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Chapter3 - Episode 28


1つ、気が付いた事がある。

それは霧を展開し、私の姿をキザイアが認識できなくなったと思われる辺りから虚空から刃先が出現しなくなった事だ。

勿論、今も不定期に影から出現する人面影鼠に襲われているものの、攻撃らしい攻撃はそれだけだ。

キザイア本人が使っていて、私の目にも分かるように発動しているのは突風を発生させる魔術のみ。

視点、もしくは簡易的な索敵系の魔術も使っているのだろうが、それらしい動作をしていないため、本当に行使しているのかも怪しい。


……相手の姿、というよりは場所かな。それをキチンと認識していないと使えないっていう制限でもかけてたりするのかな。

格上が使う魔術、だからこそそのどれもに等級強化がされているという前提で考える。

といっても、まだ私は等級強化によって自分で決める制限によって齎される強化の度合いを測り切れていない。


それこそ、私自身が使う魔術は汎用性……自分が使いやすい形での制限しか加えていないために、サンプルが少なすぎるのだ。

かといって、知り合いからそれを聞くのは流石に躊躇われる。

掲示板の方にも、それらしい事を疑問として発している人がいたものの、それに対する明確な答えなんてものは返ってきていなかった。むしろネタだったり荒らしだったりの方が多かったくらいだ。


だからこそ、考えても仕方がない部分ではあるのだが……しかしながら状況によってそれを前提に動かねばならない瞬間というのはどうしても出てくるだろう。

特に、勝たねばならないのなら絶対に。


『チヂュッ!』

「よっと……慣れてきたなぁ」


影から飛び出てくる人面影鼠を避け、その場で立ち止まる。

避けるのにそんな大きく動く必要もなく、それでいて虚空から刃先が出現しないのならば大きく動く必要はないのだから。

人面影鼠はそこまで脅威ではない。

それこそ、多少のズレ自体はあるものの飛び出してくる時に鳴き声らしき音声が聞こえ、いつも私の顔面に向かって飛んでくるのだから対処自体は楽な方だろう。


そしてそれが分かっているはずの行使者……キザイアは周囲をキョロキョロと見渡しながら、目に見える形では何もしていなかった。

そう、本当に何もしていない。


焦っているわけでも、怒りに身を任せるわけでも。

嘲笑するわけでも、悲しみに暮れるわけでもない。

ただ、そこに立ち周囲を見渡しているだけなのだ。


警戒をしている風でもなく、だからと言って脱力しきっている風でもない。

ただ周囲を、何も感情がない顔を振ってみているだけなのだ。

観察している、と言えばまだそれらしいのだろうが……そういった様子もない。

決闘が始まる前、そして始まってすぐのキザイアは一体どこに行ったのかと、少しだけ背筋が凍るような感覚を感じながらも、私はキザイアの周囲の地面に目を向けた。


「【ラクエウス】」


小声で宣言するは、罠を作り出す魔術。

霧の流れの変化で何かしているのが察せられてしまうものの、濃い霧に囲まれた中で足元に存在するトラバサミや落とし穴にまで気を配ることは難しいだろう。

狐面によって濃い霧を生成し続けながら、私は【ラクエウス】が発動できるようになったらすぐに発動し、キザイアの周囲を罠だらけにしていく。


悠長にそんな事をしていて大丈夫か、と頭の片隅で考えてしまうものの。

私が格上相手に勝つには出来る限り自分の有利なフィールドを作り出し、それを崩されないように立ち回ってダメージを与えるしかないのだ。


それにトラバサミは突風を始めとした攻撃魔術で壊される可能性はあるものの、落とし穴は穴を空けているだけに過ぎないため破壊するには土か何かで埋めないといけない。

トラバサミを破壊し、油断したところで落とし穴に引っ掛かりそのまま……なんて事もあり得ないわけではないのだ。

それが万が一でも、その万が一を引き当てるつもりで挑まなければならない相手だと思って行動する。

石橋は叩きすぎてもいけないが、叩いて進まねばそれが安全な道なのか分からないのだから。


……よし、仕掛けよう。

人面影鼠を対処しながらも罠の設置は出来る限り行った。

そしてここからは実際に攻撃を行う、のだが。


先程のように見えていないのにも関わらず【血狐】に対応したタネが分かっていない現状、もしかすれば周りの全ての罠すらも見破られている可能性……と考え始めてしまい思考が止まらなくなってしまった。

実際の所見えていようがいなかろうがやること自体は変わらないし、私の切れる手札の中にはこの状況で切れるものは多くないのだからやるしかない。


だが、相手は仮にも『駆除班』内のランクトップ。ランクという概念があること自体今日初めて知ったものの、それが甘い採点によって決められているのではないのだろうと外様の私でも察することくらいは出来る。出来てしまう。

だからこそ、下手に警戒してしまうし攻撃をすればいい状況で考えて手を止めてしまう。


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