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Chapter2 - Episode 24


その後部屋に戻り、私はイベント用に大きく分けて3種類の魔術言語を書いた羊皮紙を用意した。


1つは『霧の発生』。

これに関しては、『白霧の狐面』を使わずとも霧を発生させられるようにするためのもの。

それと、私の装備している狐面がただのアクセサリーだと誤認させる目的もあったりする。


2つ目は『火を熾す』。

MPを流すと、その量だけ火を発生させるというキャンプなんかで役に立ちそうな魔術言語だ。

しかもそこまで殺傷能力もなく、間違って火に触れてしまってもぬるま湯程度の温度しか感じないという優れもの。入門書に例として載っていたものをそのまま写しとっただけである。


これは霧を発生させた後に地面にばら撒いて相手に踏ませて、バフや消費型の魔術を打ち消すのに使用する……所謂トラップだ。


そして3つ目は『水球の発生・射出』。

水球を『発生』させ『射出』するという2種類の魔術言語を組み合わせているため、MPの消費自体は激しいものの、その分遠距離攻撃が出来るようになるため必要だと考え用意した。

一応これをメインの攻撃手段として使っていれば、私が後衛系のプレイヤーだと勘違いして突っ込んでくる相手もいるかな……という淡い期待もあったりなかったり。


「あ、そういえばイベントの詳細って出たのかな……魔術言語の勉強とかしてたから通知碌に見れてないや」


そう思い、通知ログを見てみると……何件か知り合いからのメッセージや運営かららしきシステムメッセージを受信している事が分かった。

とりあえず知り合い達には生存報告を送っておき、システムメッセージに目を通す。


「闘技場内でプレイヤー50人前後によるバトルロイヤル……その中でも残った2人が本戦出場。人数によって変動するけど、現状だと5グループは確実に組まれるのねー」


メッセージの最後にイベント参加申請用のフォームがあったため送っておく。

これで当日にログインしていれば問題なくイベントに参加できるはずだ。

イベントまで残り1週間ほど。


この間に私がやることと言えば……単純に魔術の強化用の素材集めが主になるだろう。

それに加え、魔術言語を扱えるようになったからこそやりたいことが1つある。

【白紙の魔導書】、そこに書かれている魔術言語らしきものを書き換えることが出来るかどうかを試しておきたいのだ。


しかしながら流石に現状習得している魔術で試して変な事になるのは嫌なため……私は1つ新しい魔術を創ることにした。

習得限界数にはまだまだ余裕があるし、どうせ実験用の魔術はいずれ創ろうと考えていたのだ。


「【創魔】」


私は『霧鮫の霧発器官』を素材として選択し、【創魔】を発動させる。

そしてそのまま適当に……【霧術の魔導書】、【発声行使】、【補助行使】、『表皮に沿って』を選択し、そのまま魔術を創造した。

結果出来たのは、こんな魔術だ。


――――――――――

【実験用1】

種別:霧術・補助

等級:初級

行使:発声

効果:MPを消費した分だけ霧を発生させる

――――――――――


名称も味気なく、効果自体も『白霧の狐面』や魔術言語で代用できる程度のもの。

だが実験用だからこそこれくらいシンプルな方が効果が分かりやすいのだ。

迷いなくそのまま等級強化を選択してみる。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【実験用1】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『霧霊狐の霧発器官』、『霧霊狐の血液』が規定数必要となります……規定数確認】

