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Chapter3 - Episode 15


たまに天地が逆転するのに苦笑いしながら、私は前へと進む。

外ではフィッシュ達が大変な思いをしているのだろうかと、ふと頭に過ったものの、前回の倒し方を話した事がある3人にはさほど驚かれていないだろう。

……あ、もしかして私を止めようとしたのって灰被りさんかな。


この戦闘が無事に終わったら、オリジナルを倒した時の事を彼女に話そうかと思いつつ。

私が辿り着いたのは、刺激臭がする液体の溜まっている広けた場所だった。

胃袋だろう。

しかしながら、そこには前回見た覚えのない何かが存在していた。


薄暗いためしっかりとした色合いは分からないものの。

胃液に触れないように1枚の布が漂っている。

その布の端ともいうべき場所には、何故か鳥居のようなものが付いており……それだけ見た私は、不確かな肉の地面を蹴ってその布を掴もうと飛び出した。

瞬間、その布は私から逃げるように胃の奥へと漂っていく。

それと共に胃液が私の身体に全身にかかり、HPが減っていくが気にしなくてもいい。

こういう時の為にあまり用事もないのに街の道具屋を冷やかしつつ、回復薬などを買い込んでいたのだから。尚、造血剤などは補給出来ていないために【血液強化】のデメリットの一時的な克服はまだ出来ていないのだが。


……アレか。

そんなことよりも、目の前の出来事だ。

まさか見つかるとは思っていなかったが、思った以上に私の荒唐無稽な作戦も役に立つ時があるようで。

布、鳥居、それだけでも何かしら関係のある何かだろうと考えたものの……私から逃げるように風の無いこの場で移動したのが決定打となった。


アレが、辻神なのだろう。

異界との境界とも言われる霧によってこのダンジョンに迷い込んでしまった、招かれざる客だ。

思えば、この『白霧の森狐』と辻神は運にも相性が良かったのだと思う。


異界に棲む妖怪と、霧を使い限定的に相手を転移……つまりは異界と異界を繋げることが出来る力を持つ狐。

相性が悪いはずもない。

だがそれならば何故、憑依していると思われる辻神がこんな場所にいるのだろうかという疑問が過ったものの……とりあえず目の前に敵がいるのだ。まぁ今私は敵の腹の中にいるため、全方向に敵が居ると言っても過言ではないのだが。


『白霧の狐面』から霧を最大限引き出し、胃袋の中を霧で満たしていく。

このまま外に漏れてしまっても、外にいる面々を心配させるだけなのできちんと胃袋の中に留まるように操作しつつ……私は声を漏らす。


「【衝撃伝達】」


踏み込むように、足場となっている胃壁を蹴り衝撃波を発生させ辻神らしきそれへと向かって跳躍した。

だがそれだけでは捕らえることが出来ない事くらいは分かっている。


「【衝撃伝達】ッ!」


更に声をあげ、私は更に魔術を身に纏う。

手が空を切りそのまま胃液の中へとダイブするものの……着地の衝撃で再度跳び上がり、その布の一部を掴む事に成功した。

布だというのにドクンドクンと鼓動していて……何やら血が通っているかのような温かさがそこにはあった。


だが、次の瞬間のことだった。


【警告:現在の権限では到達できない領域に転移しようとしています】

【警告:幾つかの魔術に発動制限が付きます】

【警告:データ破損の危険性が高い行為です。ただちに中止してください。中止してく中止しろさい中止してくだ止めさろい止中めしてろくだ止さいめ中ろ止してめくろ止だめさしろい止中めさいろだ止中めさいろ止め中さいろ止だめろして止めしろくだ止さいめめくろ止だめさしてくだ止めさろい止中めしてろくだ――】


薄暗い身体の中でも判断出来ていた周囲の色が、突如白黒に変わる。

それに伴い、周囲の景色が変わっていく。

刺激臭のする液体は消え、肉の壁や床は真っ白の空間へと変化していった。


通知がどんどん流れていくのが視界の隅で見えているものの、私は手に掴んでいる布を離さない。

幸い、真っ白い空間に変わったからか胃液によるHP現象が止まったのを良いことに。

逃げようとする布を手繰り寄せ、鳥居のある端を掴む。

すると、そこには笑った人の顔のような模様が存在していた。


「辻神さんさぁ……やって良い事と悪い事があるの、知ってるかなぁ?」


私がそう問うと同時、目の前にウィンドウが出現する。


『うRUサ居』

「う……る、さい?煩いじゃあねぇんだよなぁ?」


布に対して地面に叩きつけても効果は薄いだろう。

ならばと考え、私は【血狐】を発動させようと声を漏らす……が、発動しない。

霧は出せるのか?と『白霧の狐面』を触ってみるも、そちらも反応はない。

何か条件があるのだろうか、と少し考えた後……私はインベントリ内からアイテムが取り出せるかを確認した。

結果は成功。回復薬や風邪薬を取り出すことが出来た。


ならばと、習得している魔術を次々に発動できるか試してみると……1つだけ発動することが出来る魔術が存在した。

前に使った時よりも規模は小さいものの、私と辻神の間にビー玉サイズの泥のような物が浮かび上がる。


憶測でしかないが、もしかしたらこの真っ白な空間は辻神に関係のある空間ではないだろうか。

だからこそ、この魔術だけは発動することが出来た。

元々辻神とは人に憑依し、それ・・を撒き散らすとされている妖怪なのだから。


「一応さぁ、知ってる?このゲームじゃ妖怪って生物範疇に含まれるんだって。このゲーム内の情報掲示板で見たから間違いないんだよねぇ、この情報」


突然そう言いだした私の言葉を理解できなかったのだろう。

笑っていた模様はきょとんとした顔の模様に変化する。

その後すぐにこちらを笑っているような挑発しているかのような顔へと変化した。

まるで、それがどうしたと私を笑っているように。


だから私も笑いながら言う。

何も知らない辻神を嗤う。


辻神に、ビー玉サイズのどす黒い泥の塊が命中し、染み込んでいく。

それと共に、苦悶の表情を浮かべる模様を浮かべる辻神を見つつ、私は血を吐いた。

視界の隅、表示されたのは……【感染症・・・血液・・】。

辻神の上にHPバーが出現し、それが減っていくのを見ながら私は回復薬を無理やり飲み込んで、喉から血を吐きつつ言う。


「とっておき、出来立てほやほやの【血液感染】だよ。がはっ……さぁ、どっちが先に音を上げるかの我慢大会といこうじゃない?」


勝負の決まっている我慢大会が、今始まった。


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