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Chapter4 - Episode 21


暫くすると私の身体は動くようになり、狐の尻尾から起き上がる。

何が起こったのかは詳しく理解はしていない。否、恐らくはこれが『白霧の森狐』が私を一度止めてでも伝えたかったことなのだろう。

耐性がなければどうにもならない。


「……あんた、こうなるの知ってた?」

『何かしらの身体的異常が起こるだろうとは予想していたが、ここまでとは考えてはいなかった』

「成程ね……」


何か言おうかと思って口を開いたものの、そのまま閉じる。

警告してくれてはいたのだから、ここでいつも通りに反論するのは流石に馬鹿すぎる。

……悪性変異、か。


新しく出てきた要素である『カルマ値』と、『禁書棚』を使用した時だけなのか分からない習得魔術の悪性変異という文字。

とりあえず現状自分の習得している魔術をざっと見て悪性変異をしている魔術がないか探し。


「うげ」


1つ、変異してしまっているのを見つけてしまった。


――――――――――

挑発プロヴァケーション

種別:補助

等級:初級

行使:発声行使

悪性:行使時HP-5%、【聴覚異常】付与

効果:効果範囲行使者の声が届く範囲内にいる敵対者のターゲットを自身へと強制的に向け、その攻撃が全て行使者に向かうように変化する

   効果範囲内の敵対者全てに【狂化】を付与

――――――――――


よりにもよって【挑発】が変異している。

普段まともに使っていないという点を除けば、出番のある時にはかなりの効力を発揮してくれていた魔術だ。

それが見るからに変異してしまい、変な効果まで付いてしまっている。


掲示板を開き【聴覚異常】について調べてみたものの、一時的に耳が聞こえなくなるというだけのデバフらしい。

といっても、自身で望んで付与するようなものでもない。


【狂化】に関しては……まぁ、前も同じようなものだったためにスルーだ。

むしろこうやってしっかりと説明文に出てくるようになった事に驚きを隠せない。


「うぅん……少し試さないとダメか……そもそも私の行動で『カルマ値』を獲得するって何よ……」


そもそもとして、カルマという言葉自体は元々悪い事を指すものではない。

行動や、活動、単なる行為なんてものを全てひっくるめてカルマ、というのだ。

ヒンドゥー教などでは善意や悪意を持って行動すれば、その分良いカルマや悪いカルマをもたらすと考えられていた……と思う。


といっても、ゲームによっては悪い行動をすることでしか得られないものだったりもするため、まずはこのゲームにおける『カルマ値』というものがどうやったら獲得することが出来るのかを確かめねばならない。


「とりあえず身をもって『禁書棚』の危険さを知れたから良しとしよう……『禁書棚』使うと悪い方のカルマが溜まるっぽいし」


独り納得し、今後の予定を再度組み立てていく。

『カルマ値』なんてものがなければ厨二病シリーズを何冊か読み出来る事の幅を広げていこうかと考えていたのだが……流石に自ら読みに行く、というのは怖くなってしまった。

禁書に分類されるものを読むだけで『カルマ値』を獲得するのかがはっきりと分からない現状、それをするのは流石に危険に飛び込むようなもの。

では何をするかと言われれば……元の計画を進めるくらいだろう。


習得魔術の等級強化。

それに伴う『追記の羽ペン』による魔術の直接の書き換え。

……もしかしたら書き換えで悪性変異を取り除けるかもしれないしね。手術か何かかな……。

事実、出来るんじゃないかとは考えている。

以前よりも『言語の魔術書』を読んだ事により魔術言語への理解度は深まっているし、何より1度書き換えには成功しているため、その魔術を構成するものが何なのかというのがうっすらと理解は出来ている。


ならば最優先で集めるべきなのは【挑発】用の素材、ということになるのだが……以前見た時は『咆哮狼の喉』という知らない素材を要求されたのを覚えている。

何か悪性変異関係で変わっていないかと確認してみても……特に変わっている様子がないため、とりあえずこの『咆哮狼』というモブを探すところからになるだろう。

といっても、何も闇雲に探すつもりは全くない。

こういう時に私の数少ない人脈が役に立つのだ。


「あ、キザイア?今ちょっといい?」

『……あー、今?今じゃないといけない?アタシ今ボス戦中なんだけど』

「よし、大丈夫そうだねぇ。『咆哮狼』ってモブに心当たりあったりはしない?」

『どこをどう聞いて大丈夫だと……いやまぁ、もう終わるのだけど。で?『咆哮狼』?ボイスウルフがそんな名前だったかしら……少し待ちなさい』


『駆除班』のArseareにおける現トップであるキザイア。

数多くのダンジョンのボスと戦い、私の通話中にもボスを倒しているほどの人物だ。

そんな彼だからこそ、知っている情報も、使える情報網もあるはず……と考え連絡をしたのだが、どうやら当たりだったようで。


『ん?あぁ、そうね。あそこなら……まぁ良いわね。……えーっと、アリアドネ?アンタ今どこに居るのよ』

「『惑い霧の森』。【始まりの街】の近くだねぇ」

『じゃあ街に戻って噴水で待ち合わせしましょう。どうせだからボイスウルフの出るダンジョンに案内するわ。丁度【平原】にあるらしいし』

「え、いや場所さえ教えてもらえれば私1人で行くけど?」

『重度の方向音痴を1人で野放しにしたらどうなるのか分からないでしょう?』

「……ありがとうございます」


人の好意は素直に受け取っておくべきだろう。


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