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Chapter3 - Episode 9


「火の性質を魔術的に変えてやる……それだけで、ただの水だけで火を炎と呼べる程度に成長させることも出来る。それを可能にするのが魔術言語なんですよ」

「……普通の魔術では、出来ない?」

「少なくとも私がこのArseareで確認した魔術の中で、そんな魔術モノ、そんな特性を持った敵性モブは見かけてないですね。もしかしたら何処かにはいるかもしれないですけど」


説明を聞けば、元より害の無い火を熾すだけの魔術言語である『火を熾す』の構成を変え、火に触れたら『怪我をする』ように、『水で勢いが強まる』ように、そして『その代わりに着火器ライター程度の火力しかでない』ようにしているらしい。

だから一度見せてもらった時に色々な魔術言語が複雑に組み合わさっているように見えたのだろう。

1つの元となる魔術言語に、複数の魔術言語が制限を加えるように、そしてその言語の意味を拡張するように重なり、複雑化しているのだから当然だ。

その分、消費するMP量なんかが膨大になっていそうだが……彼女を見る限り、そんなに消費しているようにも見えない。もしかしたら装備か何かによって消費量を誤魔化しているのかもしれない。


「……もしかして、使ってる魔術言語全部にそんな設定をしてたりします?」

「ふふ」


肯定も否定もなく、返ってきたのは薄い笑みだけだった。

思わず肩を落としてしまう。

別に私は魔術言語のエキスパートというわけではない。この間のイベント前にようやっと魔術言語をある程度満足に使えるようになっただけの一般狐人だ。

ここまでの理解度、習熟度の差をまざまざと見せつけられると……少しだけ自信を無くす。

だがそれと同時に、私が出来る事が広がることにワクワクしている自分もそこにいた。


「あ、はは……いいですね。いいっすねそれ。色々と使えるじゃあないですかその場で対応できるなら、極論その身1つでどんなダンジョンだって攻略できるって事じゃあないですか」

「でしょう?まぁ現実はそこまで甘くないとしても、これがパッと出来るだけでもかなり変わります。……少し試してみます?」

「やりましょう。あぁ、どうせなら近くの私が管理してるダンジョンに行きましょう。そっちの方が色々と邪魔も入らなさそうですし」


そう言いながら私は周りを見る。

そろそろ移動しなければ、周囲に集まってきたプレイヤー達に灰被りが捕まって質問攻めにあってしまう可能性があるだろう。

実際、こちらをキラキラとした目で見ているプレイヤーが何人いるため、質問されるのはほぼ確実だ。


「そうしましょうか。どっちです?」

「ここから少し進んだ所で……森型です。特性は『惑い霧』」

「あぁ、成程……そこを攻略してたから霧系の魔術が多かったんですね」

「偏るのも良くないとは思ってるんですけどね。よし、じゃあ行きましょう。先導します」


そう言って、私は【脱兎】を小さく発動させた。

どうせダンジョン内に入れば私と一緒にいる灰被りは兎も角として、他のプレイヤー達は追いかけてきても『惑い霧』の特性であるマップ機能制限などに引っかかって追跡できなくなるだろう。


灰被りが頷いたのを確認してからトップスピードで走り出した。

どうせなら【血液強化】も使ってやろうかな、とも考えたものの……いくら慣れ親しんだ場所とは言え、ダンジョンの奥へと進んでいくのだ。

全ステータス低下が付与されるような魔術を使うのはまずいだろう。


暫くして、森の入り口が見え。

視線だけで会話してそのままダンジョンの中へと侵入した。

しかしダンジョンに侵入した私を待っていたのはいつもの『惑い霧の森』ではなかった。


【ダンジョンに侵入しました】

【『惑い霧の森』 難度:5】

【ダンジョンの特性により、MAP機能が一時的に制限されました】


「……は?」

「難度5?アリアドネさん結構難度の高いダンジョンを攻略してたんですね……ってどうしたんです?」

「ここ、『惑い霧の森』って最初攻略した時は難度1だったんですよ。その後、出現するモブの種類が増えて3まで上がってたのは確認したんですけど……流石に5になってるのは」

「……成程、とりあえず周囲の霧を移動させることは可能ですか?私も見える範囲が広い方がいいので。あとは……ここの劣化ボスのエリアは?」

「了解です。ボスの方も案内出来ます。いつも『駆除班』が常駐してたんで誰かしらいるかと」

「じゃあまずはそこに行きましょう。案内お願いします」

「了解です」


イベントが終わった後に訪れた時はまだ難度は3だった。

そこはまだいい。ミストシャークやミストウルフ、たまに出現するミストスネークなんてものが居て、初めたての初心者でも攻略できるような難度1であるとは口が裂けても言えないからだ。


だが、難度5は流石におかしい。

私と灰被りがクリアしてきた所謂最前線に存在したダンジョンである『天日照らす砂漠』ですら難度4だったのだ。

このダンジョン内に何か変化が起こったとでもいうのだろうか。

少しばかりの不安を胸に、私は『白霧の狐面』、『霧の社の手編み鈴』の能力を総動員して劣化ボスに挑めるエリアへと急いだ。


――――――――――

Name:アリアドネ Level:18

HP:430/430 MP:145/145

Rank:novie magi

Magic:【創魔】、【魔力付与】、【挑発】、【脱兎】

【霧術】:【衝撃伝達】、【霧の羽を】、【ラクエウス】、【霧狐】

【血術】:【血液強化】、【血狐】、【血液感染】

Equipment:『熊手』、『狭霧の外套』、『狭霧の短洋袴』、『ミストグローブ』、『ミストロングブーツ』、『白霧の狐面』、『霧の社の手編み鈴』

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