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Chapter3 - Episode 12


私の言葉にこのダンジョンの設定を知っている3人は納得したように頷き、詳しく知らない灰被りは少しだけ首を傾げた。

その様子に少しだけ苦笑しながら、私は口を開く。


「簡単に設定について話すと、ここのボスってこのダンジョンに出現するモブ達を浄化して普通の生き物に戻す、って事を今してるんですよ」

「……あぁ、成程?つまりはボスエリアには設定的に敵性モブが集まってくる、と」

「そういうことです。それにただダンジョン内を彷徨ってただけなら流石にこの量のモブに憑依とか出来ないと思うんですよねッ!」


狼達を対処するのに魔術は必要ない。

相手は強くなっているかもしれないが、それでも相手し慣れたモブが元になっているだけの相手。

その対処法自体は身体に染みついているし、そもそも生物範疇の動きしか出来ない現状。

無駄にMPを使うよりも自身の体術によって制圧した方が後々が楽になるだろう。


それしか行動パターンが無いのか、それとも憑依された影響か。

その鋭い爪を使わずに、飛びかかって噛みつくという1動作しか行わないパゼスドウルフの勢いに合わせるように、口の間に『熊手』を差し込んで切り裂いていく。

こちらが変にダガー自体を動かす必要はない。

相手の勢い、そしてダガー自体の鋭さだけで身体の半分程度まで突き進んだそれを一気に引き抜く。

瞬間、狼の血を浴びるものの、同時に光となって消えていくためすぐに綺麗になった。


そんな風に1体倒している間に、パーティの面々が他のパゼスドウルフも処理したようだ。

私以外が優秀だと本当に探索や戦闘の時に楽が出来て良いな、と場違いな感想が少しだけ頭に過る。


「……さて、と。流石に増援が来ないうちに急ぎましょうか。本来戦闘が無いはずのここで戦闘が起きたって事は中々に趣味の悪いイベントみたいですし?」


私の言葉に全員が頷き、周囲を警戒しながらも走り出す。


正直な話、私は少しばかり苛々としてきていた。

この先に存在している神社に関して私は詳しい事はほぼ知らず、知っていることも『白霧の森狐』から聞いた事くらいだ。

そして現状、私が適当に人の居ない場所で作業するために使っている作業場としても使っているあの神社。


普段ならば何も感じはしなかっただろう。

だが、何度も通っているうちに少しばかり情が移ってしまったのか、それとも私がこのダンジョンの管理を任されているからだろうか。

突然横から出てきた辻神なんて存在に、このダンジョンが荒らされているのが少しばかり我慢ならないのだ。

足を進め、知らず知らずのうちに『白霧の狐面』から霧を垂れ流しつつも私達はボスエリアへと移動した。


――――――――――――――――――――


『――――』


何かの鳴き声が聞こえた。

全てが白く、そして美しく朽ちた境内の中に響くその声は、次第に大きくなり。

私達の目の前に大きい黒の影を落とし、天から降ってくる。


それは、白く巨大な狐だった。しかし私達の知っている狐ではなかった。

光に当たり、何処か銀に光っているようにも見える毛並みは失われ、その綺麗だった顔は茶色く変色した布で覆われていた。

巨大な狐は綺麗になった神社を背に、牙を剥きだしにしながら威嚇をする。


唸る度にその身体から噴き出すのは白い霧ではなく、呪詛かと思うほどに黒い何かだった。


――――――――――――――――――――


【ダンジョンボスを発見しました】

【ボス:『祟霧の遺狐』】

【ボス奪還戦を開始します:参加人数5人】


――――――――――

Tips:ボス奪還戦

何らかの外的要因によって、オリジナルボスが別の存在に変質していく現象を止めるためのイベント戦闘

敗北すると元々のオリジナルボスは失われ、ダンジョンの名称なども変化する

元々ダンジョンを攻略し『対話』を選択していた場合にしか発生せず、変質後にはダンジョン内の劣化ボス出現エリアが撤去され、ダンジョンが攻略されていない状態に巻き戻ってしまうため注意が必要

――――――――――


予想はしていた。だが何処かでそれはないだろうと否定していた自分もいた。

だからこそ、実物を目の前にするとここまで悲しくなってしまうのかと愕然とし、燃え上がりかけていた怒りが私の思考を埋め尽くしていく。


「……ごめんなさい、先行します。【血狐】、【霧狐】、【脱兎】」

「は?ちょ、おい、アリアドネちゃん!?」


瞬間、私の身体は動き出していた。

2体の狐を召喚し、【脱兎】と【動作行使】によって発動させた【衝撃伝達】を併用し、『祟霧の遺狐』とやらに向かって攻撃を仕掛ける。

元より『白霧の森狐』が使っていた霧の能力なんて、私が一度喰らった上空に転移させる能力程度だ。注意する必要はない。

今は黒い何かを纏っているため何かしらの特殊能力が生えてそうだが、それも触れなければ関係はないだろう。


後ろから聞こえる動揺した声を半ば無視して、私は一気に巨大な狐の近く……その側面まで近づいて。

手に持った『熊手』に【動作行使】で発動させた【魔力付与】を纏わせ、直剣のように変化させて振り下ろした。


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