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Chapter3 - Episode 22


お互いの顔を見合わせ、私は笑い、相手は私が何をやろうとしているのかを察したのか、引き攣った笑みを浮かべた。

そう、こちらは別段ここで死んでも問題はないのだ。

私が1人居ない所で私達が向かっていたダンジョンには他のプレイヤーが行く。

しかしながら、彼ら『駆除班』は『駆除班』内のプレイヤーしかいない。

つまりは、ここで死ぬとどこで復活するかにもよるが少々面倒な事になる。


だからこそ、死にたくはないのだろう。

最初に私を潰して数的不利を無くそうとしたのも頷ける。

少しでも自分達がデスペナになる確率を減らしておきたかったのだ。


「【血液感染】――皆!ごめん、使った!」


魔術の宣言をしたと同時、味方に聞こえるように声を張り上げる。

瞬間、私と腕を掴んでいる男の両方の口から赤黒い液体が溢れ出てきた。

視界の隅にはしっかりと【感染症:血液】の文字があり、それの出現と共に緩やかに、しかしながら確実に死へと向かってHPの減少が始まった。


「クソッ、風邪薬だ!【感染症】ならそれだけで治る、慌てっ、ぐぅ……!」

「ほら、今の相手は私だよ?私を見ておかないとどうなるか分からないよ?いいの?」


タタン、と足を踏み鳴らし【衝撃伝達】を発動させ。

その効果が乗った尻尾・・を操り男へと横からぶつけてやる。

普段は全くもって使っていない、ほぼ飾りと化していた尻尾。

しかしながら、等級強化によって魔術の効果がしっかりと乗ってくれるようになった尻尾だ。


まだ動かす事に慣れていないためか、ゆっくりとしたその速度でぶつけられたそれは、接触した場所に対して魔力による衝撃波を生み出し、男の身体を内部から破壊しようとする。

相手もまさか尻尾を使って攻撃をしてくるとは思っていなかったのか、その表情には驚愕の色が伺えた。


しかしながら私の攻撃はまだここで終わりじゃない。

私と男はほぼ密着している状態。だからこそ、彼の耳に口を近づけ。小さな声で彼だけに聞こえるようにこう宣言する。


「【霧の羽を】」

「ッ!……だから嫌なんだ、こういう手合いと戦うのはッ!!」


彼の頭に非実体の羽が降り注ぎ、その視界を潰していく。

だがそれと共に男は大きくガキンと歯を噛み鳴らし……フィッシュと似たような赤いオーラを身に纏った。

十中八九身体強化系の魔術を発動させたのだろう。

それと共に、私が掴んでいた腕が強引に振り解かれ、私は前のめりに体勢を崩した。


男は自由になった腕を振り、その手に持った剣で体勢を崩している私を一度倒してしまおうと上から下に振り下ろそうとしているのだろう。

私だったらそうするし、そうでないにしても目の前で敵が隙を晒しているのだ。

武器を持っていて振るわないのは慎重すぎる者か、私のような考え無しの馬鹿だけでいい。

風を切る音が聞こえ、私に対して何かが振り下ろされた。


……ん?

1秒待って、私のHPが【感染症】と【血液強化】以外で減っていかないのを見てから、恐る恐る上を見上げると。

そこには岩で出来た蔓が男の腕に巻き付き、身動きが取れないように徐々に拘束していっている姿があった。

この場にこんな魔術を使うのは私が知っている限り1人しかいない。


「こっちは終わりましたよ。捕縛済みです。知り合いの状態異常特化のプレイヤーに連絡をとったので、暴れる事もなくなるでしょう」

「すいませんバトルールさん、助かりました!」

「いえ。……一応聞きますけど、その人も捕らえます?他も成り行きで拘束してるんですけど……1人くらいデスペナにしちゃっても問題ないかと思いますが」

「……あー、どうなんだろ。規約とかにないですか?長時間の拘束は相手方のプレイの阻害になるのでおやめくださいーみたいなやつ」


私がそう言うと、バトルールはあぁ忘れていたとでも言いたげな表情を大げさに披露して空中に視線を彷徨わせた。わざとらしく規約を確認しているのだろう。

いつもフィッシュと共に行動している彼は、一見常識人に見えるだけでその実、ルールを分かった上で破っていく節がある。

私も人の事は言えないものの、私は決められた物事の中で納まっているのに対し、彼らは決められた物事の中で納まってくれないため、共に行動しているとたまにではあるが何故か焦らされる場面があったりもするのだ。


別に私やメウラに迷惑が掛かるだけならばいいが、今回は灰被りと『駆除班』の3人にも迷惑が掛かる可能性があるため、しっかりと徹底させる所は徹底させておきたい。

……まぁ、既に『駆除班』には迷惑かけられてるようなものだからどっちもどっちか。

彼らはゲーム上のルールに則った上で迷惑をかけてきているだけではあるのだが。


「あぁ、ありましたありました。普段はダメですが、攻撃を仕掛けられた場合……所謂正当防衛の場合に限り、一時的な拘束システムがあるらしいですよ?」

「……まるで今回の事に似たような事例が起こるのを予想してたようなシステムですね。適応できます?」

「えぇ問題なく。はい、拘束システム適応」


バトルールがそう言うと同時、拘束され動けなくなっている彼らの胴体に赤い拘束具が出現し、しっかりと動かないように固定しているのが分かる。

そしてその拘束具から赤い半透明な紐がバトルールの方へと伸び、まるで犬につけるリードのように勝手に何処かへと行かないように抑えることが出来るようになっていた。


「時間はリアル時間で1時間ほど。まぁこちらが任意で解く事も出来ますし、それ以外にもデスペナにすれば解除されます。但し、自分自身で解くことはおろか魔術とそれに準じた技術は使えない状態になるらしいですよ?」


バトルールは半笑いでそう言った。

どうやら突然に始まった迎撃戦は唐突に終わったらしい。



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