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Chapter3 - Episode 2


太陽によって熱された砂をその場で前方に向かって蹴る。

既にエリモススネークは砂の下に潜っているため、目の前には居ないがこれでいい。

発動させておいた【衝撃伝達】が私の蹴りに反応し、蹴った範囲よりも広く衝撃波によって砂を撒き散らしていく。


一見すると、意味のない行動。

しかしながら、【衝撃伝達】で発生した衝撃波は多少指向性はあるものの、基本的に『波』という名前の通り、インパクトの位置から波紋状に広がっていく。

それは横方向だけではなく、上下……つまりは砂の下にも伝わっていくわけで。


『ッ~~~!!』

「いやぁ、釣れた釣れた」


衝撃波が嫌だったのか、それとも別の要因が存在しているのか。

砂の中から逃げてくるようにエリモススネークが飛び出てきてのたうち回る。

本来、砂の中にいる相手に対しては効果の薄いこの攻撃方法ではあるものの、エリモススネークの特徴か、それともスネーク系ともいうべきモブの特徴なのか、毎回毎回これをやる度に砂から飛び出しのたうち回るため、今ではすっかり私がこのダンジョンでの蛇狩りを担当していた。


びったんびったんと暴れるエリモススネークに、タイミングを見計らって一気に接近し【衝撃伝達】を発動させてから『熊手』を刺し込んだ。

瞬間、再度衝撃波が発生し、エリモススネークの身体の内部をダガーの刃を中心にズタズタに破壊していく。

そのまま力任せに引き抜きながら、声高らかに魔術の宣言を行った。


「【霧の羽を】!」

「ッ!ありがとうございます!」

「いえいえ!」


瞬間、目の前のエリモススネーク及び、灰被りに襲い掛かっている土気色の狼……エリモスウルフ達の頭に非実体の羽が舞い降りる。

私の習得している【霧術】の中で、唯一霧に関係なく戦闘中ならば行使できる視覚妨害用の魔術。

最初から使わなかったのは特に理由はなく、今使ったのものたうち回られるよりも羽を振り払うために頭を振ってもらった方がこちらがダメージを与えやすいなと思っただけの事。

そのついでで、声の届く範囲に居る灰被りの方のエリモスウルフにも効果を掛けられればいいなぁと思っただけだ。


私が近くに居るのにも関わらず、頭を振って羽を振り払おうとし始めたエリモススネークに対して更に『熊手』を差し込みダメージを追加で与えていく。

どうやらこの蛇に対してはキチンと視界制限が効いてくれるようだ。行き当たりばったりではあったもの、試した価値があったというもの。

こうなればほぼ戦闘は終了したようなものだった。


【『砂漠蛇の肉』、『砂漠蛇の鱗』、『砂漠狼の毛皮』、『砂漠狼の牙』を入手しました】


「お疲れ様です」

「お疲れ様です、途中助かりました」

「あぁいえいえ。アレ、自分の為にやってたことだったんでお礼言われる程のことじゃないですよ」


戦闘後、灰被りが発動してくれた巨大な氷の花を作り出す魔術によって日避け、水分補給など諸々の事を行いながら、彼女と話をする。

今回の大目的はこのダンジョンの攻略ではあるが、私にはそれ以外にも彼女と仲良くなるという小目的が存在するのだから。


「ちなみにエリモスウルフはどうでした?他の狼とは違って群れてるように見えたんですけど」

「1体1体はそこまで強くなかったですよ。それこそ普通のウルフ系のモブと同じくらいかしら。……でも、その分範囲攻撃とかないと厳しくはなりましたね」

「あー……やっぱりそうかぁ。面倒だなぁ、モブの特徴」


以前から、ダンジョン内に出現するモブはそれぞれモチーフにされたと思われる動物の特徴を持っていた。

しかしながらそれに加え、ダンジョンの難度が上がっていくにつれて特殊な行動や特徴と言うべきものを増やしていくのが確認されたのだ。


先程まで灰被りが相手にしていたエリモスウルフの群れ化もその内の1つ。

面倒とは思うが、ただHPや攻撃能力、防御能力が変化するだけの難易度変化よりは面白いとは思う。

実際に対応する側の意見として言えば面倒としか言いようがないのだが。


「アリアドネさんは範囲攻撃系の魔術は持ってないんでしたっけ?」

「えぇ、単体系ばっかりですね。一応使い方によっては範囲攻撃出来なくはないのもあるにはありますけど、純粋な範囲攻撃ってのは……ないですねぇ」

「成程……創る予定とかは?」

「んんー、良い素材があればですね。今の所はそれらしいものは発見出来てないし……ほら、この前のイベント報酬もまだ受け取ってないんですよ。そろそろ期限ではあるんですけどね」


私はウィンドウを表示し、イベント報酬、そのダンジョン選択用のウィンドウを出現させる。

一応期限までは残り1~2週間ほど存在しているが、後回しにしていると確実に忘れてしまうため、そろそろ決める必要があるだろう。


私が行った事のあるダンジョンは現状4つ。

『惑い霧の森』、『蝕み罠の遺跡』、『死病蔓延る村』、そして現在攻略中の『天日照らす砂漠』だ。

『天日照らす砂漠』はこの際置いておくとしても、他の3つに範囲攻撃をしてくるようなモブ、範囲攻撃系の魔術に適していそうな素材があるかと言われると……正直首を捻らざるを得ない。

いや、それこそ1番範囲攻撃を習得できそうな『死病蔓延る村』の素材は魅力的ではあるのだが、それもそれでデメリットが中々なものになりそうな予感がするのだ。


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