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Chapter2 - Episode 29


フィッシュに任せたといっても、彼女が行うのは自衛程度でこちらへと抜けてくるモブは何体かいるだろう。

流石にそれらを他の知らないプレイヤーに擦り付けるのは気が引けるため、そろそろしっかりとした対策をとろうと思う。


足を止め、『白霧の狐面』の霧生成能力と煙管から出てくる霧によって周囲を濃霧で覆っていきつつ。

私は今だ追ってきているモブ達へと視線を向けた。

数は……3。まだギリギリ戦う事が出来るであろう数だ。


1体は私の腰まで程度しか身長がないファンタジーの定番モブ、ゴブリン。

恐らくはあのゴスロリ少女のゴブリンがここまで着いてきたのだろう。索敵能力持ちのため、何とか潰しておかないと後が怖い。


2体目は何やらイニティラビットを巨大化し、人に近づけた……兎人?とでも称すべきモブだ。

二足歩行になったからなのかその速度は煽兎ほど速くはなく、だからこそ私に追いつけていないのだろう。


そして最後の3体目。これが一番問題と言えば問題なのだが……何処かで見たような、白っぽい狐のモブだ。

何やらちょっと灰色がかった霧を纏っているように見えるし、姿形自体もどこかあの狐を思わせる。

もしも『白霧の森狐』を元に生み出されたモブならば、最悪纏っている霧に触れた瞬間どこかへと転移させられる可能性がある。

上空に転移なんてさせられたら、この状況では致命的だろう。


……近づかないで倒すか、それとも近づいて倒すのかの2択かなぁ。

とりあえず立ち止まってしっかりと身体を向ける。

きちんと確かめたわけではないが、どうせ物理攻撃は【血狐】を纏っている間は何とかなるのだ。

それならばここで迷う必要はない。

もし空中に転移させられたらその時に対処法を考えればいい。


『熊手』をしっかりと右手で握り込み、『白霧の狐面』を左手で触りながら。

私はこちらへと向かってくるモブ達をしっかりと見据える。

まずは小手調べからだ。


「【ラクエウス】」


霧自体はゴスロリ少女と出会う前に比べたら薄くはなっているものの。

狐面によって自由に霧を生成できるため、そこまで気にする必要はない。

今も触れた端から霧を発生させつつ、身に纏うように周囲の霧の濃度を濃くしていっている。


私が魔術の宣言したと同時、ゴブリンと白っぽい狐は何かに気が付いたように横に跳び。

何も気が付いていないイニティラビット(人)が全ての霧の槍をその身に受けた。

……あの2体はどっちもMP系の索敵持ちかな?しっかりと発動前の魔術を避けられるってことは視えてるか、感じ取ってるかのどっちかなぁ。


【ラクエウス】がしっかりと決まったのはこれが初の為、どうなるのかと思ったが……割としっかり物理的に身体を破壊してくれるようで。

霧の槍が身体中に突き刺さったイニティラビット(人)は血を噴き出しながら走っていた勢いそのままに前へと……こちら側へと倒れながら消えていく。

そしてそれに隠れるようにこちらへと近づいてきていたゴブリンと狐がそれぞれ攻撃を仕掛けてきた。


ゴブリンは何処かから取り出したこん棒を上へと振り上げながら。

狐は鋭い牙が生えた口を大きく開きながら、こちらを倒すために行動していた。


だが、その程度でやられてやるほど私の戦闘経験は浅くない。

私は仮面に触れていた左手を離し、腕に【血狐】を集中的に纏わせてゴブリンの振るうこん棒に当たるように掲げる。ずぶり、という音と共に血の中にこん棒が沈み私の左腕にぶつかったものの衝撃もダメージもほぼ0だ。


それと共に、こちらの首筋を狙って噛みつこうとしている狐に対しては【魔力付与】を発動させ、形状を盾状に変化させることで一撃だけ防ぎ、一瞬だけ動きを強制的に止めさせた。

防いだ時に霧の一部私の身体に触れたものの、特に私の身体が転移しなかったため近接戦闘を行っても問題なさそうだ。

その事実を確かめ、私は心の底からにっこりと笑顔を浮かべた。


タンッと軽く足で地面を踏み鳴らし【衝撃伝達】を発動させ、目の前でこん棒から手を離し何とか私から距離をとろうとしているゴブリンに向かって蹴りを放つ。

命中し、衝撃波を発生させたのをしっかりと確認せず。私はそのまま回し蹴りの要領で身体を捻り、狐の方へと足を踏みつけるように叩きつけた。

こちらは別に魔術を発動させてはいないためダメージは少ないものの、人間の蹴りは元々小型の動物ならば破壊出来てしまう程度には破壊力がある攻撃なのだ。モロに喰らった狐が無事、とは言い難いだろう。


『ギャンッ!』


まるで川で石を投げ跳ねさせる遊びのように。

狐は地面をバウンドしながら弾き飛ばされていく。

……うーん、リアルに近い見た目の動物はやっぱり少しは罪悪感が湧くなぁ。

だが、湧くだけだ。

非情に聞こえるかもしれないが、そもそもこちらの命を狙って襲い掛かってくる相手に対して慈悲を掛けるつもりは全くない。


ゴブリンの方はどうなったかと周囲を見渡してみれば、少し離れた位置で既に光の粒子へと変わっていっているのが見えてしまった。

蹴りによるダメージと、衝撃波による内部へのダメージのダブルパンチでそのままHPを全損したのだろう。

小戦闘終了だ。


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