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Chapter2 - Episode 36


黒い気体が弾けた瞬間、最初に動き出したのは赤髪大剣だった。

元々浮かべていた獰猛な笑みを更に濃くし、その足に何やら紫色のオーラのようなものを纏い、一気に加速する。

一瞬でゴスロリ少女との距離を詰め、その紫のオーラを腕にも纏いながら大剣を振るった。


しかしながら、ゴスロリ少女も流石に戦闘慣れくらいはしているのだろう。

黒い気体が解除されてからすぐに、自身の周りに大量の水のような透明の液体を出現させ、振るわれた大剣の勢いを削いでいく。

それと共に液体の形状を変え槍のように変え、近くの赤髪大剣だけではなく周囲の全方向に向けてそれを射出した。


当然、それはこちらにも飛んでくるため……私は咄嗟に自分の足元に【ラクエウス】によって落とし穴を生成し、下に落ちる事でそれを回避する。

次いで、すぐに落とし穴からは出ずに空を見上げた。

プレイヤーの人数は……減りに減って、残り12人。

それに加え、3つ目のサプライズアクションまで残り5分を切った所だった。


流石に次のサプライズアクションは私も対象になるだろう、そう思いながらそれを回避する方法もない事に気が付いていた。

今私を除いた11人のプレイヤー達が戦闘を行っているにしても、残るのはその半分だ。

どうやってもそこから4、5人ほどを一気に脱落させる術なんて私は持ち合わせていない。

というか、そんなものを持っていたら私は既に開幕から使っていただろう。


外から大きなものを振るう音と、水音、そして魔術の宣言らしき声が聞こえ……静かになる。

そろりと様子を覗くために霧を濃く生成しながら落とし穴から顔を覗かせてみると、そこにはゴスロリ少女の姿だけがあった。

どうやら、近接戦闘であの赤髪大剣に競り勝ったらしい。

どうやったんだ?と思い、彼女の近くに黒い気体がほんの少し……まるで煙草の紫煙のような状態で漂っているのを見て、少しだけ納得がいった。


だが、代償自体も大きかったようで。

ゴスロリ少女は荒く息を吐き、そのまま地面へと倒れてしまった。

光になって消えていかない所をみると、HPが切れたわけではなく、恐らくMP切れが原因だろう。

倒すならば今……ではあるのだが。

何か、このまま攻撃するのは少しばかり後味が悪いと感じてしまい、私はその場から離脱した。

正直あの状態の彼女を他のプレイヤーが発見すれば、確実にデスペナ送りにするとは思うのだが。



その後、順調にプレイヤーの人数は減っていく。

途中、3つ目のサプライズアクションが付与されたものの、闘技場の戦闘可能エリアが時間経過によって縮小という、直接私には関係のないものだったため割愛。

残りプレイヤー数は4。

私以外に3人残っている計算だ。

つまりは、残りの2人が倒れればそのまま本戦であるトーナメントへと進める。


そして、私の目の前では今まさにその残り2人が戦いを始めようとしていた。

片方はバトルールのような、ファンタジーの魔法使いのような恰好をした女性プレイヤー。

そしてもう1人は何処か狩人を思わせる姿をしている男性プレイヤーだ。

どちらも耳が長く尖っていることから、恐らくは有名な妖精族であるエルフだろう。


先に仕掛けたのは狩人の方だった。

手にもった弓を持ち何事かを呟くと、矢をつがえてもいないのに弦を引き絞り、狙いをつけて何かを放つ。

瞬間、彼の弓から緑色の槍が射出され魔法使いを射止めようとするものの……生成された土の壁によってそれは防がれる。


魔法使いはすぐさま土の球を複数飛んできた方向へと飛ばすことで牽制及び攻撃を行うものの、しっかりと相手の姿が見えていないのかその狙いは良いとは言えなかった。

というか、少し離れた位置で見守っている私の方向にも飛んできているため、何を見て魔術を発動させているのかが気になってしまう。


……っとと、見てるだけじゃダメだよね。

霧の中を見通せると、ついついこうやって相手方の戦闘を観戦してしまう。

いやまぁ、正直至近距離で色々な魔術を見る事が出来るため役得ではあるのだが……それでも今この場に居る目的はそれをすることじゃないのは確かだ。


私は魔法使い、彼女が立っている近くの地面を注視し【ラクエウス】を発動させる。

生成させるのはトラバサミ。動けなくするためのものだ。

次いで、一度発動を解除した後に【血狐】を再発動させる。

確認したら少しばかり【血狐】の方のHPが減っていたためだ。

恐らくは私が身に纏い防具のように使っていたため、ダメージを肩代わりしてくれていたのだと思う。

だが、ここからは【血狐】本来の使い方をするために指示を行う。


ガキン、という音が闘技場に響き。

見れば魔法使いの足に私の生成したトラバサミが噛みついているのが見えた。

瞬間、私の近くで待機していた【血狐】が行動を開始する。

それに合わせるように、私も私で【衝撃伝達】を【動作行使】で発動させ、【血液強化】、【脱兎】を連続して発動させた後、叫ぶ。


「【霧の羽を】ッ!」


中級に上がり、その効果の発生条件に宣言を聞いたものを含めるようになった視界妨害魔術を発動させ、魔法使いと狩人、そして何処かにいるであろうもう1人のプレイヤーの視界を非実体の羽で塞ぐ。

一気に足に力を入れ、地を蹴って狩人へと近づいて。

私はインベントリに仕舞っていた『熊手』を上から下に振り下ろす。


「ッ!」


だが一撃目は躱された。

伊達に狩人の姿をしていないのか、索敵系の魔術を持っているらしく、未だ羽が頭に纏わりついているというのに私から距離を取ろうと足を動かそうとしている。

しかしながら、それは叶わない。


動作行使・・・・】によって発動した【魔力付与】の形状変化により、刀身を長くした『熊手』を再度振るい、まず足を動けなくする。

次いで小さく声に出し【魔力付与】を再発動させてから両肩を破壊する。

これで動くことは出来ないだろう。


しかしながらまだ魔術は声に出すことで発動させる事が出来るため、油断は出来ない。

確実に倒すため、私はその場から少し離れて霧に紛れ。

少し離れた位置から【ラクエウス】を連続して狩人に撃ち込んだ。

程なくして狩人は光となって消え、魔法使いの方も頭に赤黒い液体を纏っているため時間の問題だろう。


『Gグループ!対戦終了ッ!!残った2名のプレイヤーさん達お疲れ様!少し後に本戦が開始されるので、そのまま待機していてください!』


アナウンスが入り、魔法使いも倒せた事に安堵する。

もしかしたらあそこから何かしらの魔術によって復帰してくる可能性もあったため、本当に終わって良かったとその場に座り込む。

近くに居た【霧狐】、魔法使いを倒してくれた【血狐】が光となって消えていくのを見て、再度魔術の行使が出来ない状態になった事を知り……周囲の、私の狐面によって生成された霧を霧散させておいた。


何はともあれ、無事に本戦出場が決定したのを喜ぶべきだろう。


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