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Chapter3 - Episode 24


「えぇっと、キザイアさん……?は有名なプレイヤーなんです?私そういうのには詳しくなくて」

「あぁ、いえ。その名前の方が有名なだけで、恐らくその人自身は有名なプレイヤーではないと思いますよ、えぇ」

「……あは。アリアドネちゃんはホラー系の文学作品は読んだりするかい?」


フィッシュが突然そんな質問をしてくる。

キザイアとその質問に何の関係があるのかは知らないが……私は元々あまり本を読まないし、ホラー系はそこまで得意ではない。


「そもそもあまり本自体を読まないですね。例外は確かにありますが、ホラーが少し得意じゃあないので」

「成程成程ね。まぁ何といえばいいのか……そのキザイアって名前はかのラヴクラフトさんのホラー小説に登場する魔女の名前と同じなんだよ。確か……キザイア・メイスンって名前だったっけ?」

「合ってますよ先輩。次いでに言うならそのキザイア・メイスンはブラウン・ジェイキンという人面鼠を使い魔にし、次元すらも移動出来る……言ってしまえばこのゲームで僕達が目指す先に居るようなフィクションの存在ですね。そのキザイアさんが使う魔術も似たようなモノですし、恐らくは狙って名前を付けてるんじゃないかと」


ハワード・フィリップス・ラヴクラフト。

かの有名なクトゥルフ神話の生みの親。怪奇小説、幻想小説の先駆者であり、死後に評価されるようになった作家だ。

あまり本を読まない私でも、ゲームを良くやる関係で詳しくは知らないが名前くらいは知っていた。


「しっかし、キザイアかぁ。使役系ってなると私達よりもメウラくんの方が知識あるよねぇ……」

「確かに。でもメウラのダンジョンには誰も来てないとか……ねぇ、どうなの?ホントに誰もメウラの管理してる『万象虐使の洞窟』だっけ?あそこにはメンバーは向かってないわけ?」

「あそこは使役系の魔術を持ってないと中に入っても何も出来ないからな。行くとしても今名前にあがったキザイアくらいだ。他の連中はそもそも何も出来ねぇから行ってねぇ」


一瞬、男の話を聞いて本当にメウラは無事なのか心配にはなったものの。

彼からの連絡がないという事は特に心配することはないのだろう。

となると、だ。


「私達、やることあります?一応掲示板に首謀者の名前を流すくらいしかやれませんよね?」

「流石にキザイアの居場所を暴いて襲撃したところで意味ないしねぇ。……一応聞くけど、今回の事は『駆除班』の他のゲームに行ってるメンバーは知ってるのかい?」

「知ってはいると思うが……話し合いで決める、って段階で止まってるだろうな。詳しい現状は知らねぇと思う」


1プレイヤー、というよりは規模が大きいものの。

事前通達や承諾がなかっただけで、彼らのプレイ自体は問題はないのだ。

だからこそ、それを弾圧しようとするとまた別の所で反感を食らい、そしてまた別の問題が発生してしまう。

私達に出来るのはこういう事があったから、仕様変更を考えてくれと運営に報告する事くらいで、キザイアに関しても襲い掛かってこない限りはこちらから襲いに行くという選択肢はとれない。


勿論、私だけの話ならば自分の管理している『惑い霧の森』を襲われたのだから大義名分は存在する。

その場合面倒なのは周りの3人だ。

私の事を手伝ってくれるこの3人は言ってしまえば部外者でしかなく、当事者の問題に横から首を突っ込むなと言われてしまえばどうしようも出来なくなってしまう。

そもそも今も周辺ダンジョンの救援要請を受けて、善意で動いているプレイヤーとして活動しているのだから。


「……アリアドネちゃんはどうしたい?意味ないかもしれないけど、一発くらいは殴れると思うぜ?君なら」


恐らくそれが分かっているフィッシュが探るように私に聞いてくる。

普通ならばここでキザイアの首根っこ掴んで殴りに行くなんて事をする意味は薄い。薄い……のだが。


「え?勿論殴りに行きますよ?勝手に私の管理する場所にちょっかいかけてきたんですから当然ですよ。……それに」

「それに?」

「珍しい魔術とか見れそうじゃないですか。私気になるんですよね、使役系とか次元跳躍?とか。自分の魔術創る時に良い参考になりそうじゃあないですか」


それとこれとは話は別だ。

私の管理するダンジョンが事前の相談なしに襲われたのだから、それに対する私的な報復くらいはしてもいいだろう。

但し、ゲーム内の出来事はゲーム内で決着をつける。


「……ということで、そこの3人。そのキザイアさん?がどこに居るのか調べてもらえるかな。後、バトルールさんはシステムの方で聞きたい事があるんで、ちょっと相談しましょう」

「わ、分かった……」

「分かりました」


にっこりと笑いながら、3人の捕虜に首謀者の現在居る位置の情報を集めてもらう。

それこそ、チーム専用の連絡手段なんかも全て使ってだ。

男か女かは知らないが、絶対に1発はその顔に拳をぶつけてやる。

あの時私が感じた怒りをぶつけるために。そして、それに抗うために使った力を参考に、私の能力を底上げするために私は動き出した。


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