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Chapter2 - Episode 32


離脱出来た、といっても安心できるわけではない。

完全に今の行動で彼女の頭に血が昇ってしまっただろうし……そも、彼女は匂いを追ってくるため、結局何処かで見つかってしまうだろう。

ならばそれまでに何とかフィッシュ対策を整えるしかない。

だが、まともな戦い方では彼女の強化された身体能力にはついていけないだろう。


「……残り100人切ったのか」


ふと空中を見上げると、残り人数が93人まで減っていた。

それと共に、あと3分程度でもう1つのカウントダウンタイマーが0になるのが分かってしまい、少しばかり焦りが出てくる。


先程の1つ目、アナウンス曰く『サプライズアクション』はキル数の多いプレイヤーが不利になる物だった。

だが私のように隠れたり、戦闘を回避しようと行動しているプレイヤーにはあまり関係のない物でもあった。


ここから私が運営だったら次の2つ目をどうするか、と考え備えておかなければならない。

例えば、そう。

私達、戦闘を回避しているプレイヤー達が戦闘せざるを得ない状況になる……というのはどうだろうか?

あり得ない話ではない。

というか、一番真っ当な考えだろう。

問題はそれがどういう形で襲い掛かってくるのか。


「……ッ!」


考えを回していると、近くを索敵させていた【霧狐】が反応を示した。

咄嗟に【魔力付与】を発動させ、盾状にして反応があった方向へと向ける。

瞬間、何かか凄い勢いで私に……盾に衝突し、私の身体が勢いよく後ろへと吹き飛んでいく。

ダメージはない。【魔力付与】の盾によってしっかり防ぐ事が出来たようだ。


何とか空中で体勢を整え、私を吹き飛ばした相手の姿を確認する。

否、確認せずとも予想は出来ていたが……出来ればその予想が外れていて欲しいという淡い希望もあったのだ。

しかしながら、その希望は現実の物とはならなかった。

周囲に鐘の音が響く。


「……あはッ、あははッ。いやぁ、久々だよここまで頭にきたの。1個前にやってたMMOでもここまで怒ったことはないぜ?アリアドネちゃん」

「いやぁ、私もここまで人を怒らせた事はないですよ。フィッシュさん」


赤いオーラを纏い、人ではなく人狼の姿として私の方へとゆっくり歩いてくるその姿は、今一番会いたくなかった人物だ。

まだ対策も何も出来ていない状態でボスみたいな人が積極的に自分を潰そうとしてこないでほしい。

【万蝕の遺人形】でも少しは猶予をくれたというのに。


だが、こうして再度見つかってしまったのだから仕方がない。

次の『サプライズアクション』によっては私が有利になるかもしれないし、この場で1つ死ぬ気で戦ってみるしかないだろう。


「お?戦う気になった?」

「どうせ戦わないと追ってくるでしょう?」

「そりゃあねぇ。私も私でここまで君との戦いを自分が望んでたなんて知って驚いてるくらいだぜ」

「……光栄なことで」


仕舞ってあった『熊手』を抜き、代わりに煙管を仕舞う。

『霧の発生』を戦闘中使う意味も薄いためだ。

一応、予備の武器として『水球の発生・射出』の魔術言語が書かれた羊皮紙もインベントリ内から取り出しておくが……フィッシュにその攻撃が通用するかは分からない。

だが、やるしかないだろう。


「準備出来たかい?」

「待っててくれるなんて優しいですね」

「あは、少し冷静になるために落ち着こうかなって思ってさ。ふふ、アリアドネちゃんは戦略として私を虚仮にしてたってのにまんまと乗せられちゃったよ」

「あぁいえ。あれは完全に私が笑いたくて笑ったりしてましたんで……あの、素です。他の意図はないですよ?」

「あ゛ぁ゛?」

「こわっ」


素直に返答すると、穏やかに笑っていた所から一転、怒りを含んだ声音で反応してきた。

だがここは仕方ない。相手に冷静になられては困るのだ。

戦闘中、人は外面は熱く煮えたぎっているように見えても、案外内面は冷静なものだ。


何故か?

答えは簡単で、冷静じゃなければその場その場に合わせた対応を出来ないから。

たまに全てを力で解決できるパワータイプのバグキャラがいるものの、概ね大体の人はそんなものだ。

そして、目の前の彼女も同じ。

今も「あ゛ぁ゛?」なんて声をあげているものの、内面では既にどう戦闘を行おうか作戦を立てているのだろう。


だからこそ、出来る限りその思考を邪魔して不意打ちを狙う。

これが咄嗟に思いついたフィッシュとの戦闘方法だった。


「……ふぅー……殺すッ!」

「ふふっ、そう簡単には殺されませんよ。いや、この間殺されたけどね!」


一気に近くまで突っ込んできたフィッシュに合わせるようにして、身体を横にずらしながら『熊手』をそっと彼女の進行方向上に置く。

速度というのは武器にもなるが、時には自身にダメージを与えてしまう要因にもなったりする。

特に、私やフィッシュのように高速移動を戦闘に組み込んでいる者からすれば、自身の速度によって自爆する、なんてことをしないように考えて立ち回らなければならない。

だが今回はそれを利用させてもらう。

フィッシュもフィッシュでこのまま進めば『熊手』の刃に突っ込む事が分かっているのか、途中で無理矢理刃を避けるように身体を翻した。


彼女の攻撃方法は主に2つ。

手に持ったナイフでの攻撃か、強化された肉体による攻撃だ。

どちらも直撃を喰らえばただでは済まないが……逆に言えば、だからこその弱点が存在しているのだ。


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