【【実験用1】の強化を開始します】


どうやら素材に関しても足りていたようで……何やらボス素材が要求されているものの、問題なく等級強化に進むことが出来た。


「よーし、それじゃあ色々と弄ってみようかな」


目の前に開いた状態で出現している【霧術の魔導書】に目を向ける。

初めは何が書かれているのか全くもって分からなかった魔導書のページも、こうして魔術言語を理解し扱えるようになった後だと、見方もまた違ってくる。

……成程、名称自体はこの魔術の起動用のスイッチみたいなものになってるんだ。


結果として分かったことは、【実験用1】という魔術名称を起点にして魔術言語にMPを流すという……一種の回路のような状態になっていること。

恐らくは【発声行使】を選んだためだろう。


これの何処かを弄るならば、全体の調整を行わないとしっかりと魔術が発動できなくなってしまう。

だが、今回はむしろ発動できなくなっても良いようにわざわざ【実験用1】という名前を付けてまで魔術を創ったのだ。

これが今後の役に立つと信じて、私は羽ペンを握る。


「まずは一旦名前を消そう。下手に発動されると困るし」


魔術言語を扱えるようになったからなのか、血色で書かれたその文字の消し方はなんとなくで理解出来ていた。

魔術言語を扱う時のようにMPを流さずに、逆にその文字からMPを吸い上げるように指を這わせる。

すると、何かがすぅ……と指先から身体の中に入ってこようとして空中に消えていくような感覚が指先から伝わったと思えば、魔導書の方の魔術言語が消えていった。


【警告:名称未設定の状態では等級強化を完了することはできません】

【名称を設定してください】


どうやらこれで方法としては合っているらしい。

警告も出ているが私の行動を止めるようにとは出ていないため、そのまま続けて魔術言語を読んでいく。

次に弄るのは『効果』の部分だ。

『魔力を消費した分だけ霧を発生させる』と書かれているそれを、思い切って『任意の動物の形をした霧を発生させる』と書き換えてみる。

イメージは【血狐】の霧バージョンだ。


特に警告されることなくそのまま書き込むことが出来たため、そのまま空白部分に発生させた動物型の霧の挙動を出来る限り詳細に書いておく。

『発動者の命令を聞く』、『発動者のイメージに沿ってその形を変える』、『HP=消費した魔力×5』などと、出来る限り【血狐】に近づけるように好き勝手書いていき、最終的に名称を【霧狐】と変えてみる。


【【霧狐】へと名称が変更されました】

【魔術効果が変更されました……一部承認】

【一部効果を書き換えました】

【魔術効果変更に伴い、インベントリ内から『霧霊狐の霧発器官』、『霧霊狐の血液』、『霧霊狐の毛皮』、『霧鮫の霧発器官』、『霧鷲の羽』、『霧鼠の毛皮』、『霧狼の毛皮』を消費しました】

【【霧狐】の等級強化に必要な適合アイテムが足りません】

【等級強化を終了します】


すると、等級強化が終了し手に持っていた【追記の羽ペン】も光となって消えていった。


――――――――――

【霧狐】

種別:霧術・補助・特殊

等級:初級

行使:発声

制限:【霧のない場所では行使できない】

効果:MPを最大値の20%消費し、霧で出来た魔導生成物を出現させる

   出現させる魔導生成物の見た目はイメージによって変化可能現実に存在する動物のみ可能


『魔導生成物』

HP:(消費したMP量×2)

攻撃能力:なし

補助能力:霧の操作能力、霧内の敵対者を探知

能力:物理的な攻撃無効

――――――――――


「成功、かな?」


制限が付いてしまっていたり、私が書いた部分が書き換えられていたりと少し違う部分もあるものの。

概ねそれらしいものが出来た。

そしてこの方法による魔術効果の書き換えのデメリットも知ることが出来た。

……結構持っていかれたなぁ、素材。


普通に魔術を創るよりも消費された素材量が多い。

それも各1つなどではなく、それぞれ複数個。『霧霊狐の霧発器官』なんて十数個あったはずなのにインベントリ内に残っていない。

そんな消費で出来たのがこの魔術、と考えると……この方法によって既存の魔術の効果を書き換えるのは割りに合わないと暗に伝えてきているのだろう。


それに、想定していたよりもMPの消費量が多くなっている。

【血狐】をベースに考えて消費量を書き込んだにしては、そのベースよりも消費が多い。

これもデメリットの1つだろう。


だが、これで魔術言語によって魔導書の言語が弄れることが分かったため……今後はもっと上手く、そして好きなように魔術を創ることが出来そうだ。

こうして、私のイベント前準備の一歩目は踏み出された。


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