私は距離を詰めるために、メウラは私から距離を取るために足を動かす。
近接距離で戦うために、出来る限り距離を取ってゴーレムを創り出すために。
それぞれの思惑を、考えを突き通すために身体を動かしていた。
手の内の9割を知られている相手に対して下手な隠し事をするのは、逆に自分のいつもの動きを阻害し掛けない。
そう考え、私が一番最初にメウラ相手に使ったのは単純に正攻法……ではなく。
私が今まで狩ってきた強敵相手、その誰もに刺さってきた方法だった。
走りつつ、私は煙管を持った方の手を前へと突き出し、指を鳴らそうとする。
【霧の羽を】、その【動作行使】による発動だ。
「ッ!」
だが何度も共にプレイしてきたメウラには、その動きだけで私が何を使おうとしているのか気付いてしまう。
気付き、そして咄嗟に視界を自分の腕で覆うという対策をとってしまう程度には私の習得魔術について大まかに知っている。
だからこそ、私はその行動を引き出せた自分に満足しにっこりと笑みを浮かべながら、前に突き出した手で『白霧の狐面』に触れ、一気に濃い霧を生成する。
周囲が濃い霧に包まれる。
その行動に自分が誘導されたのに気が付いたのか、メウラは軽く舌打ちをした後に両手のトンカチを地面へと叩きつけた。
瞬間、彼の周囲の土が盛り上がり、複数のゴーレムを生成し始めた。
前に見た時よりも一度に生成するゴーレムの数が増え、尚且つその大きさが少し小さくなっている。
どうやらメウラも【ゴーレマンシー】の等級強化を行っているようで。
今のトンカチを叩きつけるという動作が、【ゴーレマンシー】の新たな『起動方法』なのだろう。
少しばかり、これからの彼との冒険が楽しみになったものの。今は思考を戦闘へと振り切って加速させていく。
こちらは霧を、あちらはゴーレムを。
どちらもまず最初にやりたい事を成し遂げた。
ここから戦闘が本格的に始まる。
手に持った煙管を咥え、MPを流すことで霧を発生出来るようにした後、私は口を開く。
「【衝撃伝達】、【血狐】、【霧狐】。行くよ」
霧の中、メウラがこちらの姿を捉えられていないと少しばかり希望的な考えを浮かべながら、私は魔術を発動させ、地を蹴った。
瞬間、一気に私の身体は前方方向へと加速していく。
だが、メウラもメウラで戦闘用の準備を続けている。
ぶつぶつとこちらに聞こえない程度の声量で魔術の発動でもしているのか、彼の周りの地面はどんどん抉れつつゴーレムを生成していく。
正直な話をすれば、彼の使う攻撃魔術である【使役の金槌】の一撃は、最低威力で放ったとしても私のHPを全損させる程度には火力がある。
それに加え、もし外れたとしても地面とぶつかった瞬間に発生するであろう破壊の余波を受け切れるかと言われると……厳しいと言わざるを得ない。
私は所謂ゲーム内の役割でいうタンク系のプレイヤーではないし、どちらかと言えばスカウトやアタッカーなんかに当てはまるだろう。
メウラも普段はサポーターやそれに類する役割だろうが……【使役の金槌】を発動させている間は、このゲーム内で私が見てきた攻撃役の誰よりもダメージを引き出せるアタッカーへと変貌する。
もしも彼のあの魔術を受け切れる方法があるとしたら……今パッと思いつくのはグリムの使っていたあの黒い気体の魔術くらいだろうか。
それにしたって、途中で弾けてしまいそうだが。
兎に角。
私にあの魔術を止める方法も、発動されたら無傷で避ける方法もないという事。
つまりは、どうにか発動させる前にメウラに引導を渡すのが私の目標にはなるのだが……私の視線が彼の顔に向いた瞬間、彼はこちらの目を
霧を生成し続け、外から見れば確実に私の顔なんて見えていないはずなのに視線が合い、笑みまでも浮かべた彼に背筋が凍るような感覚が襲い掛かってくる。
咄嗟に足を踏み鳴らしつつ、急速に方向転換を行ってその場から離脱する。
瞬間、私が先程まで居た位置に空中から土で出来た何かが複数落下してきた。
まるで磔刑に使われそうな十字形の形をしたそれは、地面に接触しその形を崩しながらも凄まじい量の土煙をあげていく。
しかしそれだけでは終わらない。
私についてきている【霧狐】が、私に報せるように上を向く。
「……ははっ」
思わず顔が引きつり、乾いた笑い声が漏れてしまった。
だがそれも仕方がないだろう。私じゃなくてもそうなったはずだ。
空中を見上げると、そこには土で出来た十字形が今も尚、数を増やしながら私の事を狙っていたのだから。
何処からそんなものを?とか、何時そんな魔術を習得した?など言いたい事は沢山浮かび上がるものの……私は少しだけ自棄になって笑いながら叫ぶ。
「何が生産組だ馬鹿メウラッ!!」
「お前の装備を全部造った、れっきとした生産組の1人だぞ俺は」
どうやら、私の知らない間に彼は予想以上に武闘派となっていたらしい。
彼がいつの間にか上に上げていた腕を振り下ろす。
瞬間、破壊を齎す土の雨が私へと降り注ぎ始めた。