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Chapter4 - Episode 12


『――ッ!!』

「いやぁ、君と戦うのも何度目になるだろうねぇ?」


場所は変わり、『惑い霧の森』。

とりあえずで作ったシギルの効果を確かめるために、私は劣化『白霧の森狐』との戦闘を行っていた。

といっても、既に何度も何度も戦っている相手。今では体内に入ることもなく『熊手』だけで倒す事も出来るようになってしまっている。


「【血狐】、足止め。ついでに【ラクエウス】」


ただ、今回作ったシギルの性能を確かめるのに『熊手』だけで戦う、というのは時間が掛かりすぎてしまうため、普通に魔術も使うのだが。

こちらへと向かって突進してこようとしたその巨体に血の狐が纏わりつき、一瞬動きを止め。

進路上に出現した落とし穴へと誘導し、落とす。


一時的に身動きを出来なくさせるためだけのものだが、シギルの発動が出来るだけの時間があればそれでいい。

今回作ってきたシギルの中には相手の能力を下げるものはあれど、私自身の攻撃性能を上げるものはないのだから。


「えぇっと、まずは……これだこれ。デバフ系からいこう」


まだ御守り用の袋をメウラに作ってもらっていないため、むき出しの状態ではあるものの。

きちんとシギルが刻まれている木の札をインベントリ内から取り出した。

デバフ系で用意したシギルは2つ。

『敵対者の精神力を-5%低下させ、自身の移動速度に-15%の補正を掛けるフィールドを発生させる』効果を持つシギルと、『敵対者の移動速度を-10%低下させ、自身の認識範囲に-10%の補正を掛けるフィールドを発生させる』効果を持つシギルだ。


未だ教会を訪れた事がないため、自分のしっかりとしたステータスを知らないが、【衝撃伝達】などのダメージ計算には『精神力』が使われている事が分かっている。

これは恐らく他のプレイヤーも同じだろう。

そしてそれは恐らく、モブ達が扱う能力にも適用されている。


そもそもとして、この世界の精神力というステータスがMPなどの元となっている値ならば、全ての生物……人間範疇生物から、敵性モブの全てが持っていてもおかしくはないはずなのだ。

それこそ理性を失っていようが、精神力自体は持っているはずだ。普通の文章としてみればおかしいが、ゲームの仕様としてみるならば当然だろう。

何せ、理性を失った程度で精神力が無くなってしまうのならば、この世界で発狂することは即ち生きる力を全て失うと同義なのだから。


「……うわぁ、やっぱり消費は結構……いや、そうでもないな。やっぱりメウラと言ってた事はあってそうだなぁ」


2つのデバフ用シギルにMPを流し、その効果を発揮させる。

すると、私を中心に半径10メートルほどの薄い青色と緑色のドーム状のフィールドが出現した。このドーム内に居る敵対している相手に対し、精神力と移動速度の低下という能力低下が襲い掛かってくるのだ。

そして、このドーム内に居る私にも同じように移動速度低下と、認識範囲の減少というデバフが掛かる。


「ん、思った以上に狭まるなぁ……」


認識範囲の減少と聞けば、少しだけ難しいように感じるかもしれないが。

要は目や耳から得られる情報に制限が掛かっただけのことだ。


耳から得ていた情報はあまりない。

それこそ『惑い霧の森』のミストイーグルのようなモブが事前に寄ってきた時くらいにしか使っていなかったし、最近では【外凍領の雪女】の声を拾った程度だ。

しかしながら、目から得ていた情報というのは意外に多い。


普段見えていた視界の外側が狭まり、まるで何かをのぞき込んでいるかのような状態となっている。

それだけならばよかったのだが、霧を見通せる装備を持っている私が見通すことが出来ない白い何かが遠く……今までは見えていたはずの景色を覆い見えないようになっていた。


「……これは本当に戦闘用かな。普段使いは絶対にない」


景色を見たいのに景色が見れなくなる、というのは最大にして致命的なデメリットだ。

思った以上に私に対して効果があったそれを一応は維持しつつ、穴から這い出てこようとしている『白霧の森狐』の方を見る。

その身体に【血狐】が纏わりついているものの、やはり完全に動きを止める事は出来ていないようだ。


「【霧の羽を】ッ!」

『――!?』


だが、もう少し確かめる時間が欲しいため、私は叫び魔術を行使する。

私の声が聞こえた『白霧の森狐』はそのまま頭を振りながら……再度穴へと落ちていく。

固有のモーションを使った足止め法だ。

そしてその落ちていく動きは何処か遅い。恐らくシギルによって展開したフィールドの範囲内にいるために移動速度の低下が掛かっているのだろう。

落下速度にもその効果が乗るとは思ってもみなかったが……これは少しばかり覚えておいた方がいいかもしれない。


特にやるつもりも、今後それを経験したいとも思ってはいないが……もしかしたらオリジナルの『白霧の森狐』が使ってきたような転移系の魔術によって、私の身体が上空に飛ばされる可能性だって存在するのだ。

そんな状況になること自体稀だろうが、その時に落下速度を落とすことが出来る、というのは非常に便利になるだろう。


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