目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Chapter2 - Episode 25


時は過ぎ、イベント当日。リアルの時間は正午を少しばかり過ぎたあたり。

私は『惑い霧の森』のボスエリアの境内で、装備の確認、簡単な点検を行っていた。


とは言ってもメウラに作ってもらった装備ではなく、私が拵えた魔術言語を扱うための道具などの点検だが。

流石に戦場に羊皮紙をそのまま持っていけるわけもない。

それと同時に、メウラにも知られるわけにはいかないため……私は自身で簡単な装備を作るために生産系のコンテンツに手を出していた。


「……うん、いい感じかな?」


生産系と一括りに言っても、その中の種類は膨大だ。

メウラのように、武具を生産するのに生き甲斐を感じている者も居れば、小物などを作るのに楽しさを見出している者も居る。

金属を扱う者もいれば、生物由来の素材しか扱わない者も居る。


そんな中、私が手を出したのは所謂木工系……木を使って物を作り出す系統の技術だ。

最初は『惑い霧の森』に沢山木が生えてるから木工コレで!という、その道を真剣に歩んでいる人から殴られても仕方ない動機で始めたのだが……これが中々面白く、当日まで約1週間はほぼ全て木工技術の向上に費やしてしまったほどだ。

勿論、合間合間の休憩として『白霧の森狐』との戦闘を挟み、戦闘勘などが鈍らないようにもしていたが。


そうして出来上がった作品のうち、今回のイベントでの使用を考えているものが1つ。

それが今私が手に持っている、全てが木で出来ている煙管だった。

作るのに手間が掛かったものの、その分パーツパーツで分ける事も出来る。


「吸い口もきちんと外せるし、羅宇も歪んでない……雁首と飾りの火皿も問題ないね。よしよし」


これで本当に葉を吸うわけではなく……魔術言語を扱う時のカモフラージュ品として用意したのだ。

羅宇……中心の筒のように中に空間が開いている部分に魔術言語を書き込んだ羊皮紙を入れ、吸い口に付けた口から息を吐くようにMPを操作し補給してやることで、魔術言語が発動する……という一種のお遊び品だ。


だが、『白霧の狐面』のような装備品が存在しているような世界なのだ。

私がこの木製の煙管を使い、魔術のようなものを行使していれば……それを見た相手方もこの煙管が『そういうもの』だと認識する可能性が高い。

もっぱら中に入れる事になるのは『霧の発生』のような、一見自然に煙管を吸っているように見える魔術言語なのだが。


【時間になりました。イベントエリアへと転送を開始します】


時間になったのか通知が空中に出現する。

それを見て周囲に広げていたアイテムをインベントリへと仕舞い、いつも通りの装備だけの姿となった所で私の見ていた景色は暗転した。


一瞬、水のような液体の中に放り込まれた感覚があった後。

すぐに視界が切り替わり、私は何処かの闘技場……その観客席の1席に座っていた。

かなり広いのか、周囲を見渡せば多くのプレイヤーと目が合った。


『あーあー、聞こえていますでしょうか……聞こえてますね?……オーケェイ!どうも、プレイヤーの皆さん!今回のイベント【双魔研鑽の闘技場】に参加してくれてありがとう!参加してない人も生配信って形で見れてるかな?司会を務める運営の木村です!よろしくぅ!』


突然聞こえてきた爆音のアナウンスに、何かと思って中央の闘技場を見てみれば。

そこには1人の男性が、ファンタジーに出てくるような『まほうつかい』のコスプレをして立っていた。

それと共に、空中に彼の姿を映したディスプレイのような物が展開される。

……あれもしかして魔術かな。創ろうと思えば創れそうだ。


『さて!先にシステムメッセージで送っておいた通り、今回第1回となるイベントの内容はバトルロイヤルアーンドトーナメント!この後参加者それぞれが別のエリア……広い闘技場に転送され、上位2名になるまで全員で戦ってもらう!』


彼が腕を振るうと、彼を投影しているディスプレイの他にルール説明用のウィンドウが手元に出現する。

周りを見れば、全員の手元に出現させているようだ。中々に手間が掛かる事を……とは思うものの、後からルールを聞いていない!と言われないようにするための措置だろう。


『なんとありがたいことに、今回参加してくれるプレイヤー数は12573人!流石に50人だなんだって言ってる余裕がないくらいには参加してくれてありがとう!申し訳ないが、バトルロイヤルの1グループごとの人数を増やさせてもらった!1グループ約200人の、合計63グループだ!つまり本戦トーナメントには126人のプレイヤーが進める、というわけだね』


中々に大人数が参加するイベントになったようだ。

1週間前に約250人ほどしか参加申請をしていなかったのが不思議なくらいには。

まぁこういうイベントには私のようにノリや勢いで参加するプレイヤーの方が大多数だろう。そうして膨れ上がったのがこの人数、というわけだ。


『相も変わらず、時間に関しては安心してほしい!いつものようにゲーム内の時間を加速させてるから、リアルがちょっと忙しい人も大丈夫!こっちの想定だと、リアル時間3時間以内には終わるとは思ってるから!』


木村のその言葉に、周囲から安堵したかのような声が聞こえてきた。

一応開催は休日ではあるのだが……それでもやはり忙しい人はいるようだ。

毎日を怠惰に暮らしている私も少しは見習った方がいいだろうか。


『よし、では早速バトルロイヤルを始めていこう!それぞれの闘技場に転送されてから20秒は誰も手が出せないようにシステム的にロックしてあるから、自分の戦いたい相手なんかを探し出したり、魔術の準備をするといい!では、イベント【双魔研鑽の闘技場】……スタートだ!』


観客席が歓声に包まれる。

直後、私の視界は再び暗転し……私の戦場である闘技場へと転送された。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?