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Chapter4 - Episode 3


「あっ、これダメです。霧が死にました」

「えっ……あー!あのキラキラしてるの霧!?」


こちらへゆっくりと【外凍領の雪女】の周囲に光る何か。

あの辺りにも私が展開した霧が広がっていたはずだが……操作による手ごたえをまるで感じない。

私の周囲の霧はまだ操作できるものの、少し動きが鈍くなってきている気もする。


【凍傷】を受けるほどの気温の低さなのだ。

霧も結局は水滴が飛んでいるだけのもの。液体が凍るならば霧も例外ではない、ということだろう。


「どうする?今すぐ撤退でもいいよ?」

「いや、やりましょうか。とりあえず身体の一部が凍って、それが素材にできるのかだけでも確かめたいですし」

「……うん、アリアドネちゃんはそういう事言うよねぇ」


正直、街に辿り着くのが目的なのだから逃げる方が道理なのだろうが……それでも気になるものは気になってしまうのが性というもの。

それを知ってか、先が分かっている戦いに付いてきてくれるフィッシュには後で何かしらのお礼をするべきだろう。


だが、ただでやられるつもりもない。

いつもは身体を動かすのと同時進行で進められるため霧で魔術言語を形成させているものの、別にアレは霧で作らないといけないわけではないのだ。

それこそ、直接地面に彫り込むように魔術言語を書いてしまえば効果を発揮するのだから。


「ほら、フィッシュさんも使えないことはないんでしょう?魔術言語。私たちに効果が及ぶ前に炎系の言語構築しちゃいましょう」

「……あー、えっと」

「……もしかしてそういうの全部バトルールさんに任せてます?」

「……あは」


完全にこれは人選、というよりはここに居るメンバーの構成が間違っている可能性が高い。

それこそ灰被りなんかに声をかけてから街を出ればよかったかもしれない、と少しだけ考えながら口を開く。


「よし、フィッシュさん。1回、というか何度か戦ってるなら能力による凍結効果が発生し始める範囲大体分かりますよね?」

「え?あぁうん。分かるよ。というか多分だけど……多分ほぼ凍結効果の範囲内に入らないで牽制くらいは出来ると思うぜ」

「じゃあお願いします。時間は指定できないですけど、こっちの準備が整うまで」

「了解了解、元はと言えば私の所為だしね。この状況。頑張るよ」


私の前に立ち、指を噛んで魔術を発動させ【外凍領の雪女】へと駆け出していくフィッシュを見ながら。

私は魔術言語の構成を考える。

いつも使っている水や霧に関係するものは使えない。

いや、使えるかもしれないが……すべて凍る前提で構成しなければいけないため、考えるのが面倒だ。

だからこそ、分かりやすく弱点だろう炎系の効果を持つものを組み立てていく。


と言っても、私は私で炎系の魔術言語はあまり使ったことがない。

それこそ『火を熾す』以外にはほぼほぼノータッチレベルだ。

……そもそも【凍傷】って、暖まれば解除されたりするのかな。

掲示板を開き、状態異常関係の検証結果が載っている場所を開く。

何やら声をあげながらフィッシュが頑張っているものの、情報というのは武器だ。

結局知らなければ何も出来ないし、対策も攻撃もできずに死んでいくだけ。


――――――――――

Tips:【凍傷】

気温の低下、それ以外の要因によって体温などが一定以下に陥った場合に付与される

時間経過によりダメージを受ける状態

体温を一定以上に上げる、もしくは温められた食品などを摂取することで一時的に効果を無効化させることが可能

――――――――――


……なるほど?

思った以上に分かりやすい状態異常だったらしい。

現実に則しているのならば、一気に体温を上げてしまえば【凍傷】自体は何とかなる、はず。

Tipsに『一時的に』と書かれているのは対処療法だからだろう。

その【凍傷】自体を与えてくる環境、もしくは敵性モブをどうにかしなければ結局再度効果を受けてしまうかもしれないという事だ。


「……じゃあ、別に攻撃系じゃなくてもいいわけだ」


魔術言語を攻撃の基点にする必要がない、それが分かっただけでも収穫だ。

インベントリ内から『惑い霧の森』のボスクエストの時に余った木材を取り出し、『熊手』によって持ち運びしやすいような形へと手早く整える。


……温度を上げればいい。なら懐炉を元に……いや、この際ダメージ受けてもいいから一気に熱を発した方がいいか。どうせ燃えるんだし。

魔術言語の発動によって、それを刻まれたものは燃えてしまう。

そうなるのならば、懐炉などのように持ち運びに特化したものである必要はない。

むしろ燃えても問題ないものにした方がいいだろう。


そこまで考え、私は思い付いてしまった。

体温を上げつつ、【外凍領の雪女】にダメージを与えられる……そんな理想的な効果を発揮できそうな魔術言語の構成を。


「アリアドネちゃんまだー!?こっちもうそろそろきっついよー!」

「もうちょっと!もうちょっと待ってください!フィッシュさん用のも作ってるんで!」


急ぎ思い付いた構成を木材に彫り込んでいく。

恐らくフィッシュには馬鹿じゃないのかと呆れられるか怒られるのかのどちらかだろうその構成を。


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