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Chapter4 - Episode 2


実際の所、最近霧ばかりを使っているため感覚が鈍っているものの。

最初の頃は、霧を使わずに木の枝1本片手に熊を倒していたのだ。

それを考えれば、最悪【衝撃伝達】が発動できるだけの霧さえ確保できれば何とか戦闘自体は出来るだろう。


そもそも外に出ていなければ血関係の魔術も使えるのだ。

それこそ【血液強化】なんてのは私自身の身体の内側で発動する魔術だし、【血液感染】は……あれはそもそも液体なのだろうか。

病魔を発生させているらしいため、アレが凍ったら凍ったでかなり面倒な事になるだろう。

そうなるところが見たいため、何かしらに出会ったら使ってみようとは思うが。


「おいで【霧狐】」

「そう言えば私が会った時にはもう霧とか使ってたけど、アリアドネちゃんって最初どうやってあのダンジョン攻略したんだい?」

「ん?あぁー……そう言えばそうでしたね。あの時は確か、今も使ってるこのダガーをメインに戦ってましたねぇ。ほんとの最初期なら木の枝だけです」

「木の枝!?えっ、いや、えぇ……?」


流石のフィッシュも私が木の枝で戦っていた事を信じきれないのか驚きの表情を浮かべている。

私だって当時の私を見たら困惑しかしないだろう。

しかし実際にやっていたのだから仕方ない。


「本当ですよ?えぇっと……あぁ、あったあった。実物とは違いますけど、こんな感じの枝で戦ってましたよ」

「うわ、本当に枝じゃん」

「これでミストベアーとか倒してたんですよ?今は制限掛けたんで木の枝じゃ戦えませんけどね」


実際、今も【魔力付与】の制限がなかったら……『熊手』を使えなくなった時に石なんかを使って【魔力付与】を発動させていたに違いない。

というか絶対にやっただろうし、それこそ他にも【魔力付与】の自由度を確かめるために砂なんかを手に持って発動させることが出来るのかなど検証していたに違いない。


「……野生児みたいな戦い方してたんだねぇ」

「はは、フィッシュさんには負けますよ」

「ねぇ、最近思ってたんだけどアリアドネちゃん私に対しての扱い雑になってきてない?」


フィッシュが何やら言っているのを無視し、私は雪の降るフィールドを歩いていく。

【凍傷】によってHPが減っているものの、危険域になる前に回復薬を飲めば何とか出来る程度の継続ダメージでしかない。

……これが準エリアボスと出会ったらまた違うんだろうなぁ。


【凍傷】が付与されている敵対者を凍り付かせる、クラウドコントロールに特化したようなボス。

もしも素材を手に入れる事が出来れば、それから創れる魔術によって戦闘の幅はかなり広がるだろう。

ソロでもパーティでも、相手の動きを一時的に制限出来るというのはかなり重要度が高いのだから。


「……ん?」

「おや?」


そんな事を考えていたからだろうか。

私の普段全く使われる事のない狐耳が何かの音を捉えた。

追いついてきたフィッシュの狼耳も何かの音を捉えたのか、一瞬立ち止まり……その表情が焦ったものに変わっていくのを見て、何の音なのかを理解してしまう。


「あぁ、もしかしてこれが?」

「あは……少しゆっくりしすぎたみたいだねぇ。アリアドネちゃん、【凍傷】は?」

「バッチリ付与されてますよ」

「そうだよねぇ……頑張ろうか……」


何かの金切り声のような音。

それと共に、ざっざっという何かがこちらへと歩いてくる音が聞こえた。

音のする方へと視線を向けてみれば。

まだまだ遠いものの、1人の女性らしき影が見えた。


それと共に、女性の方へと展開していた霧が少しずつ操作できなくなっていくのを感じる。

やはりというかなんというか、霧と冷気では相性が悪いらしい。

直接的な戦闘能力がない【霧狐】を後ろに下がらせ、私は『熊手』を構えた。


「フィッシュさん、掲示板」

「もう書き込んでる。少しすれば討伐隊もこっちに来るとは思うぜ。流石にここは【平原】との距離が近すぎるし」

「了解です。じゃあ……遅延戦闘が良いですかね?」

「出来るなら、だねぇ。私たちにそれが出来ると思うかい?」

「無理ですね。倒されるか倒すかのどっちかしか出来ないですよ。しかも今回は倒される確率の方が高いですし?」


軽口を叩きつつ。私たちは近づいてくる女性の影を油断なく見据える。

徐々に大きくなっていく影、そして近づくにつれそれが異形の物だというのがはっきりと分かる。

聞いていた通り、青白い肌に白い着物。

それに加え、白く濁った氷柱が羽のようにその女性の周囲に浮かんでいるのが見えた。


何故か涙のような氷の結晶を目から流し続けている彼女は、確実にプレイヤーではないのだろう。

その証拠に、その女性の頭上にはHPバーとその名前が表示された。

【外凍領の雪女】。元の名前に『外』という1文字が追加されただけの名前ではあるものの。今まで打倒してきたダンジョンボスのどれよりも存在感の強いそれが、目を開きこちらを見据えた。


【準エリアボスと遭遇しました】


――――――――――

Tips:【準エリアボス】

ボス撃退戦を失敗した事により、ダンジョンが崩壊、その後エリアを徘徊するようになった元ダンジョンボス

HPはダンジョンボス当時のものを引き継いでいるが、元々所有していた能力が変質している事があるため注意が必要

稀に意識を保ち、交渉出来る準エリアボスもいるとの報告があるが……?

――――――――――


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