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Chapter3 - Episode 23


彼らの敗因、というよりはこうも簡単に捕らえられた理由は単純だ。

元より彼らはPvE、ボス専門の狩り集団。

この前の対人イベントにも参加していなかったようだし、そもそもPvP自体に興味がないのだろう。

だからこそ、このゲームでの対人戦経験が限りなくゼロに近く……こちらに居るフィッシュのようにPvEよりもPvPに傾倒しているプレイヤーの動きには慣れていないのだ。


その経験の差は致命的なほどに結果に差が出てしまう。

フィッシュとバトルールのコンビと『駆除班』の1人の戦いははっきりとは見ていないものの、もしかすれば私達の中で1番早く決着が着いたのではないだろうか。

下手をすれば私のように自身の身すらも犠牲にして相手の首を獲りに来るフィッシュと、後方から支援と称して厭らしい位置に威嚇射撃や罠を仕掛けるバトルール。


足を止めればフィッシュの餌食になってしまうし、だからと言って足を動かし続ければバトルールの設置した罠にいずれ引っかかるという、イベントの予選であの2人が一緒に居なくて良かったなと素直に思ってしまうくらいには連携のとれた嫌がらせ戦い方をするのがあの2人なのだ。

だが、それが効果的に機能するのは相手が人だった場合のみ。

敵性モブ相手では、基本的に相手が決められた動作を一定周期で繰り返すためそれをする必要がなく……それぞれの個人プレイのようになってしまうのが、彼女らコンビだった。


今ではそこに私やメウラのような、前衛組は前衛組で、後衛は後衛組で悪さが出来るようになったため、敵性モブが相手でもそれなりな連携が取れるようにはなったのだが。


「『偽装溢れる農村』の方の救援はどうなってます?」

「えぇっと……あぁ、問題なさそうです。こっちと同じように『駆除班』と思われるプレイヤーが邪魔をしてきたらしいですが、そこは数の暴力で」

「あぁ……成程。じゃあとりあえずこの周辺は問題なさそうですねぇ」


捕らえている『駆除班』の3人に聞こえるよう、わざと声を大きくして会話する。

その顔が悔しさよりも、結局こうなったかと言いたげな顔になるのは少し釈然としなかったが。

メウラの方のダンジョンも特には問題がない、というよりはそもそもの話としてメウラの管理するダンジョンの特性が特殊だったためか、そもそも『駆除班』が寄り付かなかったらしい。


「でもやっぱり謎ですよねぇ。……なんで掲示板とかで相談せずに突然こんな形で行動し始めたのかって部分が」

「あぁそこらへんも何人かの『駆除班』所属のプレイヤーが漏らしたらしいぜ?何でも、最近『駆除班』の中で序列争いがあったらしくてね。どうなんだい?捕虜3人」


フィッシュが3人に声を掛ける。

それぞれが顔を見合わせていたが、私と戦っていた男が渋々と言った体で口を開いた。


「……うちでは定期的に序列、というよりは内部でのランク分けが行われるんだよ。どのゲームでも適正の狩場ってのがあるだろう?その時点での適正を確かめるために、一番弱い所から現状の一番強い所までのボスを狩っていくんだ。その結果で誰々はこのランクが適正だってのを決めていくんだよ。で、そのゲームでの最高ランクに到達してるプレイヤー達がプレイ方針というか……まぁ目標だな。『○○ランクの人はこのボスを狩れるように力を入れましょう』みたいなのを出すわけ」

「へぇ?強いボスを狩れるのがAランク、そのAランクの出した目標を達成できるように、その下のプレイヤー達は頑張って自分を鍛えるってことかな?」


何とも管理が面倒そうなシステムを採用しているらしい。

まぁそういうランク制度を独自に決めておけば、後々パーティを組んで攻略したり、下のランクの者に効果的なアドバイスが行えたりとメリットがあるから採用しているのだろうが。


「そんなもんだ。……で、大体そのランク分けってのはある程度ゲームが進んだら……ボスの出現するダンジョンがある程度出揃ったらやるもんなんだが、このゲームはそうじゃねぇだろ?」

「始めてからすぐ挑めますもんねダンジョン。……あぁ、それでこのゲームでのランク決めの方でひと悶着あったと?」

「まぁ、な。『駆除班』の古株の1人が中々性格的に厄介な奴でな。いつもは1番上から1つ下のランクで燻ってるんだが……なんでか知らねぇが、このゲームじゃ最高ランクになっちまってな。それもそいつ以外は誰も最高ランクには到達できなかったのが問題でな」


そこまで言われれば馬鹿でも分かるだろう。

つまりは、その性格が厄介なプレイヤーが定めた方針が原因でこの状況になっている、ということなのだから。


「……ちなみに拒否権とかはなかったのかい?この状況になることくらいは分かってただろうに」

「拒否くらいしたさ。それに、始めはちゃんと管理してるプレイヤーに話を通してって話だったんだぜ?」

「それが何で今の……って、えぇ?頭の痛い話になってくるけど、もしかしてその馬鹿がこの状況に仕立て上げたと?」

「……すまねぇ。一応本当ならそっちを手伝うべきなのは分かってるんだが、割とアイツに流される奴も多くてな。俺らじゃどうにもならんし、とりあえずで賛同してる風にプレイヤーを軽-く襲ってデスペナにしない程度にHPを減らしたりはしてるんだ。下手に目付けられて動きづらくならねぇように」


頭を抱えたくなるような話だ。

しかも、その厄介なプレイヤーがやっていることはマナー的にはアウトだがゲームのルール的にはセーフなのだから性質が悪い。

古株、というくらいだからチーム内での発言力もそれなりにはあるのだろう。

早々に除名しなかったチームの他の古株にも責任はありそうだが。


「ちなみにそのプレイヤーの名前は?知ってる相手なら出会った時に対策も立てやすいですし……何より名前を知っておくというのは色々と便利です」

「あー……まぁ、いいか。もうここまで話しちまってるしな。……名前は、キザイア。使う魔術は主に使役系と……何ていったらいいんだろうな。瞬間移動をしてるのは見た事がある」

「「「うわぁ」」」

「?」


そのプレイヤーの名前を聞いた私以外の3人が嫌そうな声をあげた。

キザイア……有名なプレイヤーなのだろうか?


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