「で?なんで邪魔するのよ」
『禁書棚』の実体化は解除されてしまっている。
白狐が転移させるとしたら上空だろうが、そこまで一気に離れてしまうと流石に発動が解除されてしまう、ということだろう。
それが分かったのはいいことだが、それよりも何故白狐が私の行動を邪魔したのか、というのが重要だ。
『狐の女子は、それが何なのか分かっているのか?』
「は?本……というか、禁書でしょう?」
禁書。
その時によって違うものの、大抵は権力によって出版、販売を禁止された書物の事を指す言葉だ。
「確かに魔導書みたいなものも禁書に含まれるんだったわよね?だったらこれもそうでしょう。何かおかしいわけ?」
『はぁ……分かっていないか。我が言う事なのかは分からないが……それら禁書と呼ばれるものは、基本的には読んではいけないものだからこそ『禁書』とされているのだ』
「読んではならないもの?」
読んではならない。
そういう本は確かに存在する……というか、フィクションではありがちだ。
それこそキザイアの関係で現実の方で調べたクトゥルフ神話には読むだけで正気ではなくなってしまう本も多く存在している。
だからこそ、そういうものがあるというのには納得できる。
魔術の世界なのだから、むしろあって当然だろう。
『そうだ。といっても、それらに耐性があるのならば止めないのだが……狐の女子にそのような耐性がないことくらいは分かっている。今読もうとしたのも好奇心だろう』
「耐性ねぇ。……そんなにやばいの?」
『そうだな……よくて、今習得している魔術の大半がまともに使えないようになるだろうな』
「うぇ……マジ?」
大半以上がまともに使えない状態になる。
まともに、という部分が気になりはするものの、いつになく真面目な雰囲気で語り掛けてくる『白霧の森狐』の様子に少しだけ息を呑む。
「……ん?それってあんたが持ってる浄化の力で何とかならないの?」
『一時的には何とかなるだろうよ。だが、それが常時となれば……結局は浄化しきれずに呑まれるのが関の山だ。それにその様子だと、まだ禁書の数を増やすのだろう?』
「まぁ……最低でもあと2冊、でも確実にそれ以上にはなるわね」
『ならば、やはり耐性を獲得するのを優先した方がいいだろう。そうだな……ここから近い場所ならば■■■■――む、これはダメなのか』
「規制、というよりはネタバレ防止の措置かしら。成程ね」
ここまで色々と話す事が出来ている『白霧の森狐』が珍しいのだろう。
前に1度挨拶をしたことがある『死病蔓延る村』のボスなど、ほぼほぼ呻き声とボディランゲージしかコミュニケーションをとる方法を持っていなかったのだから。
だからこそ、今回はその知識を披露するのが規制された。
流石に現段階の私が得るべき情報ではないとAIで判断されて。
「……うん、とりあえず理解はしたわ。でも1度だけは使わせて」
『いいのか?影響はすぐに出るとは思うが』
「え、そんなにすぐ出るの?あー……いや、やるわやるやる。とりあえずやってみないとどれだけ危険かは分からないし」
『……まぁ、狐の女子自身が良いというならば我の出る幕ではないだろう。しかし忘れるな。使いすぎても、集めすぎてもそれは狐の女子の精神と肉体、そして魔術を蝕むという事を』
何やら真面目に言っているものの、それは重々承知だ。
魔術が十全に使えなくなる、というのは確かに痛い。
「確かめなきゃ情報が無いものには届かないから。まぁ使える魔術が減るのは痛いけど……その時に考えればいいのよ。その時にしか見られない風景だって絶対あるでしょうし?」
そういって私は『禁書棚』を再度出現させ。
その中に収められている『言語の魔術書』を手に取って開く。
瞬間、本に纏わりついていたオーラのような何かが私の腕を伝い、胴体へと到達し。
心臓の在る辺りへと無理やり入り込んでくるような、そんな感覚を味わう事となった。
強烈な違和感。
まるで胸を押し潰されそうになっているかのような圧迫感と共に、何かが書き換えられていくかのような、そんな感覚を何処か私は感じていた。
口から声にならない声が漏れ、そして。
突然、その感覚から解放され息を吐きながらバランスを崩し、前へと倒れこむ。
近くで見ていた『白霧の森狐』の尾によって地面と激突することはなかったものの、私の
【『禁書』コンテンツを適用しました】
【『カルマ値』がステータスに追加されました】
【以後、『カルマ値』がプレイヤーの行動によって増減していきます】
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Tips:『禁書棚』
読了、ダンジョン内で発見した『禁書』のレプリカを自動保存し、いつでも読み返せる本棚
実体はなく、意識すればどこにでも呼び出すことが可能
使用時、プレイヤーは一定数の『カルマ値』を獲得し、その量に応じて取得魔術が悪性変異、改変される
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