その後、本戦は特に問題なく進んでいき、決勝戦。
決勝に勝ち進んだのは私を倒した後、グリムまでもを打倒した灰被り。
対してBブロック側から出場するはRTBNという名前のプレイヤーだった。
目深に被ったローブ、そして複数の試験管のような物を持っているその姿は、魔術師と言うよりは研究者だとかそれに類するものだと言われた方がまだ納得できるだろう。
「うーん、グリムさんはあのRTBNってプレイヤーの事知ってます?」
「えぇ、一応。でも私よりそっちのお兄さんの方が知ってるんじゃない?」
「まぁ知ってはいるが……なんでここにあんたがいるんだ……?」
「あぁ、予選で仲良くなったんだよね。で、メウラが知ってるってどういうこと?」
「あー……もう何も言うまい。RTBNさんは俺と同じ生産組でな。しかも使う魔術の系統も同じなんだよ」
メウラと同じ系統の魔術。
彼が言っているのは生産系の魔術の事ではないだろう。つまりは戦闘用の、使役系の魔術を扱う魔術師。
そこまで考え、試験管という部分で思い至る。
「あ、もしかして所謂錬金術師って奴?」
「まぁ、な。錬金術ってのはまぁ言っちまえば科学分野のものなんだが……このゲームじゃ一応魔術的に錬金術を扱う事が出来るみたいでな。そういう意味での生産組なのさ」
秘密主義なのかいつも素顔は出さねぇけどな、と笑うメウラの事を放っておき、試合内容が中継されているウィンドウへと視線を向ける。
灰被りは私やグリムに使った魔術のコンボによってRTBNを攻撃するものの、肝心の本人はその場から動かず、手に持った試験管を地面へと落とした。
ガラスで出来た容器が地面と接触すると同時に割れ、中の液体を周囲へと撒き散らす。
瞬間、その液体が白く変化し、その性質すらも変化させていく。
液体だったものが個体に、無秩序に肥大化していくものが何かしらの形へと整形され。
最終的に、1体の人型の何かがその場に現れる。
「錬金術って事は、もしかしてホムンクルス?」
「そうそう。パラケルススっていう現実に居た錬金術師さんが作り出したとされる人工生命体。色々と作成段階から弄られてるだろうけど、その流れを汲んだんじゃないかしら」
「へぇ……詳しいですね、グリムさん」
「まぁ一応ね。そもそも
確かに、と1つ頷き戦闘の続きを観る。
話している間に、RTBNは同じ型のホムンクルスを複数……計5体生み出しており。
自身の目の前に盾のように並べていた。
ホムンクルスと、氷の茨がぶつかり爆ぜる。
私はまともに喰らっていないためどんな効果があるのかは知らなかったが、どうやらあの氷の茨には生物に触れると爆発するという危険な性質を持っていたようで。
ホムンクルスたちに触れる度に爆発し、その余波でRTBNが後ろへと吹き飛んでいく……が、しかし。
綺麗に受け身を取りながら、新たな試験管……というよりもフラスコを虚空から出現させる。
人型のホムンクルスを生み出した時よりも入っている液体も、その大きさも違うそれを、RTBNは同じように地面に落とす。
地面と激突すると共に周囲に撒き散らされた液体は、先程と同じように白く変化し、ホムンクルスとしての身体を形成していく。
人型とは比べ物にならないほどの大きさ。
生み出したRTBNよりも1回りも2回りも大きいそれは、何処か西洋の竜を思わせるデザインをしていた。
竜型とでもいうべきホムンクルスは、飛んでくる火の花弁をその巨躯で撃ち落とし灰被りへと突き進む。
羽は生えているものの、どうやら飛ぶことは出来ないようで。そのまま地を突き進んでいく姿は少しだけ滑稽だが……今後、飛べるホムンクルスが出てくるかもしれないと考えると、アレの対策も考えなければならないだろう。
「あっ、決着ね」
「えっ?」
不意にグリムが呟いた言葉を疑問に思い、試合をじっくりと見てみると。
灰被りの瞳が淡く光っているように見えた。
対峙したから分かるが、彼女が魔術を発動させている時にあんな光を瞳から出している事はなかったため、私の知らない隠し玉のようなものだろうか。
しかしながらそれだけの変化は、見てわかる大きな変化をウィンドウ上にもたらした。
「は?!何あれ!?」
氷の茨をも意に介さずに灰被りへと向かって突き進んでいた竜型のホムンクルスが突然止まったかと思いきや、横に倒れ光となって……消えない。
代わりに塵のような何かとなってサラサラと空中に霧散していくのが見え、更に頭の中に疑問符が出現していく。
だがそれを置いていくように。灰被りは今まで試合中に見せた事のない氷の花を出現させる魔術を披露し、RTBNを追い詰める。
RTBNの方はと言えば、切り札らしき竜型のホムンクルスが倒れてからは防戦一方だ。
攻撃をホムンクルスで防ぎ、攻撃しようにも出現させたホムンクルスは何故か倒れ空気に霧散していく。
その後、少しして。
灰被りの攻撃魔術がRTBNへと直撃し、そのままHPを削りきり決勝戦が終了する。
「……すっごいなぁ」
素直に、そんな言葉が口から出てきた。
私がまだ知らない技術、知らない魔術の応用法、知らない系統など、このイベントでは所謂先駆者たちの動きを実際に見ることが出来た。
それだけでも十分に収穫があったと言えるのだから。