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Chapter4 - Episode 4


程なくしてその構成を掘り終わった。

前を見れば、身体の末端が少しだけ凍り動き辛そうにしているフィッシュの姿がある。

【凍傷】が付与されている相手に対する凍結効果。予想はしていたものの、やはり戦闘中に喰らうと面倒なものであるらしい。

しかしながら、それ以外は特別厳しい相手でもないようで。


今まで十数分ほどの間、1人で相手をさせていたにも関わらず【外凍領の雪女】から受けたと思われるダメージはほぼ無し。

【凍傷】による継続ダメージによる減少は確かにあるとはいえ、それも回復薬によってプラスマイナスゼロにまでもっていく事が出来る程度のもの。

やはり何度か戦っている経験というのは馬鹿には出来ないらしい。


「ごめんなさい、出来ました!」

「了解、変わるッ!」


攻撃用の魔術言語を組んできたと思っているフィッシュは私と入れ替わるように後ろへと下がり、必然的に私が【外凍領の雪女】と向き合う形へと変わる。

だが、それ自体は問題ない。

正直これが成功するのであればこの後に到着するであろう討伐隊のプレイヤー達も、この雪女の攻略が少しばかり楽になるのだから。


「『モレク』」

「あっ、ちょっ、はぁ?!アリアドネちゃん!?」


魔術言語の彫られた木材を手に持ちながら、私はMPをそれに流しつつ雪女へと近づいていく。

何か後ろから聞こえた気がするが気にしない。どうせ失敗したら意味のないものにはなるのだ。

ならば自分の身体でその凍結効果自体を確かめるくらいはした方がいいだろう。


今回私が組んだ魔術構成は、酷く簡単なものだ。

基本となる言語は『火を熾す』。これは元々人が触れても問題ない代わりに、他の……それこそ物を熱することが出来るという、分かりやすく魔術によって生成された魔法の火だ。

だが今回はそのセーフティを取っ払い、触れれば熱を感じるように。怪我をするように定義しなおし、その燃える範囲も変更した。

結果、MPを流すと同時に私の身体に火が灯る・・・・


そう、私が考えた相手にも攻撃できて尚且つ一気に体温を上げる事が出来る方法。

それは自らの身体を燃やす。これだけの簡単でいて、簡単には思いつかない方法だった。

というか、まともな思考をしている人間がこんな方法を思いついていたら討伐隊が組まれるまでこの雪女が放置される事もなかっただろう。

私はまともではない、というよりは魔術によってみられる景色のためならばこのゲーム内ならば何でもやろうとするだけの事。そこにまともかまともじゃないかなんてものは関係なく、私がやりたいからやるだけだ。


「……【凍傷】は消えた、凍結効果もない。次はダメージ。【脱兎】」


青い炎によって燃え尽きていく木材から手を放し、『熊手』に持ち替え私は駆ける。

たったこれだけで【外凍領の雪女】という存在が攻略できるのならば、どんなに楽だろうか。

【凍傷】に対しての凍結効果が実質無効化された今、気になるのは雪女の背後に羽のように存在している氷柱だ。

事前情報にはそんな物体は存在しておらず、恐らくは準エリアボスとなってから出現したもの。

つまりは、新しい能力が生えている可能性が高いということ。


いつもよりも幾分か遅い速度で近づいた私は、雪女の左側へと回り込み上から下へと『熊手』を振り下ろす。

瞬間、【動作行使】によって発動する【魔力付与】の形状を変化させ、下から上へと魔力の膜の刃を伸ばし、一度の振り下ろしで2回の攻撃を行った。

しかしながら、それが【外凍領の雪女】へと徹ることはなかった。

否、当たらなかったわけではない。

雪女の皮膚、その表面に何やら硬いものが存在しこちらの攻撃がダメージを与えられなかったのだ。


……氷による防御能力!

うっすらと光を反射するそれがなんであるかなんて愚問を抱くほど頭は悪くない。

てっきり氷柱による攻撃能力かと思えば、その実獲得していたのは防御能力だったというだけの事。

だが普通の防御能力……能力の効果時間中、永続して防御を向上させるタイプのものではないようで。

私の攻撃が命中した2回、それと同じ数の氷柱が突如溶け消えていく。

残りの氷柱の本数は……約10本ほど。


一時的に防御能力を上げるのではなく、コストは存在するものの、コストの数だけダメージを受けないようにするタイプの一種の無敵。

広域デバフ型に一番持たせてはいけないタイプの能力だ。


「フィッシュさん、こいつこんな防御能力持ってたんです?!」

「持ってない、というかさっきまで使ってなかったけど?!」

「ってことは近接攻撃にのみ反応するタイプ……ッ!」


突如私の周囲が暗くなる。

何かと思い頭上を見上げれば、そこには巨大な氷柱がこちらへと向かって落ちてこようとしていた。

見れば、背中側にあった氷柱の1本が無くなっている。

……いや、確かにそうだよなぁ……!


冷気、というよりは今も私に【凍傷】を与えてこようとしている雪などを操っているのは目の前の雪女だ。

そもそも雪女、という存在なのだから氷柱が操れてもおかしくはない。

それに加え、別に無敵になれるコストだからと言って、それが攻撃のコストとして使えないとは誰も言ってはいなかった。

氷柱が、落ちる。


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