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Chapter4 - Episode 23


今まで私がArseareで経験してきたボス戦は、そのどれもがボス単体との戦うという形式のもののみ。

マップ上で戦う、なんてものもあったにはあったが、あれも道中出会ったのはボスだけだったので単体との戦いに含めていいだろう。


単体と集団、この違いは単純だ。

ソロでのタスク管理の差が全く違う。

単体戦ではボスとの戦闘にその意識を全て向けておけばいいが、集団戦ではそうもいかない。

ボス以外のモブ達にも意識を向けなければ不意打ちによってHPを削られ、すぐにHPを削り取られてしまう。

それを防ぐためには周囲のモブを狩るしかないのだが……それも私のようにソロで挑んでいる状態では難しい。


なんせ、私の身体は1つしかなく。

私の腕は2本までしか生えておらず。

習得している魔術の中に集団に効くものは1つしかないのだから。

だから私は迷わずにそれを選択する。

もちろん手に入れたばかりのシギル魔術も併用して、だ。


「【血液感染】」


『一時的にHPを継続的に回復させ、自身の状態異常耐性を減少させる』シギル……簡単に『継続回復』のシギルを起動してから、

宣言すると同時に出現したドロッとした黒い何かをこちらへと走り寄ってきていたゴブリンの顔へとぶつける。

【聴覚異常】が私に罹っているからか、自分が出した声については聞こえるものの、それ以外の……ダンジョンの特性によって今現在反響して聞こえているであろう魔術の宣言やゴブリンの声なんかは聞こえない。


瞬間、顔面に病魔がぶつかったゴブリンを中心にして、一気に周囲へと【感染症】が広がっていくのが目に見える。


黒く、そして靄のような病魔が纏わりついたと思えば、すぐさま他へと移り感染していく。

感染したゴブリンたちは1匹の例外もなく、その口から血を吐き出し、そのHPを削っていった。

だがこれだけではじわじわと削れていくだけでそこまで殲滅力が高いとは言えないし、見るに『反響の小鬼王』にも罹ってはいるものの、そこまで効果がないように見える。

ならば、と再度息を吸い込み魔術の宣言を行った。


「【霧の羽を】ッ!」


本当は霧を発生させた状態で使いたかったが、吹き飛ばされてしまったのだから仕方がない。

というより、叫び声をあげるだけで霧を全て吹き飛ばす『反響の小鬼王』がおかしいのだ。

私の声が聞こえる、というよりは宣言が聞こえたこの広場に居るゴブリン、ボス含めた敵対者全員の頭に非実体の羽が舞い降りるようにして出現する。

そうして、彼らが頭を振るったり腕を振るう事でそれを払おうとしている隙に、私は『熊手』を上から下へと振り下ろすことで【魔力付与】を再度発動させ、その形状を出来る限り長く……刀身を伸ばすイメージで変化させた。


……出来るかなッと!

戦闘中の判断なんて、その場その場のアドリブばかり。

事前に考えることが出来るのは未来視などが出来る特殊なタイプだけだ。

だからこそ、やってみなければ結果が分からないものもある。それが今やろうとしていることだというだけ。


完全に形状が変化しきるまでに少し時間が掛かり、【霧の羽を】が切れ。こちらへと向かってきているゴブリンが多数いるものの。

私はあわてずに刀身が通常の2倍以上に長くなったように見える『熊手』を、その場で回転するように振るう。

狙いはまともに付けない。つけずとも当たるほどに数がいるから。


回転すると共にゴブリンたちの首が宙を舞う。それと同時にドロップアイテム獲得の通知が流れるものの、今はそれ自体はどうでもいい。

私が気になるのは【魔力付与】が何体のゴブリンを倒すまでその効果を絶やさないのか、というその一点のみ。


……おっと、ここまでか。

目を回すなんてことはなく。3回転目に突入したと同時に、【魔力付与】の魔力の膜がガラスが割れるかのように割れて消えていく。

そしてそれを確認すると共に、『反響の小鬼王』が何やら口を空けながらこちらへと突っ込んでくるのが見えたため、最低限の霧を発生させ【衝撃伝達】を発動させてその場から離脱する。


『反響の小鬼王』によるモブ召喚?招集?能力がどれほど続くかは分からないが……正直パッと見ただけでまだゴブリンが数十体ほど残っている現状でボスと正面から打ち合うつもりはない。

というか、確実に強いだろうことが分かっている相手に対して強化系の魔術が使えない状態でまともにやりあうとかありえない。

やるならばせめて【血液感染】の効果が切れた後だろう。


……魔術言語使って削った方が早いかなぁ。MP消費は……まぁこの際度外視でもいいか。

正直な話をすれば、まだ『言語の魔術書』を読んでから魔術言語をまともに使用していない。

否、使ってはいるが『雑氷』などのような複数の単語を組み合わせた複雑なものは使っていないため、そこまでMP消費が変わったかどうかなどが体感で理解できていないのだ。


だからこそ、使いたい。

その行動が『カルマ値』にどんな影響を与えるかは分からないものの、やはり好奇心というのは抑えられないものだ。

危ないと分かっていてもやってしまう。それが出来てしまうのがこのゲームの世界なのだから、コミュニケーション以外の危険な事には自分のタガを外してしまう。


……組み終わるまでに霧が消し飛ばされなきゃいいけど。

だがやるにしても、霧を成形している間に先程のように吹き飛ばされてしまえば意味がない。

やるならばまずはそれをどうにかしなければならない、と私は【衝撃伝達】によって加速しながら頭を回し始めた。


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