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Chapter4 - Episode 13


「よし、じゃあとりあえず……【血液感染】っと」


穴を覗き込み、そしてその中で視界を遮る非実体の羽を振り払おうとしている白狐を見下ろしながら、私は魔術の行使を宣言した。

次いで、私はバフ系のシギルを新たに2枚取り出し、MPを流し起動させる。

瞬間、燃えるような薄い赤と黄色のオーラが私の身体を覆うように出現した。


……効果自体は発生したね。名前は……【シギル1】と【シギル2】か。名称決めてないからかな。

バフの表示が視界の隅に表示されると同時、その下に【感染症:血液】が出現するのも確認した。

それと同時、穴の下の『白霧の森狐』に纏わりついている【血狐】が突如固まり、崩れ落ちていくのが見える。


「あ、そういう挙動するのか……確かに併用したのは今回が初だったっけ」


【血狐】だから、というわけではないだろう。

恐らくは【血術】カテゴリの魔術全般に言える弱点のようなものなのだろう。

そもそもとして【血液感染】によってダメージを与えるのは相手の血液。

血液で身体を構成されている、もしくは血液を媒介に魔術を発動させる魔術にとってはその効果による差があるだろうが……基本的には耐えきれずに崩壊するのではないだろうか?

どちらにせよ、今後【血術】系の魔術と【血液感染】を併用する場合は【血液感染】の効果範囲をしっかりと確認した上で使った方がいいだろう。

自身の魔術で自身の放っていたものが破壊されるなんて阿呆な事は1人でやっている時だけにしておきたい。


「シギルの効果は……うん、出てるか。吐血もしてないし」


今回作ったバフは事前に考えていた耐久と回復能力に振ったもの。

『一時的にHPを10%増加させ、自身の攻撃魔術の威力を5%減少させる』という効果と、『一時的にHPを継続的に回復させ、自身の状態異常耐性を減少させる』という効果だ。

どちらも一時的、時間制限ありで効果を発揮するもので、効果終了後は一定のクールタイム後に再度効果が発揮する。


そしてしっかりとバフの効果が発揮されているのが文字だけではなく、自身のステータスに反映される形で目に見えた。

視界の隅に出現している自身のHPバーに、追加で黄色のゲージが出現しているのが見え、それが減ってはすぐに満タンまで戻っていく。


「よし、とりあえず今の【血液感染】なら回復の方が数値量勝ってるのね。相手が回復持ってない前提だけど」


等級強化によってどうなるかは分からないものの、これならば色々と自由に魔術の選択を出来るだろう。

問題は私自身にしか効果を発揮しないという点だろうか。


「パーティプレイ中は作る前と同じで【血液感染】は使えないなぁ」


もう少し使い勝手がよくなるか、それともむしろ災害のような被害を出せる魔術に特化させていくか。

どちらにしても、今現在はパーティでは使えない。

それこそメウラやバトルールのように後衛と組んでいて、そもそも感染範囲に入らないプレイヤーや、罹っても問題ないであろうフィッシュのような前衛とでないと戦闘中の選択肢にすら入らないだろう。


「検証はこれで終わりかなー……残りのHPは……3分の2?結構削れてるなぁ。よし出ておいで」


【霧の羽を】が切れ、こちらを睨んでいる『白霧の森狐』に対して私は笑いかけた。

この間の騒動によって、劣化ボスがオリジナルと繋がっているのが分かっている。

つまり、私が事あるごとにこの狐をぼこぼこにしていることがオリジナルに伝わっているということだ。


だからこそ、少しだけ嘲笑を含んだ上で笑ってやる。

どうせ今日は後に予定はないのだ。少しは本気でこちらに挑んできたらどうだと。

負けっぱなしでいいのか?と鼻で笑ってやる。


『――ッ!』

「うぉ、少しは本気になったみたいじゃん」


そして効果があったのか否か。

劣化『白霧の森狐』がこれまでに1度も出したことのないような濃い霧を発しながら、こちらを理性ある目で睨みながら、穴から飛び出してきた。


すぐにこちらへと突進してこなかったのは、私の【ラクエウス】による罠を警戒してか、それとも他の理由か。

分からないが……それでも今まで以上にオリジナルに近い雰囲気を纏っている『白霧の森狐』を前に私は『熊手』を構える。


「【脱兎】、【衝撃伝達】」


短く魔術を発動させ、足にぐっと力を入れた。

私の移動速度は現在シギルの効果によって普段よりも落ちている。

自ら本気を出させたとはいえ、この状態で『白霧の森狐』の突進を避けつつ攻撃を加えるのは至難の業だろう。


「でも、あんただからこそ試すべきだよね」


だが、だからこそ私はこの状態で『白霧の森狐』に挑まなければならない。

未だこの巨大な狐を超える速度を持った敵には出会ったことがないが、今後出てこないとは言えないし、むしろ確実に遭遇すると思った方がいいだろう。


そして今後新調していくにしても、少しの間はこのシギルの構成でやっていくのだ。

それならば発動中の速度に慣れなければならない。圧倒的に早い相手との戦闘に、そしてそんな相手に攻撃を当てる方法を学ばなければならない。

『白霧の森狐』はそれが分かっているのか、鼻を鳴らすような動作をした後に私と同じように足に力を込めた。

戦いという名の訓練が始まる。


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