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Chapter3 - Episode 8


「いやー……お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。中々面白いモノが見れました」


ダンジョンアタック後、私達は話し合いにも使った喫茶店にて反省会と言う名のただただダンジョンの感想を言い合うだけの会を行っていた。

といってもそれぞれ見たものもほぼ同じ、唯一違ったのはボス戦での動き程度。

そのボス戦に関しても、ほぼほぼ問題なく進んだためあまり話し合うこともなかったのだ。

強いて挙げるのならばそれは、


「魔術言語、やっぱり使える人は使えますよねぇ」

「使えますね。アリアドネさんみたいに霧で言語を作り上げるのは見た事なかったですが、それでも便利なのは確かですから」


ボス戦中、しれっと灰被りが使っていた魔術言語についての話だろう。

灰被りは明らかに私よりも知識やそれに纏わる経験が深い。

それこそ、似たようなゲームを他でもやっていたのだろう。

彼女から聞く、もしくは色々と彼女の行動を見て技術を学ぶというのはかなり意味のあることだった。


「あー、アレ割と皆やりそうなもんですけどね」

「他の人は私含めて操作系……水とか炎とかを操作する方を習得するんで、結構形の変化とかって難しいんですよ。今回は砂を使いましたけど、成形する時の難度が全然違いましたね」

「成程、ちなみにどれくらい違いました?」

「縄跳びでいう二重跳びと三重跳びくらいの差ですかね?」

「かなり違いますねそれ」


独特な例えで教えてくれたものの、かなり難しくなるというのだけは分かった。

人の素質によってそれが簡単に出来るか出来ないか、というのも。


「まぁ、魔術言語に関しては色々と応用方法があると思います。アリアドネさんの文字成形もそうですが、例えば……」


と、ここで彼女は手袋をした右手の人差し指を1本立てた。

何をするのかと見ていると、その指先にぽんっという軽い音を立てながらライター程度の火が熾った。

恐らくは魔術言語で発生させた火なのだろう。

しかしながら魔術言語が成立した時特有の、何処かに書かれた文字が燃えて無くなっていく現象がどこにも見られない。


「こういう風に、文字を燃やすことなく……消費する事なく使用できたりもします」

「わぁ……ちなみにどうやってるとか教えてもらえたり?」

「これくらいなら全然いいですよ、というかタネ明かしをするとかなり簡単なことでして。単純に燃えない素材に文字を書いてあるだけなんですこれ」


そう言いながら、彼女は手袋を外して裏返し私に手渡してきた。

指先の裏側全てに魔術言語が書かれており、丁度右人差し指の先には『火を熾す』を威力を調整し、ライター程度の火力しか出ないようにしてある言語が書かれていた。それ以外にも何やら書かれているが……パッと見た程度では複雑に設計されているためか理解が出来ない。

他にも便利に使えそうな魔術言語が書かれていたものの、その全てを解読するのは流石に悪いと思いそのまま返す。


「その手袋、燃えないんですね」

「えぇ。私の炎系の魔術の元になったモブから作ったんですけど、燃えない代わりに他の部分が少し残念な事にはなったんですけどね……」

「成程……でも確かに燃えない素材なら書いても燃えない……道理ですね」

「魔術なんてものを扱ってるんで、そんな性質無視してくるかなぁと思ってたんですけどね。意外とそこらへんは素直みたいなんですよ、このゲーム。重力はきちんと働くし、魔術で現実を書き換えようとすれば、その分重いコストが掛かる。現実に起こり得る事ならばそこまでコストが掛からずに起こすことが出来るし、現実に沿った動き方を設定してやれば、その分消費コストを抑えることも出来る」


指を鳴らし、小さな水球を出現させて自身の周りをぐるぐると衛星のように周回させながら彼女は言う。

実際、私の使っている魔術にも彼女の言う通りコストが重かったり、それとは逆にコストが異常に少ないモノが存在している。

例を挙げるとすれば……【血狐】や【衝撃伝達】辺りだろうか。


「でも現実を覆すことが出来るのも魔術の特徴なんですよ。通常ゲーム的な相性で考えるのなら火属性の相手に水は効果抜群……みたいなイメージがありますけど、このArseareだと相手によってそれが変わってくる」


話をしながら喫茶店では何だし、ということで移動する。

場所は……【平原】でいいだろう。

あそこなら初心者もいるものの、比較的広いし何をやっても咎められないだろう。……それこそ、【挑発】を暴発させるような事がなければ、だが。


少し歩き、【平原】に辿り着く。

第一回のイベント優勝者である灰被りが来たからか、少しばかり周囲のプレイヤー達が色めき立っているのが分かったが、別段話しかけてくるわけでもないため放っておいても良いだろう。


「えぇっと、どこまで話しましたっけ……あぁ、相性だ。そう、相手によって変わってしまうんです。例えば、ほら。この喫茶店からずっと出してたこの水球。普通ならこれを、こっちの火にぶつけたら……火が消えてしまいますよね?」


再度彼女は魔術言語を使い、手袋の先に火を熾しながら私に問う。


「まぁ……ゲーム的に考えるならそうなりますね」

「そう。でも実際はこうなります」


彼女がそう言った瞬間、水球が火にぶつかり……火の勢いが増していく。

まるで水球を吸収するかのように巨大化した火……炎を、灰被りは邪魔そうに近くにいたイニティラビットへと投げつけた。

突然投げつけられたそれに反応出来なかったのか、イニティラビットは炎に巻かれ、そのまま光となって消えていく。


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