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Chapter3 - Episode 18


『そこの狐の女子は気付いているみたいだが、我の司る霧というものの性質は特殊なものだ』

「……辻神、異界、霧……あぁ、成程?狐さんが司ってる霧が異界に繋がって、そこから辻神が出てきちゃったとかそんなんですか?」

「おぉ、灰被りさん凄い。そうです、この狐と戦う時には上空に転移させられる霧とか噴き出すんで気を付けないといけないんですよ。今回はそれが仇になった」

『……我、必要か?』


灰被りの言葉に反応すると、『白霧の森狐』はいじけたように地に伏せた。

頭の回転が速く、魔術的な知識が私以上に深いと思われる灰被りにとっては狐の一言で大体正解を察することが出来たのだろう。


「いやまぁ、でも戦ってみたから分かるけど、辻神とあんただったらあんたの方が強いでしょう?何で憑依とかされてるの?」

『あぁ……その説明もあったな』


私の言葉に狐は再び身体を起こし、私達を見渡すように言葉を発する。

前から思っていたが、どうやって人の言葉を話しているのだろうか。

これも魔術の一種なのかもしれない。


『確かに辻神程度ならば我に敵うほどの力は持っていない。それこそ、こんなことになる前に自身で還すか滅するかのどちらかだったろうよ』

「だったらどうして……」

『何といえばいいのか……うむ、狐の女子達の言葉で言うなら『くらっきんぐ』という奴か?劣化ボスが居るだろう。アレは言ってしまえば我の一部。分体と言ってもいいほどには我の力が通っている存在だ。そこから徐々に静かに、我が気付かないように少しずつ浸食されていった、という訳よな』


クラッキング。

ネットワークに繋がっているパソコンなどに不正にアクセスしたり、内部データを破壊、改ざんしたりするという意味を持った単語だ。

Arseareがクラッキングされた、というのなら問題だが……狐の言い方的に、クラッキングされたのはこの狐自身。

それもシステム的なものではなく、恐らく魔術的クラッキングとでもいうべき芸当をした何者かが居た、という事だ。


「一応聞くけれど、アリアドネちゃん。辻神にそんな感じの能力ってあった?」

「なかったですね。ただ私の倒し方、というよりは戦闘が特殊な感じだったんでそれを信用していいか……ちなみにあんたは何か辻神についての情報は持ってないの?」

『我もそこまで詳しいわけではないんだがな。……あぁ、だが劣化ボス経由で知っているものは知っているが……辻神は目の前の相手に憑依する能力はあれど、遠く離れた……それこそ、分体を経由して我のような本体に憑依するような能力はないはずだ』


狐の言葉を全て信じるのならば。

辻神を手助けするように力を貸した何者かが別に居た可能性が浮上する。

だがしかし、そんな事をする相手が居るのであればいつも劣化ボスエリアに屯っている『駆除班』の面々が気付くだろう。

彼らが気付かなかった、もしくは気付かないほどに巧妙に手の内を隠しながら手助けをした?


正直な話、それを行ったのがプレイヤーだというのなら目的だけならば分からないわけでもない。

先程まで私達が行っていたボス奪還戦。それが失敗した時に起こることを考えれば動機としては十分ではないだろうか。


ダンジョン攻略状態の白紙化。

この『惑い霧の森』で言うのならば、私が『対話』という形で攻略した現状をぶち壊し、他の見知らぬプレイヤーが新たに出現したボスモブを『討伐』、或いは『対話』をもって攻略し、ボスクエストなどを再度こなせるようになる……ということ。

1つのダンジョンを失う代わりにダンジョンのリメイク、そして攻略状態の白紙化が出来るのならば……私もやりかねないかもしれない。そんな事を行える方法があるのなら、だが。


「……成程なぁ。メウラ、そっちは攻略したダンジョンって選択肢どうした?」

「あ?……あぁ、一応ここを見て色々とメリットが多そうだってことで『対話』にしたが」

「バトルールさん、『対話』を選んだダンジョンの所在地って大体掲示板に載ってたりします?」

「えぇ、載ってますよ。それこそメウラさんの『万象虐使の洞窟』の所在地も載ってますね」

「そりゃあ一応掲示板には報告しとかねぇと攻略されてるかどうかわからねぇからな」


メウラはそう答えたが、私は顎に手を添え、少し考える。

いや、考える必要はあまりない……というか。既に答え自体は出ているのだ。

犯人がプレイヤーだと仮定して、の話ではあるのだが。


「ねぇ、狐。もしかして劣化ボスの見てる視界って見れたりする?」

『出来るぞ』

「それなら、あんたが憑依される寸前に劣化ボスが見てた光景って思い出せる?そこに人みたいなのが居るかどうかでかなり変わってくるんだけど」

『……少し待て。何分、憑依されている時は記憶が曖昧になっているのだ。直前となると見間違いの可能性の方が高くなるぞ』

「それで良いから」


仮定を確定にするには、やはり私達プレイヤー視点だけでは情報が足りなさすぎる。

それならば当事者に話を聞くしかないだろう。

一応バトルール、そしてイベントのおかげで色んな意味で有名人となった灰被りにも協力してもらい、掲示板にて似たような報告がないかどうかを探してもらう。

それに加え、知り合いの『駆除班』の面々にも連絡しようとして……やめた。


彼らは彼らで普通に接するのならば愛想は良いのだが……事が事、プレイヤーが犯人の場合、真っ先に疑うべきは彼らのようないつもメンバーの誰かしらが劣化ボスに挑んでいた者達だ。

あまりやりたいことではないし、出来るならば話し合いで解決できればいいのだが……最悪の場合、彼らと『対話』を選んだプレイヤーでのすれ違いによる対立状態が出来上がってしまう可能性もあるのだから。


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