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Chapter2 - Episode 45


『プレイヤーの皆さん!お疲れ様でしたぁー!優勝者の灰被りさんに盛大な拍手を!善戦惜しくも敗退してしまった準優勝のRTBNさんにも惜しみない賞賛を!そして今回のイベント【双魔研鑽の闘技場】に参加していただいたプレイヤーの皆さんに心からの感謝を!』


闘技場の中央に出現した運営の木村さんが声を高らかにあげ、イベントの終わりを告げる。

何処かやりきったように思える笑みを浮かべているのが見え、こちらも思わず笑みを浮かべてしまった。


『おぉっと、忘れる所でした!今回参加してくれたお礼として、プレイヤーの皆さんには参加賞として今まで行った事のあるダンジョンの中の1つ、そこに出現するモブの素材を全種類1つずつ配布いたします!これに関しては未参加の方も受け取れるのでご安心を!』

「おぉ、凄い。太っ腹じゃん」

「確かにな。……でもダンジョンの中の1つって事は選ばないとか……迷うな」

「でも選択肢少ないよね?私達」

「それは言うな」


ダンジョンに出現するモブの素材を全種類。

素材から魔術を創造できるこのゲームからしてみれば、それがどれだけ太っ腹な配布かが分かってしまう。

だが、運営的にはこれで問題ないのだろう。

プレイヤー側に課せられた唯一とも言える目標は、『魔の頂に至ること』。

魔術を創り、そしてその先に行けるのならばそれで良し。

経験を積み、そして研鑽していく……イベント名の通りにプレイヤーの実力をあげるための配布。


今回のイベントの名称も【双魔研鑽の闘技場】。

つまりはこの初イベント自体が、プレイヤー同士の研鑽の場。

自身よりも上の実力を持つ者達の動きや、使う魔術を実際に見て研究し、それを創造し、実戦を経験することにつなげるための場だったのだろう。


『ではでは!今回のイベントはここで終了となりますが、今後も何個か既にイベント企画を考えているのでお楽しみに!……あ、これは内緒ですが、近々アップデートもありますよ。では!プレイヤーの皆さん、これからの魔道に、知恵の光あらんことを』


一礼し、その姿が光となって掻き消える。

それと共に通知が何個か流れた。

その中でも自身に必要なモノだけをピックアップしていく。


【今すぐにイベントフィールドから通常のフィールドへと転移しますか?(この選択はいつでも可能です)】

【イベントフィールド閉鎖まで残り1時間】

【イベント参加の報酬リストを受信しました。受け取るにはシステムメッセージを表示してください】


それらに目を通し、後に回しても良さそうだと判断してから回りを見渡す。

近くに居るメウラとグリムは既にイベント報酬の選択に移っているようだが、私にはやりたいことがあるのだ。

現在私達が居るのは、本戦参加者用の観戦席。運営がそのままイベント観戦者用の席に転移させたら色々と面倒が起こるだろうと配慮して作られた席。

つまり、イベントが終わった現在は本戦出場者が全員この場に揃っているということで。


「あっ見つけた」


私が話したいと思っていた灰被りもこの場にいるのだ。

彼女は私の声に反応し、見ていたウィンドウから顔を上げる。

目と目が合った。少しばかり反応に迷ったかのようにこちらへと曖昧な笑みを浮かべている。


「貴女は……アリアドネさん、ですよね?」

「どうも、Aブロックの準決勝では胸をお借りしました」

「あぁどうもご丁寧に……えぇっと、何用で?」


私がただ挨拶に来ただけじゃないと気が付いているのか、少しばかり警戒したようにこちらを見る灰被りに対し、私は満面の笑みを浮かべながらこう告げた。


「少しお話しませんか?あ、もしあれだったら全然いいんですけど……」

「話、ですか?」

「えぇ、例えば……そう!試合でも思ったんですけど、凄い綺麗に魔術の発動を繋げてたじゃないですか!アレ凄いなぁって思って!」

「あぁ、話ってそういう……ふふ、あれは少しコツがいるんですけど、分かってしまえば簡単なテクニックなんですよ」


私の発言に何やら一瞬呆気にとられたような表情を見せた後に、微笑みながら答えてくれる。

その後、私は時間いっぱいまで灰被りと雑談や魔術に関する彼女の講義を聞いたりしてからイベントフィールドから【始まりの街】へと転移した。

……ふふ、今度ダンジョンを一緒に攻略する約束とりつけちゃった。

後日詳しい日程を決めることにはなっているが、自分よりも明確に力も技術も上のプレイヤーと一緒にプレイできるのだ。楽しみで仕方がない。



後日。

私はいつものように『惑い霧の森』、その最奥であるボスエリアの改修された神社の境内にて、今回のイベントであった事を独り言のように呟いていた。


「……ってぇ、わけで今回のイベントは負けちゃったけど色々と私的には収穫があったわけよ」


誰に向かって話すわけでもなく。

しかしながら、明確に相手がいるように話す姿は……この場に誰か他のプレイヤーが居れば、精神的に心配されても仕方がないだろう。

しかしながら私はこれをおかしいとは思っていない。

いや、私自身もこんな1人で虚空に向かって話しかけるのはどうかと思うが論点はそこではなく。


このゲームには魔術が、そしてそれに類する技術が存在している。

それに加え、精霊や幽霊なんかといったプレイヤーを除いて普段目には見えない存在が実際に居ることも、魔術言語の教本から知ることが出来た。

つまりはこの場において私の話を聞くモノは誰かしら、目に見えずとも居るわけで。


ちりん、と鈴の音のような音が耳にどこからともなく聞こえてくる。

まるで私の話に返事を行うかのように。

その反応に少しだけ笑みを浮かべながら、私は更に言葉を続ける。

あの馬鹿の姿を思い浮かべながら。


「次はもっと他の話も持ってくるよ。……そうだなぁ、こんなに緑豊かじゃない所とか、どうかな?」


私は今日も、語り掛ける。

きっとこの話が見えない誰かに届いてると信じて。


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