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Chapter2 - Episode 41


後方に身体ごと飛ばされ、周囲を濃い土煙が広がり視界が塞がれる。

私のHPは……予想に反して、そこまで減ってはいなかった。

といっても【血狐】の発動分のコストが持っていかれているため、残り半分近くにはなっているため油断は出来ない。

……そうだ【血狐】ッ!


身に纏わせていたはずの【血狐】が消し飛んでいた。

どうやら私の身体を護るためにダメージを肩代わりしてくれたのだろうが……それでも全ては無理だったらしい。

バトルロイヤル中に消し飛ぶなんて事はなかったため、それだけメウラの攻撃力が高いという事だろう。


呆けては居られない。

霧で出来た魔術言語が何とか形を保っているのを確認してから、その場から全力で離れる。

まだ【血液強化】は使わない。使えない。

【貧血】もそうだが、発動中のデメリットであるHPとMPを消費していくのも痛い。

それに加え、まだ手元の魔術言語が通用するかどうかも分かっていないのだ。

無駄に使って無駄に終わるのだけは一番避けねばならない。


「……今度は足を止めないように……」


今も煙管と狐面からは白い霧が漏れるように生成されており、諸々の魔術の制限を最低限ではあるが満たしてくれている。

だが万全とは言い難いため、【霧狐】はほぼ機能していないし、【衝撃伝達】や【ラクエウス】なんてものは使えないのと同じだ。


「よし、魔術とは実験の末に至るものなりってね。……仮称『雨乞い』起動」


私がまだ倒せていないのが分かったのか、今も尚落下してきている土の十字形を走って避けながら。

霧で出来た魔術言語に対してMPを流し込んでいく。

羊皮紙に書かれた魔術言語にMPを注入する時とは違い、少しばかり無駄になっているような……空中にMPを垂れ流しているような状態になるものの、私の目の前の魔術言語はしっかりと反応し、青い炎を天へと上げる。


「はぁ?!アリアドネお前……ッ!」

「驚いた?!流石にエンジョイ勢でも生産組に戦闘で負けるわけにはいかないからね!……【霧の羽を】ォ!」


炎が天に到達すると、瞬間青白い波紋が広がり……黒い雲が集まってくる。

耳を澄ませると、雷のような音が聞こえてきているため……予想以上に効果を発揮したようだった。

瞬間、雲から大量の水が……スコールのような雨が私達に向かって降り注ぐ。


私が発動させたものが何なのか分かったのか、急いでこちらに攻撃を……土の十字形の全てを落とそうとするも……もう遅い。

私が声をあげたと同時、彼の視界には非実体の羽が纏わりつき、私の姿どころか周囲の様子すらも分からないだろう。

音で把握しようと思っても、雨の音の所為でまともに声すら聴きとれない。


それでも私は小さな声で【血液強化】を発動させステータスの強化を行った後に、【魔力付与】によって刃渡りを2倍以上に伸ばした『熊手』によってメウラの近くのゴーレムを切り刻む。

新しい攻撃魔術を持っているくらいだ、変な補助魔術を習得していてもおかしくはない。

それがゴーレムを起点にしている可能性もないわけじゃあない。

それこそ【使役の金槌】という前例があるのだから。


メウラに掛けた【霧の羽を】が切れるまでの数秒を、強化したステータスとこれまでのゲームプレイによって培った技術でゴリ押して周囲のゴーレムを何とか狩っていく。

自動防衛機能とでもいうべきシステムを備えているのか、反撃を行おうとしてくる個体もいたものの、私を巻き込んで自爆されない限りはほぼ無視できる程度の些細なものでしかない。


「おっと、もう止んじゃったか」

「……アリアドネ」

「やぁメウラ。ゴーレムは出来る限り狩らせてもらったよ……よくもやってくれたねぇ?」

「はは、そこまで言わせられたなら俺も頑張れたってわけだな?まだ諦めるつもりはねぇけどよ」


雨が止み、【霧の羽を】の効果が切れる。

非実体の羽が消えたメウラは周囲に積み重なった土塊をちら、と見た後に両手のトンカチを構え。

私はそんなメウラに対してうっすら笑みを浮かべながら『熊手』を構える。


まるで試合開始直後のようだが、全く状況は違う。

身体強化系の魔術を発動させ、今もなお霧を垂れ流している私と。

身を護ってくれるゴーレム達がほぼ居なくなり、居るとしても数体のメウラ。

新たにゴーレムを生成したところで、それが相手にならない事くらいは分かっているだろう。


「聞いていい?」

「何をだ?」

「なんで【使役の金槌】を使わなかったのかって」

「あー……いや。それはまぁ、な。……間違って結構面倒な制限を付けちまってな」

「あー……」


聞きたい事を聞いた後。

私とメウラは一歩大きく前へと踏み込んだ。

どちらも同じ一歩。しかしながら、その速度は圧倒的に違う。


彼が一歩踏み込むまでの間に、彼の懐へと到達した私は『熊手』を身体に刺し込んで、一気にぐりんと捻った後に横に払うように振るう。

その後胴体へと蹴りを入れ、強引に身体を引き離した。


「【血狐】」


バランスを崩したメウラに対して、私自身は追撃をせず。

【血狐】を発動し、その身を攻撃させた。



『Battle Finish!』

『アリアドネ選手の勝利です。数秒後、待機部屋へと転移させるので、その場から動かないでください』

「……ふぅ、終わったぁ」


光へと変わって天へと昇っていくメウラを目で追いながら。

今度彼と一緒に、何処かへ冒険に行こうかなとぼうっと考えていた。


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