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Chapter2 - Episode 33


本当に簡単な弱点。

私にも共通するそれは、遠距離攻撃に弱いということだ。

相手がこちらから距離を取り、それを保ったまま遠距離攻撃を延々として正直相手のMP切れを待つくらいしか勝ち目はない。


そんなに簡単な事なのか?と思うかもしれないが、現実は本当に簡単な理由の積み重ねが結果に繋がっている。

距離を取られるというのは、相手が何か距離を取れる方法を持ち合わせているからこその結果。

距離を保たれるというのは、こちらがその距離を埋められない何かがあるからこその結果。

勿論、これら以外にも理由はあるだろうし……その理由に関しても言ってしまえば簡単なモノばかり。

そしてその理由が積み重なり、結果として『遠距離攻撃に弱い』という弱点に昇華される。


だからこそ、私がここでとるべき戦術……というか『理由の積み重ね』として取るべき行動は、まずフィッシュとの距離を取ること、なのだが。

ここでの問題は、フィッシュの速度と私の現在の・・・速度がほぼ同じ、ということだ。

一度距離を離すことさえできれば追いつかれないかもしれないが、私の今の習得魔術の中からそれが出来るであろう【血液強化】を選んでしまうと、後が怖い。


現状倒せるかどうか分からないフィッシュに対して、制限時間があり、尚且つステータス低下効果のあるデバフが入ってしまう【血液強化】は使いたくとも使えない。

使って仕留め切れたとしても……今も集まってきているプレイヤー達に、動きの鈍くなった私が狩られるだけだろう。

それではここでフィッシュに勝とうと頭を回している意味がない。


「やっぱりセンスいいねぇ!何か武術とかやってた?」

「少しだけ護身術を……って言っても、人狼相手の武術なんて現実にはないですけどねッ!」

「あはッ、そうだねぇ」


思考している間にもフィッシュは襲い掛かってくる。

何本持っているのか分からないナイフを1本、私の顔面に目掛け投擲し、それに隠れるように直線移動、下から掬い上げるように、片手に持ったナイフで斬りつけようと一気に踏み込んできた。

何故見えているか?

顔を逸らし、投擲されたナイフの進行ルートから頭をずらしたからだ。


「【血狐】」

「……ッ?!」


見えていれば、後は反応する速度さえ何とかなれば防御は出来る。

下から掬い上げるように振るわれた一撃に合わせるように『熊手』を置き、そのまま結果を見ずに私の身体に纏わせている【血狐】に対し、彼女の顔に移動するように指示を出した。

それと共に私は【衝撃伝達】を発動させた足で地面を蹴って、距離を取るように移動する。

フィッシュがナイフを振っても届かない距離、大体腕を広げて2本分ほど空けた位置まで距離を離す。


1つ、訂正しなければならない事がある。

確かに先程私やフィッシュの弱点は『遠距離攻撃に弱い』と言ったが、それが全てではない。

あくまでそれは、私やフィッシュに限った話で……生物という括りでは、他にも弱点と呼ぶべきものは存在している。

それは私が『白霧の森狐』を倒した時に無意識ながらやった方法。【血狐】が生物系の敵性モブを攻撃するときに積極的に行う方法。


つまりは、簡単に。

『生物は体内を破壊されれば死ぬ』という、誰もが持っている弱点を突く方法だ。


「がぼっ」


私から距離を少し取っていれば【血狐】を避ける事は出来ただろう。

出来ないのだ、攻撃するために至近距離まで近づいていたのだから。


こんな簡単に殺されるかと思う事だろう。

殺されるのだ、生物なのだから。


せめて死ぬ前に一矢報いようとするだろう。

叶わないのだ、その動きは見えているし先程まで避けていたのだから。


考えた通り、こちらへと向かってナイフを我武者羅に投げてくるフィッシュに対し、私はあくまで冷静に、避けられるものは避け、避けられそうにないものに対しては【魔力付与】を盾の形状にすることでしっかりと防いでいく。

近づいて来ようとするフィッシュに対し、私も同じように、同じ方向に向かって走り始める。

ここにきて先程までどうしようかと考えていたものが、フィッシュを倒すための理由となる。

『フィッシュの速度と私の現在の移動速度はほぼ同じ』……つまりは。


距離を少し取った時点で、ナイフの間合いから退いた時点で、あとはじっくり【血狐】が体内を破壊し尽くすのを待つだけでフィッシュをデスペナ送りに出来るのだ。

PvPに劇的なシーンは必要ない。

結局は練度の高い技をぶつけ合い、それが徹った方が勝つのだから。

私が先程から言っているように言い直すのならば……『理由』を積み重ね、『結果』に昇華させられることが出来た者が勝つ。


今回はそれが私だったというだけの事。

素早い決着、しかしながら考えた事や内容を見れば濃い戦闘だった。


光となって消えていくフィッシュに手を合わせ、そのまま私は周囲から今も近寄ってきている他のプレイヤー達への対応を考え始めた。

否、考えたかったと言った方がいいだろう。

戦闘中、すっかり頭から抜け落ちていた事が1つ。それは――。


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