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Chapter2 - Episode 35


……予想通り、というか……やっぱり相手にすると面倒なタイプかぁ。

元より真正面から戦う気はないものの、彼女と戦う事になったら本格的に隠れながら【ラクエウス】などで攻撃するしかないだろう。

問題は……その【ラクエウス】があの黒い気体を貫けるか、という所だろうか。


今も視線の先では、カウボーイと赤髪大剣が放つ魔術を吸収し巨大化していく黒い気体。

最初はゴスロリ少女の周囲を囲むのが精々だったそれは、今では一軒家程度ならば簡単に飲み込めるであろう大きさまで膨れ上がっていた。

……流石にあそこまで吸収するような魔術が初級とは思えないけど……どんな制限とデメリットになってるんだろう。MPの消費加速くらいはついてそうだけど、それにしたってあの子のMPどんだけあるの……?

考えられるのは妖精族の中の魔人を選んでいて、魔術行使特化型のアバターを育成している可能性だが……それにしたって規格外だろう。


魔術というものは起こす現象に伴って、要求されるコストが跳ね上がっていく技術だ。

それこそ私の持つ【魔力付与】や【衝撃伝達】も初級から中級に上がり、出来る事の幅などが広がった影響か、消費するMP量も微量ながら増えた。

他にも【血術】の2種なんかも分かりやすく強力な効果に対し、HPの減少や全ステータス低下のデバフなど、強いものを求めれば求めるほどに行使者が支払う物も多く、そして重たくなっていく。


それに比べ、あの魔術で発生させたと思われる黒い気体は何だ?

周囲から飛んでくる魔術を吸収し、更に大きくなる。

そしてまた吸収し……を繰り返し、元の数倍以上の大きさまで膨れ上がった。

下手に近づいてどうなるかが分からない以上、近づく事も出来なければこちらから攻撃もし辛い。

まさに攻撃は最大の防御、と言わんばかりの魔術だ。


だからこそ、どんなコストを支払っているのかが気になって仕方がない。


「……少し、調べてみようかな」


だが今はそんな興味よりも、目の前の脅威の方が重要だ。

まずあの黒い気体自体は人体に影響がないのか。

これが最も重要で調べるべき内容だろう。


私は『水球の生成・射出』を取り出し、狙いを付ける。

目標は黒い気体のドームではなく、その近くに居るカウボーイだ。

近くに行くような事はしないが、彼の背後に回るように静かに移動する。

勿論、近くに行けば【衝撃伝達】など、私の持つ魔術で確実にカウボーイを黒い気体のドームへと突っ込ませることは可能だろう。避けられなければ。


しかしながら近づくという事は、同時に相手から気付かれる可能性が高くなるということ。

カウボーイに気付かれる程度ならばまだいいが……もしゴスロリ少女の方に気付かれてしまったら。

そして更に他の……私が確認できていないプレイヤーに私の存在が察知されてしまったら。

現在この場を動いていないのは単に誰からもバレていないからに他ならない。


気付かれてしまえば戦闘になることは必然だろうし、中にはあのフィッシュ以上に近接戦闘に特化しているプレイヤーも居るかもしれない。

というか、多分あの赤髪大剣はその類だろう。

明らかに先程から発生させている竜巻の操作の精度が拙いし、生成される竜巻の大きさもその都度違う。

普段は近接戦闘で相手を倒すタイプなのだろう。

だが黒い気体に突っ込んでいかずに、自身の苦手な遠距離攻撃を選び牽制のような形をとっている点を見るに、脳筋ではなく頭も回るタイプだろう。

こちらも相手にすると面倒な類のプレイヤーだ。


だからこそ、狙うはカウボーイ。

正直特に何かを感じるわけでもないし、彼の使う炎の弾を飛ばす魔術は霧を消してしまうため、何かありそうな黒い気体へと突っ込ませるにはこちらの方が良いだろうという判断だ。

というか、何かあってカウボーイがデスペナ送りになってほしいなという淡い願いもあったりする。


しっかりと狙いをつけ、そして魔術言語を成立させる。

私の目の前にバスケットボール程度の大きさの水の球が生成され、それが勢いよくカウボーイへと向かって飛んでいく。


「おっ!?っとととぉ……ッ!!」


索敵系の魔術を持っていなかったのか、それとも魔術に関しては索敵出来なかったのか。

その無防備な背中に命中した水球の衝撃によって、カウボーイは前へと数歩進む。

数歩前へと進めば何があるか。

黒い気体のドーム以外にあり得ない。


彼の上半身がドームに触れる。

瞬間、彼の身体は地面へと倒れ……バチンという音と共に、黒い気体のドームも風船が破裂したかのように消え去った。

その中心には驚愕したような顔をしたゴスロリ少女の姿があり……どうやら知らず知らずのうちに黒い気体の発動を解除する方法を満たしたらしい。

その黒い気体を発動を解除という功績を果たしたカウボーイと言えば……その上半身がなくなった状態で光となって消えていっているが。


彼の事は忘れない。

しかしながら、今は彼の事を考えている暇はないためすぐに頭の隅の方へと追いやることになるだろう。

何せ、今がゴスロリ少女へと攻撃する最大のチャンスなのだから。


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