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Chapter4 - Episode 7


……よし、大体初め方は理解した、かな。

読み始めてから数十分ほど。既に1回通しで読み終わり、ゲーム的な解読自体は終わっているものの、魔術言語を習得した時と同じように繰り返し読み、理解を進めていた。


と言っても、シギル魔術の使い方自体はそこまで難しいものではない。

元はと言えば、護符として……お守りのような使い方をするために生み出されたもの。

つまりは魔術言語のようにその都度MPを流さないといけないというものではなく、事前にMPを込めておくことで効果を発揮するのだ。


魔術言語が攻撃向けならば、シギル魔術はどちらかと言えば防御向け。

攻撃に転用することもできなくはないが、特徴的に回数制限が付く消費型となるのがデメリットとなるだろう。


「応用の方も読むかな……」


だが、私の読んでいる本は入門書。

結局書かれているのは初心者向けの物ばかりで、使い方自体も初心者用の分かりやすい物ばかりだ。

応用書の方にどんな内容が書かれているかは分からないものの、そちらに面白そうな使い方があるのならば試してみたい。


……うん、というかシギル魔術もやっぱり霧で発動させること自体は出来るみたいだ。

3番の棚に移動しつつ『白霧の狐面』によって私の身体近くに掌大の霧を生成し、入門書に載っているシギルの1つを再現してみる。一応、周囲に影響がない物理耐性向上効果のあるものだ。

すると、霧で作ったシギルの上に何かのゲージが出現する。

試しにMPを流してみれば、そのゲージが少しだけ溜まり……視界の隅に物理耐性が向上した証であるアイコンが出現した。


「MPの消費は激しいし、霧でやる必要は全くもってないなぁ……っとと、あったあった」


『シギル魔術応用書』。

恐らくは入門書を書いた著者と同じ人が書いた本なのだろう。

入門書も分かりやすかったため、こちらも期待できる。

しかし先程入門書を見つけた時から気になっている本の方へと目が行ってしまう。


「……『混沌の魔術書~印章を極めし者~』……」


その厚さは他の本の2倍以上もあり、全体的に黒塗りとなっている本だ。

タイトルは赤黒い文字となっており、誰が描いたのか分からないが小学生が描いたような魔術師のイラストが表紙を飾っていた。


……なんだこの、見る人によってはこれだけでダメージを受けそうな本……。

こんな本でも一応は図書館にあるという事は内容的には問題のない本なのだろう。

『シギル魔術応用書』と共に一緒に読書スペースに持っていって開いてみる。


ある程度察していたものの、その内容は読みにくい造語などで彩られた厨二病患者が書いた文章による独特な世界が広がっていた。

しかしながら……それを読み解いていくと、その内容自体はまともであることが分かってしまった。


「……あれ、これ入門書より詳しい……?」


今だ半分も読めていないが、それだけでも先程まで読んでいた入門書よりも詳しくシギル魔術についての解説が載っていた。

……もしかしてこれ1冊でシギル魔術習得出来たりする……?

可能性はある。一応応用書も読んではみるが、この『混沌の魔術書~印章を極めし者~』をメインにして読んでみる、というのもいいだろう。


元より急ぎで習得しようとしているわけではない。

【外凍領の雪女】から得た素材もあるため、新しい攻撃手段自体は手に入れようと思えばすぐに手に入れる事が出来るのだから。

どうしても長くなりそうな『混沌の魔術書~印章を極めし者~』を脇に置き、先に応用書の方から読み進めることにした。


応用書の方は入門書と同じように分かりやすく丁寧に書かれているため、理解もしやすい。

だが、それ以上に先程まで読んでいた内容が頭に過り、説明が足りていない部分や便利であるのに紹介されていないシギルなどが目に付いてしまい集中が出来ない。


「……」


無言で応用書を閉じ、入門書と共に棚へと戻す。

そして私は司書の居るカウンターへと移動し、分厚く黒い本を借りて宿への帰路についた。

今夜はゲーム内で徹夜、というよりは気が付いたら朝になっているかもしれない。



「読んだぁ……でもまだ1回目か……」


数時間後。

読みにくい文章を翻訳しつつ、読み切った私は何処か充実したものを感じながら読みながらとっていたメモを見る。

大半は造語を読み解くために使われたもの。しかしながらその中にはよく使われるシギルや、それ以外にもマイナーではあるが便利なシギルなど、重要な情報もメモされていた。


1度読み切っただけで、普通の本ほどに積み重なった厚さがある羊皮紙の束が出来るのだ。

これを完全に理解したらどれだけの知識量となるのか……素直に興味があるものの心配でもある。


「これ、私の言動とか染められたりしないよね……?」


しかしながらそんな私の心配を無視するかのように、手と目は動いてしまう。

再度本を開き、1ページ目を読み進めてしまう。

まるで私が見えない何かに操られているかのように、しかしながらそこに書かれている内容をしっかりと頭の中に叩き込みながら。

……もう、なるようになれ……。

私の勉強はまだまだ終わらない。


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