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Chapter3 - Episode 33


恐らくは穴の位置、声などから私の位置を大まかに割り出しているのだろう。

しかしながら、私の周囲に存在している物まではしっかりと把握しきれていない。

索敵魔術の制限か、それ以外か……考えるに範囲感知の方の索敵魔術は動いている物しか感知しないのではないだろうか?

それならばここまで罠に引っ掛かるのも頷ける。


既にキザイアとの距離はその索敵魔術の感知に引っかかってしまう距離。

振り返った動作で詳細な私の位置が知られた可能性もあるが……この距離ならばまた別の攻撃もすることが出来る。

要は動かず、キザイアを見ずに攻撃をすればいいだけの事。

……意外と難しいかな……いや、出来るか。


動かず、周囲の霧を操り再度魔術言語を成立させていく。

気が付かれないように、今度は時間を掛けて。先程よりも多くの言語を霧によって紡ぐ。

その時、【血狐】によって覆われた私の首筋に何かが当たるような感覚がして、視線だけ向けてみると。

そこには虚空から生える刃先が存在していた。

やはり先程振り返った時に位置が割れたのだろう。

キザイアが使う攻撃魔術の1つが、今になって……正直、こちらに有利なタイミングで復活してくれた。


虚空に引っ込んでは私に致命傷を与えようと突き刺してくるそれは、【血狐】の物理攻撃耐性によってダメージや勢いを削がれ、ちょっと衝撃を与えてくる程度の可愛いものにまでランクを低下させている。

そしてそんな意味の薄い所か、ほぼ無いような攻撃でも魔術である以上、MPなどのコストを支払っている。

つまりは、こうやって棒立ちでぼけっとしながら魔術言語の準備をしているだけで、向こうのリソースがどんどん減っていっているのだ。


それにキザイアは元より人面影鼠や突風を生じさせる魔術、2つの索敵魔術など複数の魔術を使っていた。

もしもMP回復系のアイテムを持っていたとしても、それなりにコストが嵩むであろう転移魔術を短時間に2回も続けて使っているのだ。消費も激しいだろう。

……まぁ、私もそれなりにきついっちゃきついんだけど。


私はそこまで魔術を使って行動しているわけではないものの、先程の水責めやそれ以前の行動によるMP消費が響き、残りMPが3割を切っている。

一応MP回復アイテムは持ってはいるが、それも全快するようなものではなく、2割回復という効果量の低いもの。

どちらかと言えば後がないのは私の方だ。


のろのろと成形していた魔術言語が形となってくる。

基礎にあるのは先程使った『水の生成』。

だが、先程のようにただ同じ魔術言語を大量に展開するのではなく、基礎を補助するように違う種類の魔術言語で装飾し、それに加え、サブともいうべき別の魔術言語も組み立てていく。


先程は数で補ったその量を、1つの魔術言語で補うための『大量生成』。

そうして大量に生成された水に流れを作り出す『渦化』。

基本となる『水の生成』の装飾はそれだけだ。


そしてサブの魔術言語。こちらの核は、灰被りとのダンジョン攻略中に思い付いた『氷の生成』だ。

単純に周囲の液体を氷へと変化させていくだけの効果を持つ魔術言語。勿論、レジャーで使えるレベルの効果しか通常はなく、飲み物に氷を浮かばせるのに便利なものだ。

しかしながら、やはり道具や知識は使い道によって数多の表情を見せてくれる。


『氷の生成』を水責めの時のように、複数……量にして10ほど成形し、それに他の魔術言語によって装飾を施す。

このままMPを流してしまえば、最終的に『水の生成』によって出現した渦巻をただ所々凍らせるだけにしか過ぎない。

だからこそ、その氷が生成されるときにその形状に指向性を魔術言語によってつけてやる。


イメージは氷柱を作るように。

効果の発生する範囲を狭めるために『効果範囲限定化』。

それに加え、狙った形状になるように形状変化形の魔術言語を複数くっつけ、最終的に先にできていた『水の生成』の方にくっつける。

ただただ長い文章にしか見えないそれを、少しばかり効果が歪んでも良いと考えながら、微妙に円状に……まるでファンタジー漫画に出てくるような魔法陣のように変えていく。


ここだけ見れば、魔法陣を空中に作り出している魔法使いのように見えるのだろうが……いかんせん、私の姿は現代的で。

しかも濃霧の中で霧の文字を作っているせいで、私のような装備アイテムや特殊な魔術を持っていない限りは見えない魔法陣が出来てしまっている。

私が14~5歳であったならば、これを見ただけでテンションが最高潮まで上がっていたことだろう。

というよりも、今現在、大人になって……真剣に頭を働かせなければならないこの場面でも、少しばかり口角が上がってしまうくらいにはテンションが上がっている。


これにMPを流したらどうなるのか。

仕様通りに動くのか、それとも仕様通りには動かないのか。

全くの不発になるのか、予期せぬ相乗効果によって予想以上の攻撃になり得るのか。

中二病とは違うのだろうが、わくわくする心は一緒だ。

だからこそ私は、その上がった口角をそのままに一言、その魔術言語の名前を宣言し、MPを流した。


「――『雑氷』」


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