切れなかったのだろう。
しかしながら半分ほど減っているHPを見るに、少ないダメージで済んではいないようだった。
そして私はここに来た目的を思い出す。
元はと言えば、『咆哮狼の喉』という素材が欲しかったからこそこのダンジョンにきて。
そして上位素材を求めて劣化ボスに挑んだ事を。
目の前には身動きの取れないボス。
そして目的を確実に達成するのならば、そのボスから得たい素材は喉。
……丁度いいじゃん。
にっこりと笑みを浮かべると、こちらを睨む目に薄っすらと畏れが浮かんだのが見えた。
【『反響鬼の喉』、『反響鬼の眼球』、『反響鬼の骨』×3を入手しました】