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Chapter3 - Episode 11


こちらへと牙を剥いて襲い掛かってくる狼に『熊手』の柄の部分で側頭部を殴ってやることで対応していく。

いつものミストウルフならば霧を使って加速や幻影のような物を出現させてくるのだが……今相手にしている狼はいつものように能力が使えないようだった。

その代わりといっては何だが……その頭には赤い鳥居が描かれ茶色く変色している布が付けられている。


名称は……『パゼスドウルフ』。

直訳すると……憑依された狼、だろうか?

何かに憑依されているため、いつものように能力が使えないとみるべきだろう。

では何に?と言われれば答えは単純で。


「あぁもう!辻神ってこんな憑依して人に襲い掛からせるような妖怪だったっけ?!」

「まぁ大方人に憑依するか動物に憑依するかで違うと思いますよ……それにしたってこれはどうかと思いますけど」


私たちが討伐に乗り出したのを察知したらしき辻神が、手当たり次第に敵性モブに憑依し襲ってきているのだ。

しかもそのどれもが霧に関する能力は使えないものの、難度5準拠の実力を伴った上で襲い掛かってくる。

とてもこの状態で実力の無いプレイヤー達をダンジョンに侵入させるわけにはいかないだろう。

それに、辻神に倒されるとどんな影響が出るのか分かったものではない。


「げっ、ミストスネークとミストベアーじゃん……」

「あら、かなり大物じゃないですか」


そうして1歩進む度にモブに遭遇するような感覚を味わいながら森の奥へと進んでいくと。

こちらを完全に認識した状態のミストスネークとミストベアーが、どちらも憑依された状態でこちらへと進んできていた。

元々能力らしきものをまともに使っていなかったベアーの方はいいとしても、霧の能力を攻撃の回避らしき行動にしか使っていなかったスネークの方は何をしてくるのか分からないため厄介だ。

幾ら憑依されているとは言え、元よりも強くなっているのだから油断は出来ない。

『熊手』を構え、必要ならば周囲の霧を使って魔術言語を行使しようと戦闘準備をした瞬間。

それ・・は降ってきた。


「……ちょっと面倒かもしれないです……ね……?」


灰被りと戦闘前に簡単なブリーフィングをしようかと口を開いた所で、急に空から降ってきた土塊・・と、その音に驚いて後の言葉が続かない。

だが、私はその正体を知っていた。

ついこの間自分自身で対処させられた攻撃だったからだ。


「よし、2キルっと。間に合ったみたいで何よりだ」

「おいおいずるいぜメウラくん。次出たら私の獲物だからな?」

「先輩はもう少し前に出るのを控えてください……ほら、回復薬」

「あは、ありがとうバトくん。でも出来ない相談だねぇ。やっぱりこういう思いっきり戦える時に戦っておかないと身体が訛っちゃうしね。それに最近部屋に籠ってたからさ」


聞こえてきたのは、1人久々な人もいるものの……何度か共に冒険を行ってきた仲間の声。

背後に視線を向ければ、そこにはこちらに手を振りながら近づいてくるメウラ、フィッシュ、そしてバトルールの姿があった。



「……成程、だから3人パーティなのにミストイーグルが出てこないわけだ」

「あいつら霧系の能力使ってないように見えて、アリアドネちゃんみたいな能力持ってるしねぇ」

「アレと一緒にされるのは少し嫌ですね」

「あは、霧の中から奇襲してくるんだから実際似たようなもんだぜ?」


合流した3人に現状の詳しい説明などの情報のすり合わせを行いながら、森の奥へ奥へと進んでいく。

その仮定で分かったのは、霧関係の能力が使えないことで相対的には弱体化している個体もいる、ということだ。


例えば話題にもなったミストイーグル。

こちらはイーグル種の特徴としてプレイヤーの数に応じて数を増やし、空から奇襲をかけてくる……というモブではあるが、『惑い霧の森』では霧の中でも獲物を見つけられるように、私の『白霧の狐面』のような能力があったらしい。


そんな便利な能力があったミストイーグルは、辻神に憑依された事で霧を見通す能力が使用不能に。

結果、自身も霧の中には居るものの獲物が発見できなくなり、ただ飛ぶだけのモブに成り下がったようだ。

勿論憑依されてない個体は襲い掛かってくるものの、その数は普段よりもずっと少なく。

その個体も私達の方に誘導されているのか、メウラ達のように新しく森へと侵入してきたプレイヤー達の方には行っていないらしい。


他にも、憑依され霧を泳げなくなったため地面に打ち上がった状態で跳ねていたというミストシャークや、普段は霧によって分身を作り出していたが憑依された結果1匹での行動を強制されたミストラットなど……もしかしたら強いだけで、普段よりも行動はしやすいのが現状のこのダンジョンなのかもしれない。


「そういえば迷いなく歩いてますけど、アリアドネさんは辻神が居そうな場所の心当たりなんかはあるんですか?」

「まぁあると言えばありますけど……嫌な予感しかしないんですよね」

「この方向っていうと……あぁ、成程。確かに嫌な予感しかしないねぇ」

「でしょう?」

「ふむ?この先に一体何が……おっと?」


突然、周りの景色が森から切り替わる。

真っ白な石で作られた石畳の通路とその脇に並ぶ無数の灯篭。

私は何度も、メウラ達も何度か歩いた見知った場所。

そう、ボスエリアへと続く道だ。


「多分、辻神さんはボスエリアに居ると思うんですよねぇ……このダンジョンの設定的に」


私の声を肯定するかのように、道の先……神社のある方向からは複数のパゼスドウルフ達がこちらへと向かって駆けてくるのが見えていた。

一度目を伏せ、色々と考えつつも。

私は迎え撃つためにダガーを構えた。


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