……うわ、本当にあった。
【カムプス】の図書館、今まで訪れた2つの図書館よりも少しばかり小さいそこに置かれていたのは『儀式の魔術書~千の奇蹟を礎に~』という黒色の本。
表紙に描かれている絵、少しページを捲って読んでみようとしてもパッとみただけでは理解の出来ない文章。間違いなく厨二病シリーズだろう。
近くに置かれていた入門書、応用書も一緒に手に取り、それらを読み込んでから儀式云々を読み解いていく。
この一連の本達に書かれているのは『
それだけでは意味のない魔術言語の単語達を配置、そして特定の供物を用意し、発揮させたい効果に対応した形に供物を配置することで起動する儀式。
特定の敵性モブを任意で生み出したり、それ以外にも範囲内に存在するプレイヤーを持続的に回復し続けたりと手間が掛かるものの、得られる効果も中々いいものが多い。
しかしながら、戦闘で使う場合……と考えると使いづらい技術だ。
結局、儀式の準備、起動、そして効果範囲という制限が存在しているために敵をそこまで誘導してこないといけない、という問題がまず1つ。
もう1つは、そのコストの高さだろう。
通常、魔術というものに使うコストというのは発動、起動時に消費されるだけのものだ。
MPや言霊の素材がそれにあたるだろう。
しかしながら、この儀式魔術は違う。
起動時にコストが掛かるのは勿論の事、その効果を持続させるのにもコストを要求してくる。
「……継続回復の儀式、起動自体に1000以上のMPが必要ってどうやって集めろっていうのよ……」
そして、その効果も効果だからなのか、コストもコストでかなりお高いものとなっている。
恐らくはこれを簡単に扱えるようになるための魔術的技術の書かれた他の本もあるのだろうが……少なくとも現状で私が扱える儀式の数は少ない。
もしかすれば儀式云々を読み解いていく過程でコストの減少効果が入ってくれる可能性があるが、それもそれで10分の1以下にならねばまともに戦闘中に運用することが出来ないため、結局は他の技術に期待するしかないだろう。
【儀式の魔術書の読了を確認しました】
【魔術書3種類の読了を確認。『禁書棚』を解放しました】
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Tips:『禁書棚』
読了、ダンジョン内で発見した『禁書』のレプリカを自動保存し、いつでも読み返せる本棚
実体はなく、意識すればどこにでも呼び出すことが可能
■■■、■■■■■■■■■『■■■■』■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■。
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『儀式の魔術書』はその色を緑色に変え、例によって変なオーラを纏っている。
が、それよりも重要なのは共に出現したTipsの内容だろう。
「……うわぁ、ついに出てきたねぇ。こういうの」
TipsがTipsとしての役割をきちんと果たし切れていない。
私のレベルが低いためか、それとも他の特殊な条件があるのか分からないが……それでも何か現状では隠された状態の文章が説明として付いているモノが解放された、という事は。
それだけ、扱いに注意しなければならないのがこの『禁書』というコンテンツなのだろう。
好奇心は猫を殺す、というように。
過剰な好奇心は身を滅ぼすことがほとんどだ。
「まぁでも好奇心がないと何も始まらないし?私はこのまま突き進んでいこうかな」
誰に言うまでもなく、独りそう零した後。
私は【カムプス】から『惑い霧の森』、そのボスエリアへと移動した。
どこで確かめるにしても、やはり邪魔の入らない、そして安全であると分かっている場所に移動した方がいいだろうから。
「で、移動したわけだけど……なんであんた、まだ居んのよ」
『ここは我の棲家。狐の女子の家ではないのだから居て当然だろう』
「いやそういう事じゃなくて……あぁ、もう。邪魔だけはしないでよ」
何故かボスエリアで昼寝をしていた『白霧の森狐』を尻目に、私はシステムメニューから『禁書』を呼び出してウィンドウを開く。
既に読み終わった『魔術書』の3種の名前、そしてそれらから学ぶことが出来た魔術的技術の名前が載っているだけの簡素なウィンドウが出現するが、それはまぁいいとして。
……このウィンドウからは内容を読み取れない、と。
予想はしたものの、やはりこの状態では本の内容は読めないようだった。
電子書籍のようにウィンドウをタッチするだけでページを捲れるのならば、色々と楽だったのだが……まぁ良いだろう。
「よし、じゃあ……とりあえず魔術の発動と同じでいいのかな?『禁書棚』」
言葉を口から出すと同時、私の目の前に何処かから半透明な本棚が出現した。
本棚には3冊の本しか収められておらず、スカスカだ。
とりあえず『言語の魔術書』を読もうと手に伸ばした時、後ろから突然白い霧が本棚を覆い隠し……何処かへと転移させてしまった。
誰の所為か?決まっている。
「……邪魔しないでって言ったわよね?」
『それについては返事をしていない。了承していないのと同じだろう』
私に鋭い目を向けてきている『白霧の森狐』だ。