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Chapter3 - Episode 19


『思いだしたには思い出したが……うぅむ。これは、人の仔か……?』

「ん?どんな姿してるの?辻神と見間違えたりしてない?」

『阿呆、あんな布っきれと人の仔を見間違うものか。これは……そうだな、姿的には狐の女子と狼の女子に一番似ているか』

「あぁー、獣人族。成程、一番プレイヤーメイクで差が出る所だ」

「あは、私達はまだ人の割合が多いけれど、人によっては獣の割合の方が多いのも居るからねぇ。ちなみにこの中に【始まりの街】、もしくはその周辺に存在する街なんかで獣人族をプレイヤー以外に見た事がある人っている?」


フィッシュの問に、誰も答えることはなかった。

思えば一度も獣人族らしきNPCは見かけたことはない。見つける住人は基本的に人族だし、ちょっと変わっていたとしても妖精族……所謂エルフのような人種で、私やフィッシュのような獣人族はプレイヤー以外には見た事がない。

珍しいのか街を目的もなくぶらついていると、NPCの子供達が揺れる尻尾に群がってくる事があるくらいだ。


ここから考えられる事。

つまりは『白霧の森狐』が見たと思われる獣人族は、ほぼ確定でプレイヤーだという事。

そして次いでに言うのなら、私が攻略したこの『惑い霧の森』は【始まりの街】、【平原】から近い事もあり、割と掲示板の方では初心者向けと紹介されていたりする少しは有名になってしまったダンジョンだ。


掲示板を見ていなくとも、少し進んだ場所で日夜人が……それこそ『駆除班』の面々が出入りしていることから、攻略済みと分かってもおかしくはないはず。

分からない人もいるだろうが……そういう人向けに、ダンジョンの入り口には攻略済みと書かれた看板を有志に立ててもらっていたはずなので、そこらへんも問題ない……と思いたい。

つまりは、確信犯の可能性が高い。


「あ、同じようなイベントが発生してるダンジョンがあるらしいです。……【カムプス】の方なので遠いですね。街からなら近いですが」

「あー、俺は行けねぇな。まだ【カムプス】に行ってねぇ」

「メウラは自分のダンジョンに行った方が良いんじゃない?多分これ、各ダンジョンで起こるかもしれないし……やるなら自分のダンジョンだけでやれって話なんだけど」


とりあえず掲示板に、『惑い霧の森』の方の問題は解決したと私の名前で書きこんでおく。

そういう事はダンジョンの管理をしているプレイヤーが言った方が色々と分かりやすいだろうから。

それと共に注意喚起としてボス奪還戦の事、『白霧の森狐』から聞いた話を要約して書き込んでおいた。


「良いんですか?書き込んで」

「良いんですよ。これで私にヘイトが向くならそれはそれで結構ですし……それに、これで突っかかってくるのなら、逆に探す手間が省けて良くないです?」

「あは、確かにね。アリアドネちゃんのそういうとこ好きだぜ、お姉さんは」


フィッシュが肩を組んでくるものの、私は掲示板の方へと目を落としておく。

元より、掲示板というのは閉鎖的な場所だ。

今開いているのはゲーム内のみから書き込み、閲覧が出来るものだが……勿論ゲーム外からでしか書き込み、閲覧が出来ない掲示板も存在するし、そういう所の方が勢いが良かったり人が多かったりする。

情報の周知を狙うのならば外だが、中の……それこそゲーム内でも掲示板を見て反応するような人達に伝えるのならばこちらの方が良いだろうと判断して、私はこちらに良く書き込むようにはしているのだ。


「で、どうするんだい?ただ待つわけじゃあないんだろう?」

「勿論、近場のダンジョンの救援に行きますよ。あ、私は時間大丈夫ですけど皆さんは?あと別にこれ強制じゃないんで用事あったり、面倒だったら抜けてもらってもいいですけど……」

「ここまで話を聞いて抜ける、というのは今更ですね。ご一緒しますよ」

「俺も問題ねぇな。ただ俺は自分のダンジョンの方に行く必要がありそうだから一緒に行動は出来ねぇ」


メウラが申し訳なさそうにこちらに頭を下げてくるものの、彼には彼の守りたいと思うものが今のダンジョンにはあるのだろう。

それに無理を言って一緒に行動するメリットも薄いのだ。


「大丈夫。メウラの方は私がログインしてる状態だったら、何かあったらメッセージ頂戴。出来る限り優先して向かうわ」

「了解、それだけでもありがてぇ。……じゃあ先に行くわ」


私達に軽く頭を下げ、メウラはボスエリアから【始まりの街】へと転移していった。

一応それとなくバトルールの方を見てみると、軽く頷かれたため大丈夫なのだろう。

殆どゲーム内でフィッシュと共に行動している彼が大丈夫だと言っているのだから、恐らくフィッシュは管理しているダンジョンはないのだと思う。

それかあったとしても、別に攻略状態が白紙に戻ったとしても問題ないくらいにはメリットの薄いダンジョンしかないのかもしれない。


どちらにしても、攻守ともに心強く信頼できるプレイヤーが味方として動いてくれるというのはありがたい。

『白霧の森狐』に、とりあえず現在各地で起こっている騒ぎが一時的に収束するまではボスエリアに居るように、また辻神のような相手が出てきた時には全力で相対するようにと言い含めた後、周辺の救援が必要なダンジョンへと移動を開始した。


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