自分が放った霧の槍。
当然、私が考えていたように避ける事は容易ではない。
移動する速度が低下している以上、避けるという動作にも速度低下が適用されてしまうためだ。
次いで、『白霧の狐面』による霧の操作能力も受け付けない。
1度魔術によってその性質を歪められてしまったからだろうか、兎に角霧を散らせて無力化するという手段も使えない。
せめて、と言わんばかりに口を開かず腕を上から下へと振るう事で【魔力付与】を再度発動させ、前面に盾を作り出し。
身体を丸める事で頭などの急所に直接霧の槍が突き刺さらないように悪足掻きを行い……それと共に私は自分の懐でとある
直後、ズドッという鈍い音と共に私のHPが削られ。
シギルのバフによって急速に回復しては削られていく。
それが霧の槍の本数分続く。もしも痛みがフィードバックされるようなゲームだったらこれだけで地獄だろう。
刺さり、回復し、刺さって、回復する。
元に戻り、穴が開き、元に戻り、穴が開く。
繰り返す事数度。やっと霧の槍の雨が降り終わり、顔を上げる。
「――ッまたこれかよ!」
私の目の前には赤くピンク色の肉が、『白霧の森狐』の大きく開いた口が迫っていた。
しかしながら今までとは違う所も存在する。
それは大きく開いている口元に霧によって出来たトラバサミのようなものがくっついていたためだ。
まるで私の【ラクエウス】のトラバサミをそのまま装備したような様子に、私は再度口元が引き攣ってしまう。
身体の中に侵入する前に、こちらを噛み殺すという強い意志を感じる。
当然だろう。普段ならばこの状況に陥った瞬間に口の中、引いては体内に向かって私は移動を開始するのだから、それをさせる前にHPを削りきるというのは道理でしかない。
2度も同じような事を意識のある状態でされている『白霧の森狐』だから打てた手だろう。
私の魔術を真似ているのはどういうことなのかを問いただしたいが。
『我の勝ちだッ!』
どうやって口を開きながら声を出しているのかは分からないが、『白霧の森狐』の勝ち誇ったような声が目の前から聞こえてきて……私は引き攣った笑みから満面の笑みへと切り替える。
……流石にさぁ。
「甘、いんだよこの馬鹿狐ェッ!『氷蝋』ッ!!」
準備していたものを解き放つ。
蹲って防御するなんて方法をとったのだ。その後にスピードに特化している『白霧の森狐』ならば突っ込んでトドメを刺そうとしてくるに決まっている。
ならば、そのタイミングでカウンターを決めてやればいいだけだ。
逃げられない、捉えられないのならば向こうから向かってくる時にぶつけてやればいい。
私には咄嗟の場面にこそ対応できる魔術言語という武器があるのだから。
『氷蝋』なんて大げさな名前を付けたものの、構成自体は短時間で組めてしまう程度には簡単なものだ。
『氷の生成』、そしてそれを成形し強度を上げただけの……言ってしまえば氷の柱を作り出すだけの構成。
しかしながら、短時間で組めるというのはそれだけで利点となり得る。
氷の柱が私の目の前に……『白霧の森狐』の
そう、口の中。大きく開いた口が、氷の柱によって強制的に開いたままになってしまう。
口の周りに装備したトラバサミのような装備も、口が閉じなければ意味をなさないただの飾りだ
「えぇっと?なんだっけ、我の勝ちだ!とか言ってたっけ?」
『ガッアァ!』
「あーもう、目の前でそんな声出さないでよ煩い。あぁ、そっか。固定してないから動けちゃうのか。……【ラクエウス】」
私の近くから離れようとした『白霧の森狐』の近くの地面に大きめの落とし穴を開き、体勢を崩させる。
「軽率に私の近くに寄ったからシギルの効果で遅くなってるから捉えやすいし……なんだったらこういうのも出来るんだよ?『氷蝋』」
声に出すのは1度だけ。
しかしながら何度も魔術言語を行使し、体勢を崩し一時的にその場から動けなくなっている『白霧の森狐』を氷の柱によって動けないように固定していく。
元は【外凍領の雪女】の氷柱落としから思いついた、私でも出来る氷雪系の攻撃、妨害系の策。
未だ未熟な所はあるものの、こうして隙さえあれば巨大な相手も実質拘束出来てしまう魔術言語。
「……あ、【感染症】解けた。じゃあ使えるって事だよねぇ……【血狐】」
ステータス上のデバフの欄に表示されていた【感染症】のアイコンが無くなったのを見て、すぐさま【血狐】を出現させる。
私自身の移動速度が遅くなってしまうのならば、私以外が主に攻撃を担当すればいいだけだ。
そして私はそれが出来る優秀な魔術を習得している。
「やっていいよ、いつも通り」
私の声に、嬉しそうに身動きの出来ない『白霧の森狐』へと駆け寄っていく【血狐】を見て、私は指を顎に添えた。
この後ボスエリアに行き『白霧の森狐』を呼び出す用事が出来てしまった。
その時に聞く質問内容を事前にまとめておかねばならない。
……まぁ、最優先で聞くなら……あのトラバサミかな。