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Chapter4 - Episode 14


一歩踏み出すと同時、衝撃波が発生し私の身体を前方へと運ぼうとする。

しかしながら、その速度はいつもよりも遅い。

落下速度にですら適用される速度低下が強力に付与されているためか……その速度は何も魔術を使っていない状態で走っているのと同程度しか出ていない。


……思った以上に遅い!

心の内で舌打ちしつつ、目の前の狐を睨む。

どうやら私の速度が予想以上に遅かったのに面を喰らっていたのか、目を見開いているが……すぐさま再度足に力を入れ境内の地面を蹴った。

普段劣化ボスを相手にするよりも数倍の速さを持ってこちらへと向かってくるそれを、どうしようかと思考しつつも身体が勝手に動き反応する。


「【魔力付与】ォ!」


手に持った『熊手』に魔力で出来た膜が出現し、その形をすぐさま盾のように変化させる。

そしてそれを身体の前に突き出すと同時。『白霧の森狐』の突進が盾とぶつかり、その衝撃で私の足が地面から浮き、後ろへと弾き飛ばされる……が、その速度も遅い。

狐の勢い的に、衝撃で吹き飛ばされるのならば弾丸のようなスピードでも良いくらいなのに実際の速度は普段私が【衝撃伝達】と【脱兎】を併用し高速移動している時くらいの速度しか出ていない。


……本当に移動速度・・・・だけに適用されてるっぽいなぁ!

口を動かす、腕を振るう、思考によって形状を変化させる。

これらは普段と同じ速さで身体を動かし実行することが出来た。

遅くなったのは私の身体がその場から移動する場合のみ。つまりは本当に『移動に関する速度』だけを低下させているデバフなのだろう。

それならばやりようはいくらでもある。


「ていうかさぁ……驚いてたりとか色々と言いたいんだけど。今ならあんた喋れるよなぁ?」

『……分体である以上、喋れはする。しかしここは勝負の場だ。言葉は不要かと思ったのだがな』

「煩いよ。そう言うならもっと敵としてしっかり攻撃しておいでっての。……一応聞いておきたいんだけど、この状況は大丈夫なの?その、色々とダンジョンボス的に?」

『問題があったらこの様におりじなる?の我が分体だからと言って表に出てくるわけがないだろう。そも、これは一種の試練と同義。我を一度下した狐の女子ならば、いつかは受ける必要があったものだ』


構えつつ半目で問いかけると、溜息でも吐きそうな顔をしながら『白霧の森狐』が……オリジナル、私が倒したあの狐が饒舌に喋りだした。

一応やれるかと思い、挑発しオリジナルの意識らしきものを引っ張り出してみたものの……それがゲーム上問題のない行為なのか、というのが気になってしまっていたから。


「試練、ねぇ……それに合格するとどうなるってのよ。私これ訓練だと思ってやってるんだけど?」

『試練ではあるが、試練ではない。予行練習のようなものだ。我のこの身体は結局の所、我の力を貸し与えただけの端末に過ぎない。だからこそ、実際の試練を行う場合は我本体が相手をすることになる』

「……合格に関しては特に言わないか。じゃあ訓練だと思ってもいいのね?」

『……あぁ、良いだろう』


許可は貰った。

そして私が今後受けるであろう何かがオリジナルとの戦闘であることも分かった。

それだけ分かっておけば、あとは自力を底上げしていくだけだ。


「よし、じゃあやろう」

『……我が言うのもなんだが、その状態でか?』

「訓練って言ったでしょう?これくらいやらないと普段はボッコボコにしてるんだから、いいハンデじゃない。というか、いいの?」

『……?』

「私相手に2秒以上も足を止めていいかって聞いてんだよ。【ラクエウス】」

『くッ……!!』


いいハンデ、とは言ったが。

それは移動速度が低下しているだけの事。

移動に関係しない魔術ならばいつも通りに使えるし、【血液感染】の範囲に気を付ければ【血狐】だって使える。


『白霧の森狐』は焦ったようにその場から後退しようとしたものの。

既に発動した【ラクエウス】……霧を固め作られた槍がその周囲を囲み、逃げ場はどこにも残されていなかった。

瞬間、それら全てが同時に狐の身体へと殺到する。

普通の生物ならば何本かが頭部に命中するだけで絶命させることができるそれを、不意打ちに近い状態で受けるというのは中々に難しい。

難なく受けていたキザイアなど、上位陣がおかしいだけだ。私だったらそのまま貫かれデスペナ直行だろう。


そして、オリジナルの意志が宿った劣化『白霧の森狐』は一瞬表情を歪ませたものの、再度濃い霧を身体から噴出し霧の槍を受けようとして……貫かれたように見えた。

……アレ、私でも一度も見たことない行動だなぁ。

呑気にそんな事を思っていると、私の周囲に何やら霧が集まってくるような気配を感じとる。

そして『白霧の森狐』がやろうとしていることに気が付き、私は口元を引き攣らせた。


「そんなのアリなの?!」

『――そう言えばまだ狐の女子はこれ・・を出来なかったなぁ!』


狐の叫びと共に、私の周囲の霧から……ご丁寧に私の霧操作能力でも散らす事が出来ないほどに濃い霧から【ラクエウス】によって生成された霧の槍が射出される。

『白霧の森狐』の持つ能力の1つ。転移能力の応用だ。


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