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Chapter4 - Episode 24


結局の所、魔術言語を霧で構築しているのは単に『白霧の狐面』によって霧を操ることが出来るからであり、『外凍領の雪女』との戦いでもやったように、時間はかかるが木材などに彫ることで魔術言語を構築することもできなくはないのだ。

ただ、手間と構築している間に他の事が出来るか否か、という点から普段は霧でやっているだけで。


……数を減らすだけってならやっぱりキザイアに使った『雑氷』が一番良いかな……。

だが、アレを構築するにも時間が掛かる。

これが『白霧の森狐』のように巨大なボス1体だけならば『氷蝋』によって動きを制限した後にゆっくりと構築してもいいのだが、相手の大きさは精々私の腰辺りまでしかない。他のゴブリンたちも似たようなものだ。

それに数が居る。そのため、一々個体に対して動きの制限を掛けるようなやり方は私のMPが保たないだろう。


「【魔力付与】」


結局の所、手は1つしかない。

霧で魔術言語を構築するのは前提として、その間霧を吹き飛ばされないようにしなければならないと考えねばならない。


私は発動した【魔力付与】を盾状に変化させた後、『反響の小鬼王』の方へと向けながら移動する。

時折道を塞ぐようにゴブリンが目の前に飛び出してくるものの、今まで蹴りなどでモブを倒してきている私からすれば、ただの動く障害物程度でしかない。

力を入れ、軽く跳び。その小さな頭を踏み潰し。円を描くように暗い広場を駆ける。

……本当なら【脱兎】なんかも使った方がいいんだろうけど……現状でもこっちに追いついてきてるのは居ないからこれでいいよね。


『白霧の狐面』を使い、盾状に成形した【魔力付与】の内側だけに霧を生成して。

それらを固め、魔術言語の構成を行っていく。

私が何をしているのかは松明の灯りがあるとは言え薄暗い洞窟の広場の中では見辛いだろう。

しかしながら、霧を固め始めた所でぐるんと音がしそうな速度で『反響の小鬼王』はこちらへと顔を向け、息を吸い込み始めた。


……なるほど、何かは分からないけどこっちのしてる動作に反応するタイプか。

その場に立ち止まり、腰を低くすることで衝撃に備え。

次の瞬間『反響の小鬼王』が発した声のような衝撃派によって飛ばされないように耐える。

パリン、という軽い音と共に【魔力付与】の盾が割れたものの……盾の内側に存在した霧は無事だった。私はといえば、再度【聴覚異常】を付与されたため、音がほぼ聞こえない状態が続く。

すぐさま【魔力付与】を発動しなおし、移動を開始する。


ほぼ確実にこんな戦い方をするようなボスではないだろう。というより、そもそもソロで挑むタイプのボスではないだろう。

それに私とは特別相性が悪い。

私の行動の何か……戦闘開始と先程の事を考えると、恐らくは霧……否、もっと大きく、プレイヤーが空中に何かを散布した場合だろうか。


他のゲームでもプレイヤーのある動作に反応し、強力なカウンターやデバフを付与してくるモブは存在している。

『反響の小鬼王』も似たような能力、もしくは行動パターンを持っているということだろう。

問題は『惑い霧の森ウチ』のようにオリジナルと劣化ボスの意識が繋がっている場合だ。

あんな状態はそうそうあることではないと頭の何処かで分かっているものの、どのボスも似たような事が出来るのならば、特定のパターンなんてものを考えるだけ無駄になってしまう。

……まぁ、オリジナルと劣化の違いを知らないここのボスでそんなの考えた所でなんだけどね。


行動なんて考えた所で結局は出たとこ勝負なのだ、変な事を考えずに魔術言語の構築をしようと考え直す。

ベースは『雑氷』。ただ、アレは結局の所キザイア用に組んだ……言わば単体攻撃用の魔術言語だ。

そのため、範囲殲滅を行うには少しばかり攻撃範囲が狭い。

構築を変えるならばそこから考えなければならないだろう。


……全部大量に生成すれば……そうなると私のMP量じゃ足りるかが分からなくなるか。

全てを大規模にすれば解決はするだろう。

しかしながらそれをやった場合、私が巻き込まれるのと同時、その魔術言語を維持するのに必要なMPを配給しきることが出来ず、秒も経たないうちに消えてなくなるのが関の山だ。

思えば、ArseareでMPを0まで使い切ったことはほぼないために少しだけきになりはするものの。

それを今やる必要はない。


となると出来る限り省エネで、かつ効果のある攻撃を出来るようにしなければならない。

難しいかもしれないが……少し、思いついた事もあるためやれるだけやってみよう。

一度、考えていた『雑氷』の構築を頭から消し去り、新たに魔術言語を組みなおしていく。

その間にも再度『反響の小鬼王』が息を吸い込んでいるが、対処の仕方は分かったためそこまで脅威ではないだろう。

むしろ脅威になり得るのは周囲の普通のゴブリン達のほうだ。

近づいてくるゴブリンを蹴り、時にクールタイムが終わった【霧の羽を】を使って行動不能にしながら私は移動しつつ魔術言語を組み続ける。

想定ではMP消費自体は少ないはずだが、考え通りに上手くいくかが問題だ。


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