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Chapter3 - Episode 4


正直、【血液感染】は思った以上の強さと広がり方をしてしまった。

一度、まだ接敵していないエリモスウルフ達に対して使ってみようと、少し離れた位置から発動してみたのだが、これがまた凄まじい。


発動と同時、私の足元から大体胸の高さまで黒いドロッとした液体が沸き上がり、赤黒いオーラを纏いながら球体を成形していく。

呆気にとられた私が慌ててエリモスウルフの方へと指を向ければ、そのままゆっくりと射出された。

だがゆっくりだったのは射出してすぐのみ。一気にスイッチが入ったかのように加速したその禍々しい球は、エリモスウルフ達の1体に命中する。


変化は一瞬だった。

命中と同時、球がエリモスウルフを捕食するかのように包み込み……その後溶けるかのようにして消えていく。

命中したエリモスウルフはと言えば、その身体に赤黒いオーラを纏いながら時折血を吐き出しているという……少しばかり可哀想な状態になってしまった。


それと同時、周囲の【血液感染】が命中していないエリモスウルフ達がどう察知したのか、こちらへと向かってこようとした瞬間。

その全てに対して赤黒いオーラが襲い掛かった。

【血液感染】の効果なのか、それとも【感染症】自体の効果なのかは分からないが、どちらにしても傍から見たら地獄絵図にしか見えない状況が完成してしまった。

しかもそれらを狩ろうと近づきたくとも、術の行使者である私や、同じパーティメンバーである灰被りにも【感染症】が罹ってしまう可能性があるため、下手に近づくことすらできない。


最終的に遠距離攻撃によって仕留めたものの、しっかりとエリモスウルフ達の身体が光となって消えた後も少しの間近づくのを躊躇ってしまった程だ。

何と使いにくいものを創ってしまったのか。


「……どうします?これ」

「いや、えぇ。何というか……いえ、一応風邪薬自体は手持ちにあるにはありますけど……これもしかしなくても、【感染症】の宿主キャリアが近くに居たら魔術の効果じゃなくデバフの効果で感染しますよね……」

「恐らく、というか確実にそうなるかと……」

「下手に街中で使ったら確実に1つ街が滅びますね」

「……早めに等級強化して、制限つけておきます」


灰被りの圧力に押されながら、私は折角創った範囲攻撃魔術である【血液感染】の使用を控えることにした。

ちなみに等級強化の方だが、『死病蔓延る村』のボスである『病魔の術師』の素材で問題なく強化を行えるのが分かっている。

流石にこの場で魔術言語が載っている魔導書を開くような真似はしたくないためやらないものの、少しばかり後でこの魔術の言語の調整なども行った方がいいだろう。

近くで使えば自爆必至のこの魔術に、出来ることならばセーフティというか、せめて私だけでも効果の対象外となるような効果を付けてやりたい。


「ま、まぁ。一応罹っているのが居なくなれば近づけるようにはなるのが分かってるので!それに『天日照らす砂漠ここ』なら私が狼達の相手をすればいいだけですからね!」

「すいません……」

「あは、ははは……気を取り直してボスを探しちゃいましょうか。所謂フィールド型のダンジョンなら特殊な条件でもない限りはボスエリアに辿り着くんですけど……」


居た堪れなくなったのだろう、話を変えた灰被りに私も乗っかり雰囲気を変えることにした。


「そういえばこのダンジョンのボスって目撃情報あったりするんですか?」

「一応は。アリジゴク型……所謂ウスバカゲロウの幼虫をそのまま大きくしたボスらしいですよ」

「それは……対話、できなさそうですね」

「まぁ元々討伐するつもりなのでそこらへんは大丈夫でしょう。もしかしたらすごく頭が良くて、理路整然と話し出すかもしれませんよ?」

「それはそれで一種のホラーですけどねぇ」


ウスバカゲロウの幼虫、通称アリジゴク。

穴を掘り、そこに落ちてきた昆虫などを自身の毒によって溶かし喰らう、中々に危ない虫だ。

その毒性はフグ毒の130倍だとかなんとか。中々に危険なのだが……それがボスとなってくると、色々と戦い方を考える必要があるかもしれない。

最悪、灰被りに断ってでも【血液感染】を使ってHPを削り取っていった方が良い可能性だって生まれてきた。


というか、アリジゴクならば近接戦闘が出来ない可能性の方が高い。

その場合、私の攻撃手段が本当に限られてしまうため、いずれにせよ使う必要が出てきそうだ。

それが分かっているのか、灰被りが苦笑いを浮かべながらインベントリから風邪薬を何本かこちらへと渡してきてくれたため、こちらも苦笑いを浮かべながらそれを受け取った。

今度街の道具屋に寄る時は、造血剤と共に風邪薬も買い込むことにしよう。


途中、主に私の所為で不測の事態になりかけたものの。

ダンジョン攻略自体は問題なく進んでいった。

正直、私は兎も角として灰被りの戦闘能力が高いため、ほぼ全ての戦闘で苦戦しなかったのが大きいだろう。


道中に出てきた敵性モブ……エリモスウルフやエリモススネーク以外にも、エリモススコーピオンや、エリモスシャークなどとも戦闘を行ったが、それらに関しても特にこれと言って危ない要素は存在しなかった。

普段から暇さえあれば『白霧の森狐』をしばいている私は勿論の事、灰被りも似たような事をしているのか、初見の攻撃であってもある程度余裕をもって捌けていた程だ。

そうして私達はダンジョンの奥……ボスエリアへと辿り着いた。


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