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Chapter4 - Episode 5


思わず笑ってしまう。

自分に向かって巨大な氷柱が降ってきているのだ。その非現実感に、全く面白くないというのに口角が何故か上がってしまう。

しかしながら、口角が上がったなら。そのまま笑ってしまってもいいだろう。

別に笑えないわけではないのだから。


「ふ、ふふっ……【魔力付与】」


【動作行使】ではなく【発声行使】による発動で、再度【魔力付与】を発動させ、その形状を盾のように変え頭上に構える。

今も私の身体は燃えている。

『モレク』は、元々5分保てばいいと考えて構成したため、そろそろ燃える勢いが落ちてきてもおかしくはない。

先程フィッシュに対して渡しそびれた『モレク』発動用の木材はもう1つあるものの。

それを使ってしまえば、今も減少していくHPの回復が追い付かなくなってしまうだろう。


氷柱と私の展開した盾状の【魔力付与】がぶつかり、私の足が徐々に下へと沈んでいく。

それだけ重く、【魔力付与】による一撃無効化効果がなければ危なかったのだろう。

少なくともまともに喰らっていれば、私の身体は今頃ミンチになっていたかもしれない。


見た目以上の質量を持った氷柱を受け止めながら。

私は盾を頭上から徐々に前へとずらすように移動させ、氷柱を雪女に向かって降ろしていく。

別にダメージを与えようとは思っていないし、実際与える事は出来ないだろう。

そもそもとして氷柱は【外凍領の雪女】が操っていた物。

一度その支配から外れたからといって、それが再度支配出来ないわけではない。

むしろ支配出来、尚且つ再度こちらへと攻撃してくるくらいは考えた方がいい。


だがこのまま氷柱を降ろさなければ、私に待っているのは魔力の膜が消えた瞬間にミンチになる未来だ。

それだけは流石に格好がつかないため避けなければならない。


「……んぐ、よし。降ろせた……?!」


しかし、そんな行動を目の前でしていれば、再度攻撃されてもおかしくはなく。

【外凍領の雪女】は再度同じように氷柱を私の上空に出現させた。

恐らくは近接距離に敵がいるときの反応なのだろう。流石に2度も同じ攻撃は喰らいたくないため、そのまま後ろへと跳ねるように退く。

それとほぼ同時に、私の身体に灯っていた炎は消えていく。


「ちょっと、アリアドネちゃん大丈夫?」

「えぇ、まぁ。ダメージと【火傷】ってのは受けてますけど、まぁ大丈夫です。それに【凍傷】も少しの間受けないみたいですし……使います?あいつ氷柱の数だけ攻撃無効化するっぽいですけど」

「使わないよ。というか、ほら。もう来たしね」


フィッシュは後ろを振り向いた。

つられてそちらの方向を見てみれば、数人のプレイヤーがこちらへと近づいてきているのが見える。

その先頭にはつい先日会った知り合いの顔もある。


「あ、キザイア……って事は『駆除班』?」

「そういうこと。彼らは彼らで信用回復とか頑張ってるらしいぜ?」


キザイアはこちらを一瞥したものの。

こちらへと声を掛けることなく、共にこの場に訪れたプレイヤー達に対して指示を出していく。

どうやら既に【凍傷】対策を取っているのか、すぐさま【外凍領の雪女】を取り囲むと頭上に出現した氷柱も気にせずにそのまま攻撃を開始した。

勿論、キザイアも指示を出すだけではなく、何度か見た影の触腕を【外凍領の雪女】の足元の影から出現させることで拘束、他のプレイヤーが攻撃しやすいように支援を行っていた。


「ボス討伐なら『駆除班』。これはどんなに信用が落ちても変わらないからねぇ。結局頼むなら彼らなのさ」

「成程……いやまぁ、確かにこれを見たらそう思いますけどね」


なんというか、慣れている。そう感じさせるような戦い方だった。

近接距離にいる場合に降ってくる氷柱に関しては、1人の……恐らく風か何かの魔術を使うプレイヤーが砕き対処を行い。

キザイアが拘束、それと共に私にもやったように虚空から刃を出す魔術らしき何かによってダメージを与え。

残りのメンバー数人が、何の制限もなく近距離でダメージを与えその無敵化のコストを削り取っていく。


見ている間に氷柱のストックが切れたのか、大きく【外凍領の雪女】が仰け反り……その状態で固定された。

恐らくは攻撃しやすいようにキザイアが行ったのだろうが……そのおかげで中々に見学している私達からするとかなり無理のある体勢で固定され辛そうにしているのが見えてしまっている。

その状態の雪女に対し、連続して攻撃が命中し、そのHPがゴリゴリと減っていき……底をついた。


【準エリアボスを討伐しました】

【参加プレイヤー全員に報酬の分配を行いました】

【『凍氷女の髪』、『凍氷女の腕』を入手しました】


「あ、終わった」

「準って言ってもエリアボスだから、1回でも戦闘してれば報酬貰えるんですね。ありがたや」


ダメージを与えられたわけではないものの、一応は攻撃したからか報酬を受け取ることができた。

MVPなどの通知はなかったものの、ボス討伐の貢献度によっては報酬の数などは増えているのだろう。

今後私と相性の良い準エリアボスなんかが居たら積極的に討伐を狙ってみよう。


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