メウラとの通話の後。
私は元々の目的であったシギル魔術の行使準備を始める事にした。
といっても、準備するのはいつも趣味の木工で使っている道具と木材のみだ。
まずはお試しとして1つシギルを彫ってみて考える。
……そういえば、御守りにしようかなって考えてたんだっけ。
すっかり忘れていたものの。どうせメウラと会うのだから、その時に装備のメンテナンスを頼むと共に小さな袋を作ってもらえばいいだろう。
こういうのは専門の人に任せるに限るのだから。
「で……とりあえず試しで強化系のシギルをっと……」
彫刻刀で木材に直接シギルを彫っていく。
どこか判子作りに似ている作業をしながら、私は最終的にそれらを何個作るかを考えていた。
……自分の強化用に2、いや3かな?あとはデバフ用に同じ数……多いかな。
自身の魔術を使わない範囲での強化、となると出来る限り全てのステータスの強化を行いたい。
それと同時に、相手にデバフを掛けるのであれば出来る限りの悪影響を与えたい。
しかしながらそれらを全てシギル魔術で補うとなると……御守りの数が尋常ではないことになってしまう。
何処につけるかはまだ決めていないが、このままでは確実に御守りマニアのようなものだ。
「数減らすかぁ……とりあえず必須なのは耐久面と回復系かな」
私の戦い方から考えるに、バフ系のシギルを使うのであれば耐久と回復の2つが出来るものが好ましい。
耐久面を強化出来れば、それだけ前に出て無茶が出来る。
回復系を強化出来れば、【血液強化】を始めとした自爆戦術がもっと使いやすくなる。
攻撃面の強化を考えていないのは、そちらは勝手に強化されていくだろうからだ。
結局の所、私の習得している魔術の中で中級になっているのはまだまだ少ない。
大半が初級という状況だ。
いずれはシギルによる攻撃面の強化を施した方がいい場面も出てくるのだろうが、今後等級強化によってどんな強化が施されるのかが分からない状態で下手に攻撃面の強化を行い、【血液強化】のような自爆必至の性能にでもなってしまったら目も当てられない。
だからこそ、まずは耐えられるように。
継続戦闘能力を上げるために、耐久面と回復系の強化を優先する。
そしてその方針でいくのならば、相手に与えるデバフは攻撃性能の低下や移動速度の低下などが見込めるものがいいだろう。
こちらは戦闘が長引けば長引くほどに有利となり、相手は戦闘が長引けば長引くほどに不利となる。
近いうちはシギルのみによる効果付与に留まってしまい、大した効果は狙えないだろうが……それに適した魔術を創ることが出来れば一気に変わるだろう。
「あー……そう考えると【外凍領の雪女】の能力とかまさにそれだったじゃん……」
とはいえ、雪女の素材は数が少ないものの手には入れている。
これを元に魔術をそれらしく作ればある程度は狙った効果を持った魔術を創ることが出来るだろう……恐らくは。
「よし、1枚目完成……もうちょっと小さくできそうかな」
掌よりも少し大きいかというくらいの木材に彫られた身体能力向上系の効果を持ったシギルの大きさを見つつ、私は最低限必要な大きさを割り出していく。
御守りという形状で持ち歩くのだから、それなりに大きいと邪魔になってしまう。
だが小さすぎるとシギルを彫ること自体が難しくなってしまう。
それこそ、私が生産をメインにそれに特化した魔術を習得しているのならば話は別だったろうが……生憎と、私の持つ魔術には意思らしきものを持つものはあれど、生産に手を貸せるようなものはない。
……狐の手も借りたいけど、まぁ自分の手も狐の手だしね。
「大きさはこれくらいでいいとして……よし、シギルは何を使おうかな」
システムウィンドウを開き、入門、応用、そして混沌云々を解読したら出てきた『印章一覧』というメニューを出現させる。
一応形自体はある程度覚えてはいるが、この『印章一覧』はそのシギルの形だけではなくふわっとした効果の説明も注釈として書かれているため、どれを使うか迷っている場合はこれを見た方が便利なのだ。
……うん、効果が低いと何もないけど、効果が高くなるにつれてデメリットが追加されてる。
やはりというかなんなのか、高性能なシギルになればなるほど大きく、そしてバフと共に自身にデバフのような効果を付与してくるものが多くなってくる。
入門、応用書に載っているシギルの範囲がデメリット無しなら、それ以外のもの全てが混沌云々によって知ることが出来たもの。
「……って、言ってもなぁ。回復能力強化するのに被ダメ上昇効果とかつけてたら本末転倒だし……」
流石は高性能というべきか、そのデバフの種類は様々だ。
被ダメージを上昇させてしまうものや、攻撃性能の低下、酷いものになると『常に【感染症:ランダム】に罹る』なんてものもあったりする。これは完全に自分で使うためのものではないだろう。
だが、そもそもとしてこれは補助武装ともいうべき主力ではない装備だ。
これをメインにするつもりはさらさらないし、そもそもとしてこれをメインに据えるのならばもっと私はインドア派になるべきだろう。
それから現実で就寝する時間になるまで、シギルの構成を考え続けていた。