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Chapter4 - Episode 1


一面の銀世界、といえば聞こえはいいだろう。

しかしながらそこは生物にとって死の世界でしかないのには変わりない。

周囲には何も存在せず、それこそ私の発生させた霧の中に生物は何も引っかからない。

そして視界の隅に【凍傷】という文字が見えてしまい……ため息を吐いてしまう。

白く暖かい息がすぐさま風によって散っていく。


「……地獄か何かかな」


現在、私は【始まりの街】の北側の第2マップである【懇願すべき凍原】へと訪れていた。

目標としてまず街に辿り着こうと思っていたのだが……第2マップに入ると共にこのような状況になってしまい、混乱していた。

流石にここまで酷く環境が変わりすぎるのはどうなのだろうか、と【平原】側へと移動し掲示板などで情報を集めてみると。


「うわ……準エリアボスが出てるのか。やったなぁ」


原因はすぐに判明した。

準エリアボス、元ダンジョンボスともいえる存在が丁度【懇願すべき凍原】にて徘徊中、有志のプレイヤー達によって討伐隊が組まれているらしい。


ボスの外見的特徴は……白い着物を着た、青白い顔の女性。

名前は変わっているかもしれないが、元は【凍領の雪女】。ダンジョン名は【豁然支配の村】……一見、普通の村だったらしいそれは、村人がすべて敵性モブだったとの事。

中々に意地の悪いダンジョンもあったものだ。もう存在はしていないが。


「あぁ、成程。元々の特性が広範囲の支配に特化してるから雪女の能力が広範囲に広がっちゃってるわけね」


ここでも特性と元となったモブの特徴が噛み合ってしまったのだろう。

モブ系の情報が載っている掲示板を見てみれば、雪女という敵性モブは元々一定範囲内に【凍傷】という毒にも似た一定時間ごとにダメージを受ける状態異常をばらまく吹雪を発生させる広域デバフ型のモブらしい。

その代わり本体の戦闘能力は低く、そこまで苦労する相手でもないはずなのだ……ボスではなかったら。


ボス個体である【凍領の雪女】はというと、【凍傷】を受けている相手の身体を徐々に凍り付かせる特殊能力を持っていたとのこと。

本体との距離が縮まるにつれ、その速度が速まっていくらしく……ほぼ近接戦闘は出来ないレベルだったと、攻略に失敗した本人は語っている。

情報収集中に私と合流したそのダンジョン攻略に失敗した本人が、だ。


「いやね?悪いとは思ってるし、私も討伐隊に参加しようと思ったんだぜ?でもバトくんが許してくれなくてさぁ。まぁ基本的に近距離攻撃しかない私には仕方のない話ではあるんだけどさ」

「……」

「せめてものお詫びにって事で、安全な道を選んで街に案内するのが私の役目ってわけさ。いやぁ、ごめんねぇアリアドネちゃん」


目の前のダンジョンボスを外に放流した本人はへらへらと笑いながら、しかしながら微塵も笑っていない目をこちらへと向けてくる。

その目は『何も言うな』と言外に私に伝えてきていた。


「……おかしいなとは思ったんですよ。【凍原】の方に行くって言った時にやめた方がいいとかうま味のあるダンジョンが少ないとか言って、私が行かないようにしてるから」

「……あは」

「ほら、行きますよ。責める気とかないんで。ただその雪女が出た時は一回試しに戦闘しますよ」

「お、戦うのかい?私が言うのもなんだけど、マジで近接戦闘は厳しいよ?」

「本当に言う事じゃあないですけど、まぁそこらへんも確かめておいた方が色々楽しいかなって。ほら、もしかしたら凍った自分の身体とか素材になるかもしれないじゃないですか」


自分の血が素材になるのだ。

それならば、凍った自分の身体の一部も素材になる可能性は存在する。

まぁ大方、砕きインベントリに入れようとした段階で光になって消えるのが関の山だろうが。


「あ、ちなみにアリアドネちゃんのあの狐ちゃんは出すのやめておいた方がいいぜ?」

「何でです?」

「凍るから」

「あぁ……なるほど。それは確かに拙いですね」


どうやらこの【凍原】では私の【血狐】は役に立たないらしい。

元々物理攻撃に対して高い耐性を持っているあの魔術は、その身体が液体であるからこそ実現したものだ。

それが凍ってしまい、固体へと変化してしまえば……恐らく、高かった物理耐性は逆に弱点となるだろう。

そうなってくると、戦闘中で私が取れる選択肢も変わってくるのだが……後で風邪薬を大量に補充しておいた方がいいかもしれない。


「霧の方は……問題ないのかいそれ」

「どうなんでしょうね、これ。ダイアモンドダストみたいになってないから多分大丈夫なんでしょうけど……多分、結局そこまで気温自体は低くないって事じゃないです?液体系の魔術だけ特別な制限が掛かるとか」

「あーありそうだね、それ」


もしも霧に何かしらの問題があれば、操作能力も持っている私がいち早く気が付く。

しかしながら何も変化はない。いや、変化があったとしても気が付いていないだけの可能性もあるため、油断はできない。

いざとなった時、この霧全てが突然使えなくなる可能性も考えておかねばならないのだ。

……あれ?私って霧なくなったらかなり弱体化しない?


どうやら気が付いてはいけないところに気が付いてしまったかもしれない。


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