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Chapter2 - Episode 30


ふぅ、と息を吐き。

周囲を見渡そうとした時に、空に何やら文字が浮かんでいることに気が付いた。

そこには『残り人数:128人』と書かれており……分かりやすく、残っている人数が表示されていた。

それと共に、その横には何やら嫌な予感を感じずにはいられない、カウントダウンしているタイマーが複数表示されていた。

その中の1つが丁度、0となった瞬間。


周囲から突然、鐘の音が複数響き始めた。

それも決められた位置からではなく、この闘技場内のランダムな場所からだ。


『サプライズアクション!他プレイヤーキル数が多いプレイヤーの居場所を一定時間の間周りへと報せ続ける【報せの鐘】を強制付与!時間経過で解除されるが、これをすぐに解除したいなら同じく【報せの鐘】を付与されているプレイヤーを探し出して倒すしかないぞ!』

「あぁ、成程。プレイヤー数を急速に減らすための措置みたいなものか」


つまり、周囲で鳴っている鐘の音の方向へと向かえば、確実にプレイヤーと鉢合わせるということだ。

……絶対に行かないけどね、私は。


鐘の音に釣られて行動すれば、十中八九同じ目的で動いているプレイヤーと戦うことになるだろう。

それに加え、鐘の音を付与しているらしい【報せの鐘】なるものを解除するために、狙われているプレイヤーも下手をしたら戦闘に参加するだろう。

その後に待っているのは流れ弾必至の最悪な乱戦だ。


流石にそんな場所へと向かう度胸も実力もないため、煙管に羊皮紙を新たにセットしつつ周囲を警戒する。

一応【霧狐】による索敵や、【血狐】による物理的な攻撃に対する防御手段はあるものの……一撃で致命傷を喰らってしまっては意味がない。

出来る限り霧を濃くし、装備の潜伏効果……周囲から見つかりにくくなる効果を発動させておいた方が無難に生き残ることが出来るだろう。


見せ場だなんだというのは他の、それこそ今のこの状況を配信なりなんなりしているプレイヤーがどうにかすればいいもので、本戦に行くのが目的ならばこの場で派手に戦闘をする必要はあまりないのだ。

……とか思うけど、十分私も目立ってるよねぇこれ。


闘技場の一部に濃霧で覆われたエリアを作り出し、尚且つ周囲の魔導生成物などをおびき寄せて倒す……霧が無かったら完全に周囲から総叩きを喰らっていても可笑しくはないことをしでかしている自覚はある。

もしも今後もこのスタイルを続けるのならば……せめて霧の中限定でも良いから、もっと相手に見つかりにくくした方が良いだろう。


先程のゴブリンや狐を相手に出来たのが良かった。

あれらは確証はないものの、MPか何かを察知することが出来る能力を持っていた。

先に見つけたゴブリンの方はといえば、主人であろうゴスロリ少女を私の方へと案内していた節さえあるため、その能力の精度はかなり高いだろう。


霧さえあるのなら、目は潰すことは出来る。

しかしながら、目以外の感覚によって察知されてしまうというのはいただけない。

今の私でいうのならば、足音は隠せていないし匂いもそのままだ。【血狐】を発動している時はそこに血の匂いも加わってしまい、なかなかに大変な事になっているだろう。

そして割と軽率に隠れている間でも使ってしまう魔術。

MP系を察知する相手がいるのであれば、魔術をどう扱うかにも気を付ける必要があるだろう。


未だバトルロイヤル……イベントの予選中ではあるものの、イベントが終わった後にした方が良い事がどんどん決まっていくのに少しばかり苦笑してしまう。

出来れば景色の良い所に行って強化なんかもしたいなぁと考え始めた時のこと。


――近くで鐘の音が聞こえてきた。


本当に近い。

近接武器の間合いではないものの、それでも遠距離とは言い難い……所謂中距離とでも言い表せばいいだろう距離。

音のした方へと顔を向けてみると、そこには。


「……ふふっ……あはッ!どこかなぁアリアドネちゃァんんんん!?」


そこには鬼が居た。

いや、狼の獣人族ではあるが……鬼のような形相をしたフィッシュが、私の方へと向かって進んできていた。

鼻を頻繁にひくつかせていることから、恐らくは獣人族特有の身体能力によって私がこちらの方に居るのを察知したのだろう。


しかも、何やら彼女は怒っている。

どうしてだろうか、全くその怒りの原因とやらはわからないはずなのに冷や汗が止まらないのは。

まだ見つかってはいないものの、先程聞いた鐘の音が気の所為や空耳でないのなら、フィッシュの近くには他のプレイヤーや、【報せの鐘】が付与されたプレイヤーが居る可能性がある。

そんな中で私の声が呼ばれているということは、だ。


「隙ありッ!」

「ッ?!」


こうして、私にも攻撃を仕掛けてくる奴が出てくるということ。

背後から突然切りかかってきた女性プレイヤーの攻撃を、咄嗟に【血狐】によってダメージを軽減する。

しかしながら何かしらの魔術……私の持つ【衝撃伝達】のような魔術を使っていたのか、私の身体は前によろよろと突き飛ばされてしまう。


そう、フィッシュの方へと。


「……あっ」

「やぁ、アリアドネちゃん」

「おっ、おさらばッ!」

「逃がすかよッ!君はここで狩ってやるッ!!!」


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