着いてきていた【血狐】を身に纏い、【衝撃伝達】を発動させては地を蹴り高速で移動する。
その間にも『白霧の狐面』、煙管からは霧を生成し続けているため、私達が戦っている闘技場内は土煙と濃い霧によって外からは全く何も見えなくなっていた。
しかしながらそれでも、メウラからの攻撃は止まらない。
空から降り注ぐ土の十字形は、まるで私の事が見えているのかと思うほど正確に狙いをつけて飛んでくる。
足を止めてしまえばすぐにそれを喰らって大ダメージを喰らってしまうのは考えなくても理解できた。
……【使役の金槌】と同系統の魔術かなぁコレ!
グリムの魔術でも考えた事ではあるが、魔術には発動、そしてその効果を持続させるのにもコストを必要とする。
だからこそ、私を今も尚狙い続けている土の十字形の消費するであろうコストの事を考えると……特殊なタイプの魔術ではないかと予想出来た。
例えば、彼の使う【使役の金槌】。
場に展開しているゴーレムを発動時のコストにしなければ発動する事すらできず、コストにしたゴーレムの数だけ破壊力を増していく攻撃魔術。
アレと似た系統、似たコストを支払っている可能性を考えてみるのはどうだろうか。
……メウラの展開してるゴーレムは……チッ、土煙で見えないな……。
『白霧の狐面』の視覚補助効果は霧にしか適応されない。
恐らくメウラはそこまで考え、この攻撃を選択しているのだろう。中々に厄介な知り合いだ。
見えないのなら、土の十字形が降ってくる前の事を思い出す。
【霧狐】が土の十字形が降ってくるのを索敵
【霧狐】の索敵能力は霧の中の敵対者……つまりは、今現在のメウラや彼の生成したゴーレムなんかには反応するものの、明らかに自律行動しないであろう土の十字形に反応するようなものではない。
しかしながらそれに反応した……ということは、だ。
あの土の十字形が敵対者と認識される所以があるはずなのだ。
戦闘中に考えられる事など、確信のない仮定しかない。
だがその仮定を第一に考え行動しなければ勝つことが出来ないのが戦闘でもある。
「ぐッ……」
近くの地面に落ちた土の十字形が爆発し、周囲に土塊と煙を撒き散らす。
それにより私の周囲の霧は少しずつ薄くなり……その分土煙の割合が増えていく。
非常に拙い流れだ。
私の攻撃魔術はそのほとんどが制限によって霧の中でしか発動出来ないようになっている。
だからこそ、霧の発生、その維持は私が戦う場合の最低条件になってくるのだが……それがどんどん、メウラが故意に作っているであろう土煙によって塗り替えられていく。
こちらの手の内を知っているからこその行動だ。
私が手を出せない上空からの遠距離攻撃で自分に近づかせないように立ち回らせつつ、私の力を削ぐために霧を少しずつ少しずつ吹き飛ばし『白霧の狐面』で見通せる範囲を狭めていく。
これ以上ない、私に特化した対策だ。賞賛の拍手を贈りたくなるものの、今はそんな余裕も、笑みを浮かべている隙も無い。
……使うか。
メウラがここまで私に対して本気で攻撃をしてきているのだ。
ならば私もぶっつけ本番ではあるものの……やれることをやるべきだろう。
煙管から今も垂れ流している霧を、『白霧の狐面』によって移動しながら操作する。
私の周囲へと霧散させるわけではない。
寧ろその逆で、圧縮し、白い塊のように……複数の霧の球というべきものを私の近くに作り出す。
攻撃性能なんてない、霧で出来ているただの球体だ。
これをぶつけただけでは誰も傷つくことはないだろう。多少びっくりするかもしれないが。
私はそれを更に操り、その形を球体からミミズが這ったような形へと……魔術言語の特定の単語へと変えていく。
作り出す単語は決めていなかったが、咄嗟にこの状況に一番マッチする効果を持つ単語をチョイスしていく。
魔術言語は言語と言語、そしてそれらから出来た単語を組み合わせる事で現象を引き起こすもの。
今まで私は羊皮紙などにインクで直接単語を書き込み、それにMPを流すことで使用してきたものの……魔術言語の力の元は、その言語自体にある。
何かに書き込まなければならない、なんてルールはないし、言語がありMPを流すことが出来るのならばそれは魔術言語として成立する……はずなのだ。
正直きちんと機能するかのテストをしようと思っていたらイベント日になってしまったため、これだけは検証する事が出来ていないため確証はない。
だが、教本に書かれている事を信じるのならば、出来るはずだ。
まずは一番邪魔な土煙を抑えるための『水』を。
それを広範囲に広げるための『散布』と『大量生成』を。
それに加え、魔導書を弄った時に学んだ起動用のスイッチ……この即興で組み立てている魔術言語の名称を設定し、それを私の前へと並べ発動……させようとしたところで、私に向かって土の十字形が落下してきた。
……あ、避けられないなコレ。
どうやら魔術言語の単語を作り出すのに集中していた所為か、速度が緩んでしまっていたらしい。
落下してくるそれを呆然とみながら、一応その場から離れようと【衝撃伝達】を発動させ加速するものの……間に合わない。
鈍い激突音と共に、私の身体に強い衝撃が走った。