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Chapter4 - Episode 10


「ちなみにグリムさんはどうやって言霊の事を知ったんです?」

「【土漠】って言って分かる?あっちの方にある街の図書館にそれに関する本があったのよ」

「……なるほど?じゃあこの街でいうシギル魔術が言霊だったわけか……この分だと他の街の図書館にも何かしらありそうですね」

「実際あるらしいわよ?正直第2マップの街に到達するのが本当のスタート地点じゃないか?ってのは最近言われ始めてるわね」


【土漠】、という事は【荒野】の先の第3マップ。

そこに言霊に関する本があったのならば、もしかすれば【荒野】の方にはまた別の本があるのかもしれない。

思えば【カムプス】はあまり探索していなかったし、今度時間が出来た時にしっかりと探索した方がいいだろう。


「ふーむ……よし、とりあえず言霊が使えるかどうか試してみますか」

「コツとか教えましょうか?」

「いえ、こういうのは多分自力でやり方を覚えた方がいいと思うので大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「あらそう?なら私はこの辺でお暇しましょう。突然色々とごめんなさいね?」

「それこそ謝罪なんて要りませんよ。有用な情報を教えてもらえたんですから。今度一緒にダンジョン攻略でもしましょう」

「いいわね、第3マップの方のダンジョン攻略で」


そう言ってグリムは部屋から去っていった。

一応言霊を教えてもらったお礼として、押し付ける形にはなったが『惑い霧の森』の劣化ボス素材一式を渡しておいた。血液なんかも一緒になったお得版だ。


1人になった部屋で、私は喉を軽く押さえる。

……確か、喉にMPを流して言葉と一緒に出すんだっけ?

グリムが言っていた事を思い出しながら、まずは手を使って喉に直接MPを流し言葉を紡ぐ。


「えぇっと……『霧よ』」


流石に宿の部屋の中という事もあり、周囲に被害が出そうな事は言えない。

ならばと、私は扱いに慣れた霧の発生を言霊でしてみようと言葉を選んでみる。

すると、私の目の前の空中から漂うように霧が少しずつ発生し、部屋の中を薄く満たしていく。

そこまでは良かった。


【言霊の使用により『霧霊狐の霧発器官』×3を消費しました】


問題は一緒に流れたこの通知だろう。

部屋に満ちた霧の量はどんなに多く見積もっても、普段『白霧の狐面』で生成する霧の半分以下。

だというのに劣化ボス素材とはいえ3つもの素材が消費されてしまった。

……あれ、もしかしてこれってグリムさんが言ってた以上に燃費が悪い……?


いや、だが彼女が引き起こしていた現象と今この部屋に起こした現象を比べてみると、明らかに私が使った言霊の方がコストが重いように思える。

では彼女と私の違いは何か、と言えば。その違いは1つしか存在しない。


「……その技術に関する本を読んだかどうか、って所が条件になってる?」


技術書を読み、1度でも解読する事でデメリットがある程度緩和される。

そう考えると私とグリムとでコストに差があるのに納得することが出来るが……あくまでこれは仮説でしかない。

一応掲示板を開いてみるが、それらしい事を言及しているプレイヤーはいなかった。

気付いていて私のように書き込んでいないプレイヤーもいるだろう。それならばと知り合いに連絡をしてみることにする。


「あ、もしもしメウラ?今大丈夫?」

『どうした?滅多に使わねぇゲーム内通話なんてかけてくるなんて珍しい』


このゲーム内で一番私と共に行動をしていて、尚且つ信頼も出来るプレイヤーであるメウラ。

彼ならば概要を聞いた上で試してみてくれるだろうと、連絡をしてみるとすぐに返ってきた。


『なるほど?その検証か……魔術言語の要領で喉にMPを流しながら喋ればいいんだな?』

「うん。それで大丈夫。でも変な事を言うとその分貴重な素材とか持ってかれるから気を付けてね」

『ちなみにお前は何を持っていかれたんだ?』

「劣化ボス素材3つ。1回言霊使っただけで」

『……了解、無難な奴にしておこう。……『土の壁よ、出現しろ』――っておわ、モブ素材10個とか持ってかれたぞ!?』


どうやら、メウラの方も使った言霊に比べ消費したコストが重かったらしい。

それに実際に起こった現象から、割に合うものではないとも。

まだ結果が2つ。しかしながらそれだけでも十分すぎるくらいの結果が出てしまった。


『【土漠】だったか?言霊の本があるってのは』

「そうだね、今度行こうか。咄嗟に使えるのにこのコストの重さじゃ流石に厳しいし」

『あぁ。どうせならグリムさんもその時に誘えばいいだろ。そのまま第3マップのダンジョン攻略でもすりゃあいいしな』


言霊に限る可能性は高いが、これが他の魔術的技術……シギル魔術などにも適用されているのならば、プレイヤーから技術を教えてもらう、というのはやめた方がいいだろう。

あくまで自力で、そうしなければ割に合わない。

初心者に厳しいかもしれないが、考えてみれば当然だろう。

そもそもこのゲームにおける初心者がどこの層に相当するのかは分からないものの、初めっからシギル魔術や言霊のようなものが低コストで使えてしまっては魔術を使う必要がない。

だからこそこのようなデメリットを与え、使いにくいものとしていると考えるのならば……まぁ妥当ではないだろうか。

もしかすれば、私達が知らない間に達成している他の条件などもあるかもしれないし。


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