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Chapter2 - Episode 42


その後、言ってしまえば私は順調にトーナメントを勝ち上がってしまった。

私の事を事前に知っていたメウラは兎も角として、他のプレイヤーに対して私の霧はそれだけで十分に機能してしまったようで。

中にはバトルロイヤルで見た風を巻き起こすような魔術によって霧を晴らそうとしてきたプレイヤーも居たのだが……霧に紛れて近づいた【血狐】や、私によって倒されてしまう。


私の試合風景を見たり、試合を実況している掲示板でも見たのか、霧を出される前に近接距離での戦闘に持ち込もうとしたプレイヤーも居たが、それはそれで私の得意な距離。

一撃防ぎ、そのまま【魔力付与】、【衝撃伝達】、【霧の羽を】のコンボを繋げ、そのまま打倒してしまった。


「……おっかしいな、勝つためにはやってたけどここまで勝てちゃうとは思ってなかった」


思い返せば返すほど、第1回戦のメウラの強さが際立ってくるのはどういうことだろうか。

……対策って大事、だねぇ。

現在、準決勝の開始待ち。

あと1回勝てば、私の参加しているAブロックの決勝戦へと駒を進ませる事が出来るのだが……Aブロックの決勝参戦プレイヤーは既に1人決まっているようで。

実況掲示板を覗いてみると、色々と情報が流れていた。


「グリムかぁ……いやまぁ、強いよねぇあの魔術」


このイベント中に新たに知り合いとなったグリムその人だ。

彼女の習得している黒い気体の魔術は、私の霧とは違い純魔術産の気体。

その為、魔術言語のようなMPを燃料に効果を発揮するアイテムなどでその一部を消し去ることは出来るものの、風などによって掻き消すことは出来ないようで。


逆に魔術をそれにぶつけると、吸収され肥大化。

プレイヤー自身が触れても、多少中で動くことは出来るものの、MPを限界まで吸われ。最終的に肉体ごと持っていかれてデスペナ送りにされてしまう……とのこと。

とんだ対魔術師用の魔術を創造してきたものだと、思わず感心してしまったくらいだ。


だがそんな魔術も、弱点らしきものを実況しているプレイヤー達は目聡く見つけだしていた。

それは、吸収できるものの種類とその限界量だ。

魔術を吸収する……というのは、元を返せば現象である魔術を引き起こすのに込められたMPを吸い取っているとみることも出来る。

そこから『では、元から物理的に質量をもつものを魔術によって操っていた場合はあの吸収効果はどこまで適用されるのか?』という軽く実験じみた事を始めた出場者がいたのだ。


結果として、純粋なMPを使わないで存在している物や攻撃はあの黒い気体に吸収されない事が判明した。

それと共に、恐らくあの黒い気体には吸収できるであろうMPの限界量が存在しているという仮説も立てられた。


「プレイヤーは吸収しきれない……うーん、知らず知らずの内に正解を引いてたって事かなぁ」


私がバトルロイヤルでカウボーイを突っ込ませたのと同じように。

あの気体に呑まれたプレイヤーが何人か居たために分かったことだが、プレイヤーをあの気体の中に取り込むと、そのまま黒い気体は風船のように弾けて消える。

勿論取り込まれたプレイヤーは無事では済まないのだが……何故か、グリムまでもが昏倒してしまうのだ。

魔術に掛けられている制限か、それとも魔術の元々のデメリットなのかは分からないものの。

十分に弱点となりうるであろう情報だ。

これが1対1の試合という事実に目を逸らせば、だが。


……とりあえず、まだ決勝に行けるかは分かんないし準決勝の方に切り替えよう。

見れば、そろそろ準決勝が始まる時間のようで。

私の身体は何度目かになる転移を味わうこととなった。



変わり映えのしない闘技場へと転移した私の目の前には、1人の女性プレイヤーが転移してきた。

赤い頭巾を頭から被り、灰色の長い髪と、灰色の目をこちらへと向けてくるその女性からは、少しばかり今まで戦ってきたプレイヤーとは違う何かを感じた。

その何かが実際何なのかは分からないものの、霧だけで勝てるような相手ではないだろうと結論付け、私は彼女へと話しかけることにした。


「どうも、アリアドネです。よろしく」

「これはご丁寧に。灰被りと申します。対戦よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、楽しく真剣にやりましょーう」


灰被りと名乗った女性は、こちらへと一礼し、その顔に笑みを張り付けながら。

その鋭い視線を私の身体へと向けてきた。

観察するように、その全てを見通すかのような視線に、少しだけ怯んでしまうものの……私のやることは変わらない。

霧だけで勝てないのならば、それ以外も使って勝てばいいのだから。


『START!』


空中に浮かぶカウントダウンが0となり、ブザーと共に試合開始を告げる文言が出現する。

それと共に私と灰被りと名乗った女性はお互いに足を動かし始めた。

彼女は後ろに跳ぶことで私から距離を取り、私はその開いた距離を詰めるように。

奇しくも、第1回戦のメウラ戦と同じ始まり方でAブロック準決勝戦は始まった。


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